55 / 68
3章
23. 明かされる前世の記憶
しおりを挟む
(やっぱり! やっぱり! やっぱり! やっぱりシュリは千宮司さんだった!!)
ローズの頭の中でファンファーレが鳴り響き、大きな薬玉がぱっか~んと割れて紙吹雪が舞い散る。
「千宮司さん、千宮司さん、千宮司さん!!」
ローズは夢中になって、その名を呼ぶ。
懐かしい、慕わしい人。
もう一度会えるなんて思わなかった。しかもその人は、今や両想いの――恋人。
恋人、という言葉を思い浮かべた途端、ローズの胸の動悸が一層早くなった。
(恋人って言っていいのよね?……。恋人……恋人……!!)
カアッと、顔に血が上るのを感じ、ローズは顔も耳も首まで、熱くなった。
(ああ……信じられない! 私にこんな日が来るなんて! この愛しい人は、シュリな上に千宮司さんのよ?! シュリであって千宮司さん、シュリおまけに千宮司さん、シュリ&千宮司さん、これが一粒で二度美味しいってやつなの?!)
多分違う。いや、そうかもしれない。
「シュリ……千宮司さん、千宮司さん! 千宮司さん!!」
「はい、うん、何ですか、木下ローズ様、……蕾さん」
照れ笑いを浮かべながら、茶目っ気たっぷりにそう言ったシュリを見て、ローズの目に涙が盛り上がってくる。恥じらいも何もかも投げ捨て、ローズはシュリに抱きついて叫んだ。
「ずっとずっと、話がしたかった! どうして黙ってたの、どうして教えてくれなかったの、どうして、いつ死んじゃったの、どうして、どうして……っ!」
上擦る声で次々と質問を投げかけ、ローズはシュリを見上げる。彼は愛し気にローズを見つめ返した。
「うん……一つずつ。まず黙っていたことに、悪意はない。もし俺が……千宮司だったと知れば、君は……男性恐怖症だった蕾さんが、俺を避けてしまうんじゃないかって、不安だった。だからシュリとしての俺が、君からの確固とした信頼を得るまで、伏せておこうと思ったんだ。そうしている間に何となく、打ち明けるタイミングを逃してしまって……。正直、君がドラ〇もんの話を振って来たときは……」
まだ途中のシュリの話を遮って、ローズは驚きの声を上げた。
「えっ……、千宮司さん、私が……蕾が男性恐怖症だって、知ってたの?!」
「そりゃあ、わかるよ。ちょっとでも近づけば逃げるし、話しかけるたびに目が泳いでて、体も声も震えてて、オドオドビクビクしてただろ。いったいどうしてなんだろう、って不思議に思って君や周囲を観察しているうちに……わかった。
人は異質な人間を排除しようとする。その排除対象になった君は、きっと散々ひどい目にあってきたんだろう、その結果、君は人と関わることに恐怖を覚えるようになったんだろうと、そう思った。特に男は君の容姿をからかったり酷い言葉を浴びせたりするから、ひときわ避けるようになったんだろう、ってね」
「うん……うん」
「でも俺にとって君の異質さは、まるごと新鮮な個性だった。君みたいな女性は、初めて見た。積極的に俺に近づいてくる女性たちとは、まるで違う。だから興味を持って君を見てるうちに……気付いたんだ。君がこっそり実行していた善行を。休憩室の掃除に観葉植物の世話……誰も見ていないのに、廊下に落ちてるゴミを拾ったこともあったね。君の死角にいた俺は、感動してしばらくこっそり君を尾行したりもしたんだぜ……ハハハ」
「ええええっ?!」
驚くローズに、シュリはきまり悪そうに照れ笑いを浮かべて言った。
「だって声を掛ければ、君は逃げるだろう? 最初の頃は驚かさないように息をひそめて、そっと見てるしかなかった」
私は保護対象の野生動物か何か?とローズは心の中で独り言ちる。
複雑な表情を浮かべたローズに微笑みかけ、シュリは話を続けた。
「そのうち、チャンスが訪れた。君がメモを落として一目散に駆けて行ったときだ」
ああ――うん、あのときね、とローズは頷き、明るい口調で話を続けるシュリの声に耳を傾けた。
「嬉しかったな。初めてちゃんと、話ができた」
さしずめ野生動物とのファーストコンタクト……じゃなくて!と、ローズは心の中に浮かんだ独り言を脇において、シュリにあのときのことを尋ねた。
「千宮司さん、あのメモ、全部読んだの?」
「うん。全部読んだ。君に返す前に」
(やっぱりぃ!!)
