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3章
15. 光の湿原
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「奇跡の薬」の二つ目の材料を手に入れた一行は、三つ目の材料である「精霊の泉の水」を求めて、南部地方の「光の湿原」に来ていた。
「光の湿原」には、無数に泉がある。噂では星の数ほどあるとか。その泉のどれかに精霊が棲んでいて、その精霊の守る泉の水は奇跡を起こす霊水だという。
シャーロットがいなければ精霊の泉を見つけ出すことは困難を極めただろうが、彼女の血に刻まれた「勇者センサー」というか「勇者コンパス」というか、その不思議な特殊能力は足元の悪い地域を器用に避けつつ、的確に目的の泉に向かって一行を導いていた。
「光の湿原」はとても美しいところだ。可憐な花が咲き乱れ、泉が鏡のように空の青を映し出す。時折鹿の家族が遠くを歩いているのが見え、少し離れた場所に美しい大きな鳥が降りたつこともあった。
シュリが言うには危険な獣もいないらしいので、一行はリラックスして自然を楽しんでいた。
シュリといえば――ローズは先日の「ドラ〇もん」発言の一件から、シュリに何らかの変化があることを期待していたが、彼の態度は今までと全く変わらなかった。相変わらずシュリは、ローズを過保護なくらい気遣って、守ることに余念がない。
何とか自然にシュリが千宮司であるという確証を得られないものかと、ローズは歩きながら彼に質問を投げかけてみた。
「シュリは、犬派? 猫派?」
「どっちも好きですね」
「犬を飼ったことある?」
「……あります」
「どんな犬? ひょっとして柴犬?」
「………………」
「シバ……? それ、何ですか、ローズ様?」
前を歩いているシャーロットが、チラッとこちらを振り向いて聞いてくる。ローズが答えようとする前に、後ろを歩いているギルバートが口を挟んできた。
「犬も悪くないが、俺はどちらかといえば猫派だなあ」
ギルバートには訊いてないし。
ローズがそう心の中で呟く中、ギルバートは続けた。
「猫の優雅な貴婦人みたいな気高さが、たまらないね。わがままを聞いて猫の気に入るように振り回されるとこがこう、なんとも幸せというか」
「ギルバートはマゾだな。まあ、気持ちは分からなくもないが。犬か猫か……僕はどちらかといえば馬派だな」
フィリップにも訊いてないし。
ローズは再び、そう心の中で呟いた。
次にシャーロットが口を開く。
「私は……犬も猫も可愛いですが、傍に置きたいのは牛、豚、鶏ですかねぇ……うふふ……」
それ食用だし。
ローズはそうシャーロットにツッコミを入れたくなった。
なんか盛大に話がずれた気がする。ローズがそう思って仕切り直そうとしたとき、シャーロットが「あっ!あれです、あの泉です!精霊のオーラ感が半端ないです!!」と、前方の泉を指さした。
その泉には、特に他の泉と違う雰囲気はなかった。シャーロットに言われなければ気付かずに通り過ぎていただろう。でも彼女がその泉だと言うなら、間違いない。
泉の水を無断で汲むことはできない。精霊の許可なくして、一滴たりとも手に入らないと伝承にあった。
その精霊はイケメン大好きでものすごく派手な外見をしているらしい。
ローズは目の前にいる3人のイケメンに向かって言った。
「では皆さん、計画通り、よろしくお願いします」
「分かった。僕に任せておきたまえ」
「俺に期待していてください、ローズ様」
「……まあ、何とかなるだろう……」
最後に発言したシュリは、やる気満々のフィリップとギルバートを見てポツリと呟き、「シャーロット様、ローズ様をよろしくお願いします」と頭を下げ、ローズに向かって「俺が傍にいない間、軽率な行動に出ないでくださいね。つまずいたり、誰かを突き飛ばして変な生き物を見たりしちゃだめですよ」と釘を刺してから泉に向かった。
「もう、シュリったら、過保護なんだから!」
とまんざら嬉しくなくもない口調でローズは三人を見送った。シャーロットはそんなローズの様子を見て微笑み、二人は近くの茂みの影に隠れて、様子を見守った。
イケメン三人は泉に近づいて、布をかぶせた大きな荷物を傍らに置いた。準備が整い、フィリップが泉に向かって高らかに言い放つ。
「美しき泉の精霊よ、どうか僕たちの前に姿を現してください!」
ややあって、ザバァッと、垂直の水の柱が出現し、何やらキラキラした光を伴って精霊が現われた。
「!!」
その姿を見て、ローズは吹いた。
ローズは「泉の精霊」と言うからにはボッティチェリのヴィーナスとか、「金の斧」の物語にでてくる泉の女神みたいな外見を想像していたのだ。
けれど泉から出てきたのは、紫と赤と黄色のド派手な衣装に身を包んだ――オネエだった。
「光の湿原」には、無数に泉がある。噂では星の数ほどあるとか。その泉のどれかに精霊が棲んでいて、その精霊の守る泉の水は奇跡を起こす霊水だという。
シャーロットがいなければ精霊の泉を見つけ出すことは困難を極めただろうが、彼女の血に刻まれた「勇者センサー」というか「勇者コンパス」というか、その不思議な特殊能力は足元の悪い地域を器用に避けつつ、的確に目的の泉に向かって一行を導いていた。
「光の湿原」はとても美しいところだ。可憐な花が咲き乱れ、泉が鏡のように空の青を映し出す。時折鹿の家族が遠くを歩いているのが見え、少し離れた場所に美しい大きな鳥が降りたつこともあった。
シュリが言うには危険な獣もいないらしいので、一行はリラックスして自然を楽しんでいた。
シュリといえば――ローズは先日の「ドラ〇もん」発言の一件から、シュリに何らかの変化があることを期待していたが、彼の態度は今までと全く変わらなかった。相変わらずシュリは、ローズを過保護なくらい気遣って、守ることに余念がない。
何とか自然にシュリが千宮司であるという確証を得られないものかと、ローズは歩きながら彼に質問を投げかけてみた。
「シュリは、犬派? 猫派?」
「どっちも好きですね」
「犬を飼ったことある?」
「……あります」
「どんな犬? ひょっとして柴犬?」
「………………」
「シバ……? それ、何ですか、ローズ様?」
前を歩いているシャーロットが、チラッとこちらを振り向いて聞いてくる。ローズが答えようとする前に、後ろを歩いているギルバートが口を挟んできた。
「犬も悪くないが、俺はどちらかといえば猫派だなあ」
ギルバートには訊いてないし。
ローズがそう心の中で呟く中、ギルバートは続けた。
「猫の優雅な貴婦人みたいな気高さが、たまらないね。わがままを聞いて猫の気に入るように振り回されるとこがこう、なんとも幸せというか」
「ギルバートはマゾだな。まあ、気持ちは分からなくもないが。犬か猫か……僕はどちらかといえば馬派だな」
フィリップにも訊いてないし。
ローズは再び、そう心の中で呟いた。
次にシャーロットが口を開く。
「私は……犬も猫も可愛いですが、傍に置きたいのは牛、豚、鶏ですかねぇ……うふふ……」
それ食用だし。
ローズはそうシャーロットにツッコミを入れたくなった。
なんか盛大に話がずれた気がする。ローズがそう思って仕切り直そうとしたとき、シャーロットが「あっ!あれです、あの泉です!精霊のオーラ感が半端ないです!!」と、前方の泉を指さした。
その泉には、特に他の泉と違う雰囲気はなかった。シャーロットに言われなければ気付かずに通り過ぎていただろう。でも彼女がその泉だと言うなら、間違いない。
泉の水を無断で汲むことはできない。精霊の許可なくして、一滴たりとも手に入らないと伝承にあった。
その精霊はイケメン大好きでものすごく派手な外見をしているらしい。
ローズは目の前にいる3人のイケメンに向かって言った。
「では皆さん、計画通り、よろしくお願いします」
「分かった。僕に任せておきたまえ」
「俺に期待していてください、ローズ様」
「……まあ、何とかなるだろう……」
最後に発言したシュリは、やる気満々のフィリップとギルバートを見てポツリと呟き、「シャーロット様、ローズ様をよろしくお願いします」と頭を下げ、ローズに向かって「俺が傍にいない間、軽率な行動に出ないでくださいね。つまずいたり、誰かを突き飛ばして変な生き物を見たりしちゃだめですよ」と釘を刺してから泉に向かった。
「もう、シュリったら、過保護なんだから!」
とまんざら嬉しくなくもない口調でローズは三人を見送った。シャーロットはそんなローズの様子を見て微笑み、二人は近くの茂みの影に隠れて、様子を見守った。
イケメン三人は泉に近づいて、布をかぶせた大きな荷物を傍らに置いた。準備が整い、フィリップが泉に向かって高らかに言い放つ。
「美しき泉の精霊よ、どうか僕たちの前に姿を現してください!」
ややあって、ザバァッと、垂直の水の柱が出現し、何やらキラキラした光を伴って精霊が現われた。
「!!」
その姿を見て、ローズは吹いた。
ローズは「泉の精霊」と言うからにはボッティチェリのヴィーナスとか、「金の斧」の物語にでてくる泉の女神みたいな外見を想像していたのだ。
けれど泉から出てきたのは、紫と赤と黄色のド派手な衣装に身を包んだ――オネエだった。
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