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2章-学園入学と大事件-
49話 懇親会と暗躍
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懇親会当日…
最も大きなアリーナであるメインアリーナには学園にいる全一般生徒が集結していた。
「これより懇親会を開催するわ!
まずは自由時間よ!飲み食いするなり談笑するなり皆好きに過ごしなさい!」
セルフィの開会宣言を聞いて、そこらじゅうに置かれている料理や飲み物をとって食べる者、友人との談笑を楽しむ者、有望な後輩をパーティーに勧誘しようと声をかけて回っている者、出会いを求めて彷徨っている者などそれぞれが思い思いの動きを見せる。
そんな中、ユリスたち特待生はというと…
「あっ、ファーレン!
それは私が食べようと取り分けて焼いていたお肉ですわよ!?」
「はっはっはっ!早い者勝ちさ早い者勝ち!
この世は総じて弱肉強食…モグモグ」
「わふ、早い者勝ち」
「あっ、アーリア!それは俺が焼いていたやつ…」
「…弱肉強食」
「ほう…この俺に挑むか。ならば格の違いを見せて…って早えなおい!しかも全部取る気かお前!?」
「むぐむぐ……ふっ」
「おまっ…仕方ねえな。こればかりは使いたくなかったんだが…
グラン!グラーン!こいつ引き取ってくれ!」
「お前らな…はあ…めんどくせぇ、俺は保護者じゃないんだが…
ほらリア、お前の分はこっちで用意してるから戻ってこい」
「ん。…あっ、がう♪」
「全くあなた達は…もう少し静かに食べられないの「え~い♪」さっ、さ、さ、サミュ!?何をしているのですか!?」
「え~、なんかぁリュートくんが構って欲しそうだったからぁ~」
「べ、別にそんなこと思っていません!
それに抱きつくにしても今はこれだけ大勢の前なのですよ!?」
「2人の時にしてほしいの~?」
「うぐっ…!」
「あそこもいつも通りですわね…
あっ、ファーレン!またですのあなたは!」
特待生用の会場になっている別のアリーナでバーベキューをしていた。
後にメインアリーナで新入特待生のお披露目があるのだが、その後は休む暇もないだろうとの配慮から特別に学園側が設備や食材などを用意しているのだ。
上級生もいるが、後の苦行を身にしみて理解しているので新入生がちゃんと楽しめるように軽く声をかける程度に抑えている。
3人娘はそれぞれの婚約者と一緒に集まり、6人でわいわい騒いでいた。
「あそこは賑やかねぇ…はい」
「サンキュ。まあ6人で集まるのが久々だって言ってたし、ああなるのも仕方ないんじゃねえか?」
「そうですよ!久々に会うとテンション上がっちゃうのです!わたしもお二人に会えたのは王都に来る時以来ですし!テンションマックスなのです!」
このハイテンションな女の子はルイス達と馬車で一緒だった少女、メリアである。
何と第3種ながら特待生として入学していたのだ。
「まあ、確かにここで会うとは思ってなかったから驚きはしたけど…何でここで騒いでるのよ?」
「うう…エリーゼさんがなんか冷たいのです!
だって、第3種って貴族の方ばかりでお話しする人が居なくて…」
「ちょっと、なんで涙目になってるのよ…!なんかアタシが虐めてるみたいじゃない!?
別にどこかに行けって言ってる訳じゃないんだから!
ああもう…!アンタも食べなさい!はいこれ!」
「メリア、エリーゼはこんな感じでも内心嬉しがってるから気にするこたあないぞ」
「はい!了解なのです!
エリーゼさん!ありがとなのです!」
「くっ、アンタ後で覚えておきなさいよ…」
そう言いつつもしっかりとルイスとメリアの皿に肉と野菜をバランスよく乗せていくのであった。
ところ変わってユリスとレイラは2人でゆっくりと静かにバーベキューを楽しんでいた。
そんな光景を見て第3種の同級生や上級生の女子達が盛り上がっている。
「ねぇねぇ、ちょっとあっち見てよ!」
「え?何…って何あの子達!