シュリは何か思い出したのか、茶目っ気のある表情を浮かべて楽しそうに言った。
「あのメモ、持って帰って俺の宝物にしたかったけど、思い留まった。なかったら君、すごく困るだろうと思って」
「た、宝物?! あの100均で買ったのちに酷使してボロボロになったメモ帳が?!」
「だって俺はもうあのときには、君に恋してたんだから。君の文字がびっしり詰まったメモ帳なら、ボロボロだろうとお宝だ」
「!!」
照れ笑いを浮かべ、まさかの直球を放ったシュリを、ローズは言葉もなく見つめた。
今この瞬間、天と地がひっくり返ったとしても、ローズはこれほど驚かなかっただろう。シュリの口から出たあまりの衝撃的発言に、ローズの足がガクガクする。
「う、嘘……あのときから? 千宮司さんは、つ、つ、つ、蕾を?!」
シュリは嘘をついていない。その証拠に例の頭痛は一度も起こってない。ローズは分かっていて、訊き返したのだ。
「うん……ホラ、雨の日の屋上で、俺を慰めてくれたことあっただろ、俺あのとき、交際を申し込んだつもりだったんだけど……君には通じなかった。後日改めてトライしようとした矢先……」
シュリは一度言葉を呑みこみ、しばらく悲痛な顔で黙り込んだ。――そして、震える声で言った。
「君が死んだと――報せを受けた」
ローズの頭の中でファンファーレが鳴り響き、大きな薬玉がぱっか~んと割れて紙吹雪が舞い散る。
「千宮司さん、千宮司さん、千宮司さん!!」
ローズは夢中になって、その名を呼ぶ。
懐かしい、慕わしい人。
もう一度会えるなんて思わなかった。しかもその人は、今や両想いの――恋人。
恋人、という言葉を思い浮かべた途端、ローズの胸の動悸が一層早くなった。
(恋人って言っていいのよね?……。恋人……恋人……!!)
カアッと、顔に血が上るのを感じ、ローズは顔も耳も首まで、熱くなった。
(ああ……信じられない! 私にこんな日が来るなんて! この愛しい人は、シュリな上に千宮司さんのよ?! シュリであって千宮司さん、シュリおまけに千宮司さん、シュリ&千宮司さん、これが一粒で二度美味しいってやつなの?!)
