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1章 降り立った地
プロローグ
しおりを挟むライトノベル、ラノベと呼ばれる小説を読んだことのある人は誰しもが1度は思うであろう────「異世界に行きたい」と。
ただし、それは叶わない。何故なら異世界は存在しないから。物語だけの話だから。
大半の人はそういう現実を知り、「異世界に行きたい」などというメルヘンな妄想を辞める事となるだろう。所産は夢物語だと。叶うはずのないおおそれた妄想だろう、と。
だが、もし。もし、その夢物語が現実となったなら、どうなるのだろうか─────
俺こと葛城 白夜は今、全く見覚えのない場所にいる。まあ、壁も床も天井もない、真っ白な空間なんて誰も来た事がないだろうが。
周りには俺の他にも辺りをキョロキョロと見回す人達が大勢……300人程いる。年齢、性別も別々で、一貫性がない。彼らも、俺と同じく目が覚めるとこの場所にいたのだろうか。
…………もう限界。冷静に判断しようとつらつらと物語調に脳内で語ったが、流石にこれ以上は無理だ。
スゥッーーーーー……どこだよここ!?
なんでこんなとこにいるんだ!?俺は、確かコンビニで大量のお菓子と太陽充電できるスマホ充電器を買いに行って家に帰るところだった筈だ!あ、ちなみにスマホ充電器を買ったのは、家の充電器がたまたま壊れたからである。
って、そんな事はどうでもいい。大事なのは何故急にこんな場所で目が覚めたのかという事。
混乱しながらも状況を整理しようとしていると、どこからか優しそうな女性の声が聞こえた。
『突然このような場所に呼び出してしまい申し訳ありません』
申し訳ないとか言っているが、あまり申し訳なさそうに聞こえない口調である。
「誰だ!?」
皆が戸惑う中、突然目の前に超絶をつけても足りないぐらいの絶世の美女が現れた。
その美しすぎる容姿に、男女問わず目を奪われる。
かく言う俺も目を奪われすぎて意識が飛びかけた。だが、なけなしの精神力でなんとか持ち堪える。
『貴方たちをここに呼んだのには理由があります。異世界に行って貰いたいのです』
その言葉を聞いた彼等の反応は様々だった。目を輝かせニヤリと笑う者、嘘だと言わんばかりに警戒する者、不安そうにする者、そもそも話を聞いていない者。流石に、話を理解していない者は居ないようだ。聞いてすらいない者は別だが。
その中でも俺の反応は、警戒する者の中に入っていた。何故か。
胡散臭いからである。確かに異世界に行ってみたいと思った事はあるし、妄想した事もある。だが、現実でそんな事は有り得ない事はわかっている。しかし、この場所にこの状況。明らかに異世界系の小説と同じ展開だ。
あながち嘘ではないのかもしれない。
『どういう事か説明しますね。まず、言っておきたいのは、本来なら貴方達は死んでいます。正確には、ここに連れて来られる直前の時間から10分後に』
どよめきが広がる。そりゃそうだろう。いきなり「君達は死んでるんだよ」なんて言われて動揺しない人なんて居ないだろうからな。
『ですが、貴方達にはある、特別な体質を持っていたのです。その体質とは、世界の気を安定させる力を許容出来る容量が常人に比べ何億倍も大きいというもの』
つまり、世界の気?とやらを安定させる力を持っていると解釈していいのか。
『本当はそのまま地球で生きて、世界の気を安定させる力の受け口となってほしかったのですが、死んでしまう運命がある以上強制的に運命を捻じ曲げる事は禁止されています。ですので、どうせなら魂をそのままに転生させて別の世界を安定させる為の容量になってもらおうと思いまして』
要するに、レアなヤツで勿体ないし、どうせ無くなるんだったら他の世界の足しにしようということか。
『魂をそのままに転生させようとすると、記憶を保持したままになってしまうので、予め説明しておこうと思ったのです。直ぐに死なれても困りますし。貴方達にわかりやすいように説明すると、異世界に転生し、転移する……さしずめ、転生転移といった所でしょうか』
なるほど。なんとなくだが理解できた。
『という事で、異世界に行ってもらいます。拒否権は残念ながらないです。ですが。異世界にそのまま放り出しても野垂れ死んじゃうと思うので救済措置を取らせて頂きます。本来ならあちらにLvとスキルはあっても、ステータスなんて概念は無いのですが、貴方達はステータスとして見れるようにしておきますね。そのほうがわかりやすいでしょうしね。ステータスオープンと唱えれば開けますよ』
あ、早速何十人かステータスを開いている。まあ、現実で開けるとなったらテンションもバク上がりだろう。
『ステータス画面を開くと分かりますが、右下に表示されているポイントを使ってステータスを設定して頂きます。スキルは、ステータス欄にあるスキルポイントを使用します。ステータスの設定は制限時間ならば変更は可能ですが、スキルは1度取得すると制限時間内でも変更は出来ません。それと、ステータスの設定に偏りがあってもそれが原因で死ぬ事は無いのでご安心を。制限時間は3時間。他の人と相談するのも構いません。では、何か質問があれば私の名前をお呼びください』
そう事務的な口調で、言うだけ言って美女───恐らく女神かなんかだろう───が消える。
というか……名前聞いてないんだが。どうやって呼べと。他の人も混乱している。
すると、いきなり俺達の頭上……斜め上に【2:59:42】という数字が現れた。恐らく制限時間だろう。混乱している暇はない。これであちらの世界での生活が決まるのだ。悩みながら決めれば5時間なんてあっという間だ。
周りを見るとみんなは既に話し合ったりステータス画面を見ながら悩んだりし始めている。俺は急いでステータスを開く。
「ステータスオープン」
目の前に半透明のガラスのような画面が出てきた。右下には女神が言っていたように、ポイントがいかにもな感じである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:葛城 白夜
種族:人間(暫定)
性別:男
年齢:18
Lv:1
HP:10
MP:10
STR:10
MAT:10
DEF:10
MGR:10
AGL:10
SP:3000
〈所持スキル〉
アクティブスキル
ーーーー
パッシブスキル
ーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
STRはStrength、MATはMagic Attack、DEFはDefense、MGRはMagic Resist、AGLはAgilityの略だ。横の10というのは初期設定値で、普通の大人と同じくらいの値だそうな。50は標準的な一般兵などの少しは腕に覚えのある者ぐらいの値らしい。低くないかと思ったが、思えばLvが1の状態でそれなのだ。戦わない普通の人でも大人ならLvは3ぐらいはあるらしいし、少し腕に覚えのある者ならばLvは7ほどはあるという。
何故わかったかというと。言葉をタップしたら、説明が出てきた。下には※異世界転移後は表示無し、と書いてある。つまりこの言葉の意味を教えてくれるのはこの時間のみということか。
数字の方をタップすると、数を変えられるようになっている。右下には女神(暫定)が言っていたようにポイントが350あって、試しにHPを11にしたら右下のポイントが349になっていた。つまり、これを好きなように割り振れと言う事か。
そのままステータスの下をスクロールすると、※異世界転移後は表示無し、の言葉の下にスキル一覧があった。これもここ以降は表示されないという事だろう。
沢山のスキルがジャンル別にズラっとならんでいる。ステータスと同じくタップすれば説明文が出るようだ。
さらに下にスクロールすると、今度は種族一覧が表示されていた。どうやら、種族も変えることができるらしい。まあ、天使とか悪魔とか、動物、魔物などにはなれないようだが。
また、さらに下にスクロールすると今度は、アイテムを選択できる欄もあった。スキルポイントで入手出来るようになっている。この欄も、転移後は表示されないようだ。
さて、一通りの確認はした。残り時間は【2:52:31】となっている。まだ、時間はあるな。…………さて、どうしようか。
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