2人とも小ちゃくて可愛い!茶色い方は顔は中性的だけど動きが男っぽいし、カップルなのかしら?」
「マスコットカップル…最高ね」
「ヤバいわね…あの構図。
なんかこう見守っていたくなる何かがあるわね」
「でしょでしょ?
でも1年生っぽいのに見たことないんだよね」
「ってことは1組?あんな可愛いのに?」
「可愛くて強いとか最強じゃない…」
「勘違いした変な男どもが群がる前に近くを陣取っておかないと…」
「…ってちょっと待って!
ソフィア様が向かっていったわ」
「え?まさかのソフィア様?
でも確かあの人も可愛い物好きだったわよね?」
「あ、胸押さえてうずくまってる」
「モグモグしながらシンクロ首傾げとか可愛すぎるわ…!」
同好の士の間では学年の垣根など関係ないようで、新入生と上級生が入り混じった集団が形成されている。
その目線の先では復活したソフィアが何か話した後、ユリスがソフィアの後について広場から出ていってしまった。
「何話してるんだろ?やっぱり勧誘かな?」
「あれ?茶色くんの方が連れてかれちゃったわね。
大丈夫かしら…?」
「連れて行ったのがソフィア様だから流石に大丈夫だと思うけど…
残った金色ちゃんの方は…あ、ヤバいかも。
ジラード君が…」
「あー!やばいやばい!馬鹿息子が金色ちゃんのところ行った!」
「あれやばくない!?
この前は茶色くんが馬鹿息子を追い返してたけど、ちょうど今いないよ!?」
「茶色君カムバーック!
私たちじゃ馬鹿息子には敵わないのよー!」
「金色ちゃん連れて行かれちゃった…」
「終わった…どうしよう?」
「…私、追ってみる。茶色くんが帰ってきたらスキルで連絡して。どこにいるか教えるから」
「大丈夫なの?あなたジラードから被害を受けた事があるとかで、本人居ないのに呼び方にすら気を払っている程じゃない。動けるの?」
「…大丈夫。立ち向かうわけじゃないし、隠れて追うだけだから。それなら私の得意分野だし適任なはず」
「分かったわ、そこまで言うならあなたに任せる。
連絡は私に任せなさい!さっき姉様がいたし、ソフィア様にも連絡してもらっておくわ」
「…私たちはする事ないわね」
「茶色くんが帰ってこないか見張りながら、バーベキューの続きしてよっか…?」
「そうね…」
そんなやりとりがあったとは知らないユリスは別室でソフィア、ディラン、シエラ、セルフィと会談をしていた。
「では、ユリスくんの紹介はシエラさんの婚約者、第1種の報酬で収納を授かった、その縁で王家が後援している。で宜しいですね?」
「ああ、そうだね。
それともう一つユリスくんの許可があれば付け足してもいいかと思うんだけど。
はい、これ」
「失礼します……ああ、ついに来ましたか。思ってたより時間がかかりましたね?
まあ分かりました。覚悟は既にしていますのでお受けします。ただ、レイラにも事前に話をしておいてくださいね」
「うん、分かってるよ」
「それではレイラさんとの婚約者も追加っと」
どうやらフォーグランド家当主からレイラを正式な婚約者にという打診の手紙が来ていたようだ。
シエラの方もいつのまにか候補の2文字が取れている。
「それで紹介が終わった後にダンスの時間になるんだけど、婚約者がいる子達は先に踊ってもらって、場を作ってもらうことになってるからユリスくんはレイラちゃんとお願いね。悪いけど、シエラさんは我慢して頂戴。
ダンスの時間まではソフィア様に側についてもらって対応をお願いします」
「ええ、承知致しました」
「もう学園生じゃないんですから、流石に学内イベントを邪魔するようなことはしませんよ」
「ん…?何ですって…!?ええ、分かったわ」
「ソフィア?何かあったのかい?」
「レイラさんがジラード・ベルクトに連れて行かれたと…」
ソフィアの言葉を聞き、いち早くユリスが動きを見せる。
(こんなに早くアクションがあるとは思ってなかったが、本格的に動き始めたのか…?