多分違う。いや、そうかもしれない。
「シュリ……千宮司さん、千宮司さん! 千宮司さん!!」
「はい、うん、何ですか、木下ローズ様、……蕾さん」
照れ笑いを浮かべながら、茶目っ気たっぷりにそう言ったシュリを見て、ローズの目に涙が盛り上がってくる。恥じらいも何もかも投げ捨て、ローズはシュリに抱きついて叫んだ。
「ずっとずっと、話がしたかった! どうして黙ってたの、どうして教えてくれなかったの、どうして、いつ死んじゃったの、どうして、どうして……っ!」
上擦る声で次々と質問を投げかけ、ローズはシュリを見上げる。彼は愛し気にローズを見つめ返した。
「うん……一つずつ。まず黙っていたことに、悪意はない。もし俺が……千宮司だったと知れば、君は……男性恐怖症だった蕾さんが、俺を避けてしまうんじゃないかって、不安だった。だからシュリとしての俺が、君からの確固とした信頼を得るまで、伏せておこうと思ったんだ。そうしている間に何となく、打ち明けるタイミングを逃してしまって……。正直、君がドラ〇もんの話を振って来たときは……」
まだ途中のシュリの話を遮って、ローズは驚きの声を上げた。
「えっ……、千宮司さん、私が……蕾が男性恐怖症だって、知ってたの?!」
「そりゃあ、わかるよ。ちょっとでも近づけば逃げるし、話しかけるたびに目が泳いでて、体も声も震えてて、オドオドビクビクしてただろ。いったいどうしてなんだろう、って不思議に思って君や周囲を観察しているうちに……わかった。
人は異質な人間を排除しようとする。その排除対象になった君は、きっと散々ひどい目にあってきたんだろう、その結果、君は人と関わることに恐怖を覚えるようになったんだろうと、そう思った。特に男は君の容姿をからかったり酷い言葉を浴びせたりするから、ひときわ避けるようになったんだろう、ってね」
「うん……うん」
「でも俺にとって君の異質さは、まるごと新鮮な個性だった。君みたいな女性は、初めて見た。積極的に俺に近づいてくる女性たちとは、まるで違う。だから興味を持って君を見てるうちに……気付いたんだ。君がこっそり実行していた善行を。休憩室の掃除に観葉植物の世話……誰も見ていないのに、廊下に落ちてるゴミを拾ったこともあったね。君の死角にいた俺は、感動してしばらくこっそり君を尾行したりもしたんだぜ……ハハハ」
「ええええっ?!」
驚くローズに、シュリはきまり悪そうに照れ笑いを浮かべて言った。
「だって声を掛ければ、君は逃げるだろう? 最初の頃は驚かさないように息をひそめて、そっと見てるしかなかった」
私は保護対象の野生動物か何か?とローズは心の中で独り言ちる。
複雑な表情を浮かべたローズに微笑みかけ、シュリは話を続けた。
「そのうち、チャンスが訪れた。君がメモを落として一目散に駆けて行ったときだ」
ああ――うん、あのときね、とローズは頷き、明るい口調で話を続けるシュリの声に耳を傾けた。
「嬉しかったな。初めてちゃんと、話ができた」
さしずめ野生動物とのファーストコンタクト……じゃなくて!と、ローズは心の中に浮かんだ独り言を脇において、シュリにあのときのことを尋ねた。
「千宮司さん、あのメモ、全部読んだの?」
「うん。全部読んだ。君に返す前に」
(やっぱりぃ!!)
シュリは何か思い出したのか、茶目っ気のある表情を浮かべて楽しそうに言った。
「あのメモ、持って帰って俺の宝物にしたかったけど、思い留まった。なかったら君、すごく困るだろうと思って」
「た、宝物?! あの100均で買ったのちに酷使してボロボロになったメモ帳が?!」
「だって俺はもうあのときには、君に恋してたんだから。君の文字がびっしり詰まったメモ帳なら、ボロボロだろうとお宝だ」
「!!」
照れ笑いを浮かべ、まさかの直球を放ったシュリを、ローズは言葉もなく見つめた。
今この瞬間、天と地がひっくり返ったとしても、ローズはこれほど驚かなかっただろう。シュリの口から出たあまりの衝撃的発言に、ローズの足がガクガクする。
「う、嘘……あのときから? 千宮司さんは、つ、つ、つ、蕾を?!」
シュリは嘘をついていない。その証拠に例の頭痛は一度も起こってない。ローズは分かっていて、訊き返したのだ。
「うん……ホラ、雨の日の屋上で、俺を慰めてくれたことあっただろ、俺あのとき、交際を申し込んだつもりだったんだけど……君には通じなかった。後日改めてトライしようとした矢先……」
シュリは一度言葉を呑みこみ、しばらく悲痛な顔で黙り込んだ。――そして、震える声で言った。
「君が死んだと――報せを受けた」
0
お気に入りに追加
1,324
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる