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2章

6. 競馬祭

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 ローズとシャーロットの二人が競馬祭会場に姿を現した途端、周囲は騒然となった。

「ローズ様とご一緒されている令嬢は、どなたなの? なんて可愛らしい方」
「見て、お二人のあの衣装! 草原の緑に映えるどころか、緑を明るく照らして輝いていますわ。ところでローズ様のお隣にいらっしゃるのは、どちらのご令嬢ですの?」
「ほんと、見たことのない方ね。外国からのお客様かしら。あのローズ様のお隣で見劣りしない方なんて、初めてよ」
「あの方……どこかで…………」
「……えっ?! まさか、オルコット家のシャーロット?!」
「嘘っ、嘘でしょ?! あの貧乏で森育ちのシャーロットなの?!」

 そんなひそひそ声が、あちこちから聞こえてくる。
 ローズは「どやぁぁぁぁぁぁぁ!!」と鼻息荒く胸を張った。
 どうよ、皆の者、シャーロットがどれほど可憐な令嬢か思い知ったか。
 人は美しい者に無条件で憧れ好意を抱く。同性であれば同時に嫉妬の嵐も渦巻くが、今やローズの後ろ盾でがっちり守られたシャーロットに、表だって手出しをする者はいないだろう。

(さて、問題はこれからどうやって、シャーロットの心の美しさを周囲に知らしめるか、よね……。彼女が王妃に相応しいことを、貴族たちに認めさせる必要があるわ)

 ローズがそう頭を悩ませていると、レジナルド王太子とフィリップ王子が近付いてきた。レジナルドはシャーロットの装いを見て頬を紅潮させている。よしよし予定通り、とローズが心の中で頷いていると、フィリップ王子が分かりやすい感情丸出しの笑顔で突進してきた。

「おお、なんて美しいのだ、僕のローズ!! 草原の緑の中 光り輝くあなたのまばゆさに、僕の目は潰れてしまいそうだ!」

 あら、それは大変。しばらくあっちの隅にある馬小屋の馬糞でも眺めてらしたら?――などと言えたらさぞかしすっきりするだろう、とローズは思ったが、レディらしく「フィリップ殿下はお上手ですこと」と言うに留めた。

 競馬祭は滞りなく開催され、ローズは王子二人と共に、シャーロットを方々の貴族に紹介した。どの貴族に紹介するときも、シャーロットと懇意にしていることを匂わせながら。
 やがて昼食時間となり、王家のテントの中で四人は共に食事を摂った。そしてひとしきり休憩したあと、フィリップがシャーロットに声を掛けた。

「シャーロット、君がさっき綺麗だと感心していた白馬に触らせてあげるよ。さあ、一緒に行こう。ローズ、兄上、ちょっと失礼するよ」

 誘われたシャーロットはレジナルドの許可を得るように視線を移した。王太子はシャーロットに柔らかく微笑むと「行っておいで」と促す。
 二人を笑顔で見送りながら、ローズは何やら、陰謀クサイな……と思った。
 
「そうだよ、ローズ。あなたと二人で話がしたかったので、フィリップたちに席を外してもらった」

 レジナルドはそう言って怪しげな微笑を浮かべた。
 うわっ、とローズは思った。リアルレジナルドのこういうところ、苦手なのよね……と。
 ゲームの中のレジナルドは、影があって一筋縄ではいかないところが魅力的なキャラだったけど、実際そういう人物と相対していると、心が休まらない。どうしてシャーロットは平気なのかしら……とローズは疑問に思い、ふと、さっきシャーロットに向けたレジナルドの柔らかい微笑が頭に浮かんだ。ローズには、決して見せたことのない表情だった。つまり、そういうことだ。シャーロットはローズの知らないレジナルドの一面を知っているのだ。
 とにかく今は、苦手なレジナルドを上手くあしらわなければいけない。 
 ローズは気を引き締めて、レジナルドに向き合った。
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