何はともあれ万が一があるから早く現場に向かわないと)
「ソフィア様、どちらに向かったかは分かりますか?」
「い、いいえ。アリーナにいる子から聞いている最中よ」
「分かりました。すみませんがお先に失礼します。
シエラは殿下達の護衛をしていてくれ。では」
口早に指示を出すと止める間も無く部屋を出て行ってしまう。ソフィアが止めようと後を追うが扉を開けた時にはもう見える範囲に姿はなかった。
呆然としているソフィアにディランが声をかける。
「ソフィア、ユリスくんは一旦アリーナに向かったはずだ。情報をくれている子から行き先を聞き次第、念のため私たちも向かうよ」
「は、はい!」
「はあ…できればここに残っていて欲しいのですけれど。生徒間の揉め事で済むかもしれませんし。
ただまあ、私も向かいますか…」
「私は護衛ですから殿下方が向かうのであれば従いますが、くれぐれも危険な行動は避けてくださいね」
何となく行く必要があると予感したディランは周囲を巻き込んで現場へと向かっていくのであった。
一方、ユリスはアリーナに向かって…はいなかった。
感知スキルの中でも広範囲をカバー出来る魔力感知を全開にしてレイラの居場所を特定していたのだ。故に現在ユリスはレイラの元へ一直線に向かっていた。
が、学園敷地内の全ての存在を感知しているユリスは身に覚えの無い3人の魔力が通り道を塞ぐように佇んでいることも把握していた。
「はあ…一応聞くがアンタら何者だ?
要件もさっさと話してもらおうか」
道を塞ぐ黒いフードを被った2人にユリスが誰何する。
「…我々はクリフ様に忠誠を誓う者」
「君がちゃんと状況を理解しているのか…あの方の元へ行く資格があるのか確かめたくてね。
強さの方は問題ないだろうし、少し問答に付き合ってもらおうか」
(何…?クリフ・ベルクト?
先代当主は亡くなったはずじゃあ…?)
やや後ろに佇む1人は低く厳かな声色で言葉数少なく、もう1人は芝居がかった声色でまるで番人であるかのように振る舞っていた。
ユリスは先代の名前が出た事、後ろにいる方の佇まいを見てかなりの使い手だと伺えた事から、万が一があっても困ると問答に付き合うことにしたようだ。
「…僕としてはもっと真正面からジラードが仕掛けてくると思っていたんだが」
「我々も当初はその予定だった。だが状況が変わったのだ」
「もう悠長にしていられる時間がなくなってしまったんだよ。中和薬の効果が切れてしまったようだからね…
その事をアイツが嗅ぎつけたら今度こそ取り返しのつかない事態になるだろう」
(中和薬…?しかも効果が最近効果が切れた…?
一体この件と何の……いや、まさか…!?あれなら症状も一致する…!)
「まさか…『太陽華』か…?」
「!!
へえ…さっきの一言でそこまで分かるとは。ちょっと君を侮り過ぎていたようだ。
そこまで分かったなら資格は十分そうだね」
「なるほど…その素材で中和薬ってことはそういう事か。確かに大事件だ…あいつがそちら側なら最終目的もおおよそ予想できる。
それで、通っていいのか?さっさと退かないのなら仕方ないが無理矢理にでも…!」
「ああ、そうだったね。
通るといい。君は文句なしに合格だ。
あの方の元へ辿り着いたなら好きにしていいが、出来れば協力してくれる事を願っているよ」
目的に予想がついたのに先へ進めない苛立ちが段々と見え隠れする。そんなユリスを前にしても2人は芝居がかった態度そのままで道を開ける。
まるでこう振る舞うのが己の役目とでも言わんばかりの対応だ。
「……あの方を助けてやってくれ」
ユリスが間を通り抜けようとした時、獣人の耳でも聞き取れるかどうかという大きさで2人の本音だろう願いを託される。
「…手伝ってはやる」
(ベルクト内部の人間が現当主を公的に引き摺り下ろそうとしているのなら一連の芝居も理解はできる。
芝居に付き合ってやる義理はないがヨシュアに繋がるなら僕にも責任はある。あの方とやらにとっての救いになるかは分からんが、この先で誰がいても何が起きても対応しきってみせるさ)
黒フードの男2人はただ一言だけ呟き走り去るユリスの後ろ姿を見送り、次にやって来るであろうディラン達を待ち受ける。
…己に課された役目である足止めと、少々の八つ当たりをするために。
最も大きなアリーナであるメインアリーナには学園にいる全一般生徒が集結していた。
「これより懇親会を開催するわ!
