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3章

23. 明かされる前世の記憶

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(やっぱり! やっぱり! やっぱり! やっぱりシュリは千宮司さんだった!!)

 ローズの頭の中でファンファーレが鳴り響き、大きな薬玉がぱっか~んと割れて紙吹雪が舞い散る。

「千宮司さん、千宮司さん、千宮司さん!!」

 ローズは夢中になって、その名を呼ぶ。
 懐かしい、慕わしい人。
 もう一度会えるなんて思わなかった。しかもその人は、今や両想いの――恋人。
 
 恋人、という言葉を思い浮かべた途端、ローズの胸の動悸が一層早くなった。

(恋人って言っていいのよね?……。恋人……恋人……!!)

 カアッと、顔に血が上るのを感じ、ローズは顔も耳も首まで、熱くなった。
 
(ああ……信じられない! 私にこんな日が来るなんて! この愛しい人は、シュリな上に千宮司さんのよ?! シュリであって千宮司さん、シュリおまけに千宮司さん、シュリ&千宮司さん、これが一粒で二度美味しいってやつなの?!)

 多分違う。いや、そうかもしれない。

「シュリ……千宮司さん、千宮司さん! 千宮司さん!!」

「はい、うん、何ですか、木下ローズ様、……蕾さん」

 照れ笑いを浮かべながら、茶目っ気たっぷりにそう言ったシュリを見て、ローズの目に涙が盛り上がってくる。恥じらいも何もかも投げ捨て、ローズはシュリに抱きついて叫んだ。

「ずっとずっと、話がしたかった! どうして黙ってたの、どうして教えてくれなかったの、どうして、いつ死んじゃったの、どうして、どうして……っ!」

 上擦る声で次々と質問を投げかけ、ローズはシュリを見上げる。彼は愛し気にローズを見つめ返した。

「うん……一つずつ。まず黙っていたことに、悪意はない。もし俺が……千宮司だったと知れば、君は……男性恐怖症だった蕾さんが、俺を避けてしまうんじゃないかって、不安だった。だからシュリとしての俺が、君からの確固とした信頼を得るまで、伏せておこうと思ったんだ。そうしている間に何となく、打ち明けるタイミングを逃してしまって……。正直、君がドラ〇もんの話を振って来たときは……」

 まだ途中のシュリの話を遮って、ローズは驚きの声を上げた。

「えっ……、千宮司さん、私が……蕾が男性恐怖症だって、知ってたの?!」

「そりゃあ、わかるよ。ちょっとでも近づけば逃げるし、話しかけるたびに目が泳いでて、体も声も震えてて、オドオドビクビクしてただろ。いったいどうしてなんだろう、って不思議に思って君や周囲を観察しているうちに……わかった。
 人は異質な人間を排除しようとする。その排除対象になった君は、きっと散々ひどい目にあってきたんだろう、その結果、君は人と関わることに恐怖を覚えるようになったんだろうと、そう思った。特に男は君の容姿をからかったり酷い言葉を浴びせたりするから、ひときわ避けるようになったんだろう、ってね」

「うん……うん」

「でも俺にとって君の異質さは、まるごと新鮮な個性だった。君みたいな女性は、初めて見た。積極的に俺に近づいてくる女性たちとは、まるで違う。だから興味を持って君を見てるうちに……気付いたんだ。君がこっそり実行していた善行を。休憩室の掃除に観葉植物の世話……誰も見ていないのに、廊下に落ちてるゴミを拾ったこともあったね。君の死角にいた俺は、感動してしばらくこっそり君を尾行したりもしたんだぜ……ハハハ」

「ええええっ?!」

 驚くローズに、シュリはきまり悪そうに照れ笑いを浮かべて言った。

「だって声を掛ければ、君は逃げるだろう? 最初の頃は驚かさないように息をひそめて、そっと見てるしかなかった」

 私は保護対象の野生動物か何か?とローズは心の中で独り言ちる。
 複雑な表情を浮かべたローズに微笑みかけ、シュリは話を続けた。

「そのうち、チャンスが訪れた。君がメモを落として一目散に駆けて行ったときだ」

 ああ――うん、あのときね、とローズは頷き、明るい口調で話を続けるシュリの声に耳を傾けた。

「嬉しかったな。初めてちゃんと、話ができた」

 さしずめ野生動物とのファーストコンタクト……じゃなくて!と、ローズは心の中に浮かんだ独り言を脇において、シュリにあのときのことを尋ねた。

「千宮司さん、あのメモ、全部読んだの?」

「うん。全部読んだ。君に返す前に」

(やっぱりぃ!!)

 シュリは何か思い出したのか、茶目っ気のある表情を浮かべて楽しそうに言った。

「あのメモ、持って帰って俺の宝物にしたかったけど、思い留まった。なかったら君、すごく困るだろうと思って」

「た、宝物?! あの100均で買ったのちに酷使してボロボロになったメモ帳が?!」

「だって俺はもうあのときには、君に恋してたんだから。君の文字がびっしり詰まったメモ帳なら、ボロボロだろうとお宝だ」

「!!」

 照れ笑いを浮かべ、まさかの直球を放ったシュリを、ローズは言葉もなく見つめた。
 今この瞬間、天と地がひっくり返ったとしても、ローズはこれほど驚かなかっただろう。シュリの口から出たあまりの衝撃的発言に、ローズの足がガクガクする。

「う、嘘……あのときから? 千宮司さんは、つ、つ、つ、蕾を?!」

 シュリは嘘をついていない。その証拠に例の頭痛は一度も起こってない。ローズは分かっていて、訊き返したのだ。

「うん……ホラ、雨の日の屋上で、俺を慰めてくれたことあっただろ、俺あのとき、交際を申し込んだつもりだったんだけど……君には通じなかった。後日改めてトライしようとした矢先……」

 シュリは一度言葉を呑みこみ、しばらく悲痛な顔で黙り込んだ。――そして、震える声で言った。

「君が死んだと――しらせを受けた」
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