まずは自由時間よ!飲み食いするなり談笑するなり皆好きに過ごしなさい!」
セルフィの開会宣言を聞いて、そこらじゅうに置かれている料理や飲み物をとって食べる者、友人との談笑を楽しむ者、有望な後輩をパーティーに勧誘しようと声をかけて回っている者、出会いを求めて彷徨っている者などそれぞれが思い思いの動きを見せる。
そんな中、ユリスたち特待生はというと…
「あっ、ファーレン!
それは私が食べようと取り分けて焼いていたお肉ですわよ!?」
「はっはっはっ!早い者勝ちさ早い者勝ち!
この世は総じて弱肉強食…モグモグ」
「わふ、早い者勝ち」
「あっ、アーリア!それは俺が焼いていたやつ…」
「…弱肉強食」
「ほう…この俺に挑むか。ならば格の違いを見せて…って早えなおい!しかも全部取る気かお前!?」
「むぐむぐ……ふっ」
「おまっ…仕方ねえな。こればかりは使いたくなかったんだが…
グラン!グラーン!こいつ引き取ってくれ!」
「お前らな…はあ…めんどくせぇ、俺は保護者じゃないんだが…
ほらリア、お前の分はこっちで用意してるから戻ってこい」
「ん。…あっ、がう♪」
「全くあなた達は…もう少し静かに食べられないの「え~い♪」さっ、さ、さ、サミュ!?何をしているのですか!?」
「え~、なんかぁリュートくんが構って欲しそうだったからぁ~」
「べ、別にそんなこと思っていません!
それに抱きつくにしても今はこれだけ大勢の前なのですよ!?」
「2人の時にしてほしいの~?」
「うぐっ…!」
「あそこもいつも通りですわね…
あっ、ファーレン!またですのあなたは!」
特待生用の会場になっている別のアリーナでバーベキューをしていた。
後にメインアリーナで新入特待生のお披露目があるのだが、その後は休む暇もないだろうとの配慮から特別に学園側が設備や食材などを用意しているのだ。
上級生もいるが、後の苦行を身にしみて理解しているので新入生がちゃんと楽しめるように軽く声をかける程度に抑えている。
3人娘はそれぞれの婚約者と一緒に集まり、6人でわいわい騒いでいた。
「あそこは賑やかねぇ…はい」
「サンキュ。まあ6人で集まるのが久々だって言ってたし、ああなるのも仕方ないんじゃねえか?」
「そうですよ!久々に会うとテンション上がっちゃうのです!わたしもお二人に会えたのは王都に来る時以来ですし!テンションマックスなのです!」
このハイテンションな女の子はルイス達と馬車で一緒だった少女、メリアである。
何と第3種ながら特待生として入学していたのだ。
「まあ、確かにここで会うとは思ってなかったから驚きはしたけど…何でここで騒いでるのよ?」
「うう…エリーゼさんがなんか冷たいのです!
だって、第3種って貴族の方ばかりでお話しする人が居なくて…」
「ちょっと、なんで涙目になってるのよ…!なんかアタシが虐めてるみたいじゃない!?
別にどこかに行けって言ってる訳じゃないんだから!
ああもう…!アンタも食べなさい!はいこれ!」
「メリア、エリーゼはこんな感じでも内心嬉しがってるから気にするこたあないぞ」
「はい!了解なのです!
エリーゼさん!ありがとなのです!」
「くっ、アンタ後で覚えておきなさいよ…」
そう言いつつもしっかりとルイスとメリアの皿に肉と野菜をバランスよく乗せていくのであった。
ところ変わってユリスとレイラは2人でゆっくりと静かにバーベキューを楽しんでいた。
そんな光景を見て第3種の同級生や上級生の女子達が盛り上がっている。
「ねぇねぇ、ちょっとあっち見てよ!」
「え?何…って何あの子達!
2人とも小ちゃくて可愛い!茶色い方は顔は中性的だけど動きが男っぽいし、カップルなのかしら?」
「マスコットカップル…最高ね」
「ヤバいわね…あの構図。
なんかこう見守っていたくなる何かがあるわね」
「でしょでしょ?
でも1年生っぽいのに見たことないんだよね」
「ってことは1組?あんな可愛いのに?」
「可愛くて強いとか最強じゃない…」
「勘違いした変な男どもが群がる前に近くを陣取っておかないと…」
「…ってちょっと待って!
ソフィア様が向かっていったわ」
「え?まさかのソフィア様?
でも確かあの人も可愛い物好きだったわよね?」
「あ、胸押さえてうずくまってる」
「モグモグしながらシンクロ首傾げとか可愛すぎるわ…!」
同好の士の間では学年の垣根など関係ないようで、新入生と上級生が入り混じった集団が形成されている。
その目線の先では復活したソフィアが何か話した後、ユリスがソフィアの後について広場から出ていってしまった。
「何話してるんだろ?やっぱり勧誘かな?」
「あれ?茶色くんの方が連れてかれちゃったわね。
大丈夫かしら…?」
「連れて行ったのがソフィア様だから流石に大丈夫だと思うけど…
残った金色ちゃんの方は…あ、ヤバいかも。
ジラード君が…」
「あー!やばいやばい!馬鹿息子が金色ちゃんのところ行った!」
「あれやばくない!?
この前は茶色くんが馬鹿息子を追い返してたけど、ちょうど今いないよ!?」
「茶色君カムバーック!
私たちじゃ馬鹿息子には敵わないのよー!」
「金色ちゃん連れて行かれちゃった…」
「終わった…どうしよう?」
「…私、追ってみる。茶色くんが帰ってきたらスキルで連絡して。どこにいるか教えるから」
「大丈夫なの?あなたジラードから被害を受けた事があるとかで、本人居ないのに呼び方にすら気を払っている程じゃない。動けるの?」
「…大丈夫。立ち向かうわけじゃないし、隠れて追うだけだから。それなら私の得意分野だし適任なはず」
「分かったわ、そこまで言うならあなたに任せる。
連絡は私に任せなさい!さっき姉様がいたし、ソフィア様にも連絡してもらっておくわ」
「…私たちはする事ないわね」
「茶色くんが帰ってこないか見張りながら、バーベキューの続きしてよっか…?」
「そうね…」
そんなやりとりがあったとは知らないユリスは別室でソフィア、ディラン、シエラ、セルフィと会談をしていた。
「では、ユリスくんの紹介はシエラさんの婚約者、第1種の報酬で収納を授かった、その縁で王家が後援している。で宜しいですね?」
「ああ、そうだね。
それともう一つユリスくんの許可があれば付け足してもいいかと思うんだけど。
はい、これ」
「失礼します……ああ、ついに来ましたか。思ってたより時間がかかりましたね?
まあ分かりました。覚悟は既にしていますのでお受けします。ただ、レイラにも事前に話をしておいてくださいね」
「うん、分かってるよ」
「それではレイラさんとの婚約者も追加っと」
どうやらフォーグランド家当主からレイラを正式な婚約者にという打診の手紙が来ていたようだ。
シエラの方もいつのまにか候補の2文字が取れている。
「それで紹介が終わった後にダンスの時間になるんだけど、婚約者がいる子達は先に踊ってもらって、場を作ってもらうことになってるからユリスくんはレイラちゃんとお願いね。悪いけど、シエラさんは我慢して頂戴。
ダンスの時間まではソフィア様に側についてもらって対応をお願いします」
「ええ、承知致しました」
「もう学園生じゃないんですから、流石に学内イベントを邪魔するようなことはしませんよ」
「ん…?何ですって…!?ええ、分かったわ」
「ソフィア?何かあったのかい?」
「レイラさんがジラード・ベルクトに連れて行かれたと…」
ソフィアの言葉を聞き、いち早くユリスが動きを見せる。
(こんなに早くアクションがあるとは思ってなかったが、本格的に動き始めたのか…?
何はともあれ万が一があるから早く現場に向かわないと)
「ソフィア様、どちらに向かったかは分かりますか?」
「い、いいえ。アリーナにいる子から聞いている最中よ」
「分かりました。すみませんがお先に失礼します。
シエラは殿下達の護衛をしていてくれ。では」
口早に指示を出すと止める間も無く部屋を出て行ってしまう。ソフィアが止めようと後を追うが扉を開けた時にはもう見える範囲に姿はなかった。
呆然としているソフィアにディランが声をかける。
「ソフィア、ユリスくんは一旦アリーナに向かったはずだ。情報をくれている子から行き先を聞き次第、念のため私たちも向かうよ」
「は、はい!」
「はあ…できればここに残っていて欲しいのですけれど。生徒間の揉め事で済むかもしれませんし。
ただまあ、私も向かいますか…」
「私は護衛ですから殿下方が向かうのであれば従いますが、くれぐれも危険な行動は避けてくださいね」
何となく行く必要があると予感したディランは周囲を巻き込んで現場へと向かっていくのであった。
一方、ユリスはアリーナに向かって…はいなかった。
感知スキルの中でも広範囲をカバー出来る魔力感知を全開にしてレイラの居場所を特定していたのだ。故に現在ユリスはレイラの元へ一直線に向かっていた。
が、学園敷地内の全ての存在を感知しているユリスは身に覚えの無い3人の魔力が通り道を塞ぐように佇んでいることも把握していた。
「はあ…一応聞くがアンタら何者だ?
要件もさっさと話してもらおうか」
道を塞ぐ黒いフードを被った2人にユリスが誰何する。
「…我々はクリフ様に忠誠を誓う者」
「君がちゃんと状況を理解しているのか…あの方の元へ行く資格があるのか確かめたくてね。
強さの方は問題ないだろうし、少し問答に付き合ってもらおうか」
(何…?クリフ・ベルクト?
先代当主は亡くなったはずじゃあ…?)
やや後ろに佇む1人は低く厳かな声色で言葉数少なく、もう1人は芝居がかった声色でまるで番人であるかのように振る舞っていた。
ユリスは先代の名前が出た事、後ろにいる方の佇まいを見てかなりの使い手だと伺えた事から、万が一があっても困ると問答に付き合うことにしたようだ。
「…僕としてはもっと真正面からジラードが仕掛けてくると思っていたんだが」
「我々も当初はその予定だった。だが状況が変わったのだ」
「もう悠長にしていられる時間がなくなってしまったんだよ。中和薬の効果が切れてしまったようだからね…
その事をアイツが嗅ぎつけたら今度こそ取り返しのつかない事態になるだろう」
(中和薬…?しかも効果が最近効果が切れた…?
一体この件と何の……いや、まさか…!?あれなら症状も一致する…!)
「まさか…『太陽華』か…?」
「!!
へえ…さっきの一言でそこまで分かるとは。ちょっと君を侮り過ぎていたようだ。
そこまで分かったなら資格は十分そうだね」
「なるほど…その素材で中和薬ってことはそういう事か。確かに大事件だ…あいつがそちら側なら最終目的もおおよそ予想できる。
それで、通っていいのか?さっさと退かないのなら仕方ないが無理矢理にでも…!」
「ああ、そうだったね。
通るといい。君は文句なしに合格だ。
あの方の元へ辿り着いたなら好きにしていいが、出来れば協力してくれる事を願っているよ」
目的に予想がついたのに先へ進めない苛立ちが段々と見え隠れする。そんなユリスを前にしても2人は芝居がかった態度そのままで道を開ける。
まるでこう振る舞うのが己の役目とでも言わんばかりの対応だ。
「……あの方を助けてやってくれ」
ユリスが間を通り抜けようとした時、獣人の耳でも聞き取れるかどうかという大きさで2人の本音だろう願いを託される。
「…手伝ってはやる」
(ベルクト内部の人間が現当主を公的に引き摺り下ろそうとしているのなら一連の芝居も理解はできる。
芝居に付き合ってやる義理はないがヨシュアに繋がるなら僕にも責任はある。あの方とやらにとっての救いになるかは分からんが、この先で誰がいても何が起きても対応しきってみせるさ)
黒フードの男2人はただ一言だけ呟き走り去るユリスの後ろ姿を見送り、次にやって来るであろうディラン達を待ち受ける。
…己に課された役目である足止めと、少々の八つ当たりをするために。
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