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第4章/冥界 : それぞれの選択肢

第27話/破滅の始まり

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「ライメル…?
 やっと起きたのかよ。俺もセレネも、
 ずっと待ってたぜ?」

…ん?ゼノンの声か、なのか?

2人の気配が消えて、気を失っていたのか。
どのくらい時間が経ったんだ?
まだ目覚めたばかりだから、意識がはっきり
していない。
視界もまだボヤけている状態だ。

「ライメルさん、やっと起きましたね。
 ずっと寝られると、こっちも凄く困る
 んですよ。今回だけは…」

セレナも一緒にいるのか?
それなら、2人は僕が気を失っている間は、
ずっと一緒に居たんだな。
それなら、2人は無事なんだろう。
それを知れて、一瞬だけ安心した。
でも、1つ心配なのは、2人の息がいつも
よりも荒いという事だな。
もしかしたら、ここで戦闘が起こっていた
可能性もある。それで、2人は体力を消耗
している可能性がある。

そしてようやく、僕の目に光が入ってきた。
なんだか、さっきよりも世界が赤いな…
空もなんだか、真っ黒な夜の空ではなく、
黒煙の様なものが空を覆っている。

そして今まで気に留めていなかったが、今は
少し息苦しい感じがする。

今ようやく、視界が広がった事で分かった。

「ここで、戦争でも起こってるのか…?」

僕は今、崖の上にいる。
その下の方に見えるのは、アムネジア帝国
だろう。恐らく僕らは、丸一日歩いて、ここに辿り着いたのだろう。

そして僕は、なんらかの理由で、気を失って
しまったのだ。

よし、状況の整理と推測が出来るほど、
頭が回る様になってきた。

ここは、戦場で間違い無さそうだ。

「ゼノン、セレネ。
 何が起こってるのか、少しだけ話して
 くれない?僕の状況が知りたい。」

ここで、完全に状況を整理しておきたい。

「分かった、俺が説明する。
 幸い、今は誰にも狙われてないからな。
 今から、全てを話す。
 セレネは、今は休んでて構わない。」

「分かりました。でも、休むわけには
 いきませんので、少し2人の安全を
 確保するために、周囲の敵の捜索を
 してきますね。」

本当にまずい状況なんだろうな。
2人もかなり疲労が溜まっているだろう。

「じゃあまず、ここを(アムネジア帝国)
 を襲った奴らは、魔王軍の奴らだ。

 わるい、時間がないから手短に話す。

 まずは、お前が気絶した理由だ。
 それは結構単純な事だ。
 魔女の術によって、お前は気を失った。
 魔女は、相手の精神を支配したり、過去の
 記憶を見せたり出来る。
 まあ、お前はそれ以外、何もされてない。

 ヤバいのはアムネジア帝国と、その周辺。
 今、この下にある平原は、魔王軍の魔術
 によって、跡形もなく焼けている。

 そろそろ、アムネジア帝国にも、本格的に
 軍が攻め入るかもしれない。

 しかも1番ヤバいのが、この襲撃をした
 奴らの中に、ディバイン•ラメントが
 2人もいるって事だな。」

「分かった、それ以上の説明は要らない。
 でも、最後に1つだけ聞きたい。
 その中に、”リリー”って奴いる?
 多分、黒くて長い髪で、身長は小さい。
 見た目は10代前半で女子。
 そして、ピンクい目をしてる奴…」

「多分、いる。」

「そう、ありがとう。
 じゃあさ、僕は行ってくる。ゼノンも
 死なないでね。旅は始まったばかりだ。
 初日でお別れは、したくないから。」

僕は、立ち上がって、ゼノンの方は決して
振り向かず、ただひたすらに、帝国の方に
僕は1人で走っていった。

リリーの存在を、知ってしまったから。

*   *   *

僕が帝国にたどり着いた時には、既に戦闘は
過激化していた。
そこら中に火の手が回り、人々は混乱して、
何がなんだか分からなくなっていた。

そんな状況では、避難を促しても、誰も
聞いちゃくれないだろうな。
だから、アムネジア帝国は今、兵隊が誰も
居ないのだろう。
いいや、居ないというよりかは、居ても意味がないと言った方が正しいな。

こんな状況じゃ、ルールなんてものは通用
しないからな。

恐らく、国の兵は、敵を止める事を最優先に
しているだろう。僕も早く、それに加わって
戦わないと…
これも、冒険者の仕事だしな。

「大きな事件や反乱が起こったら、冒険者
 は必ず駆けつけなければならない。 
 全く、面倒なルールだな…!

 魔力解放40%”魔炎/紫”」

僕は目の前に現れた魔王軍を蹴散らしながら
リリーを探し回った。
奴はまだ、この国の中に居るはずだ。

あいつは、この世で自由に生きてはいけない
人間だ。世界で1番、人を騙して、人から
何もかも奪ってきた人間…

「僕がここで、奴を殺さないと…!
 思い出した事もあるしな。」

ディバイン•ラメントで3位の実力を持つ
リリーは、戦闘面ではトップ2に劣るものの
悪知恵だけは誰よりも働く。
恐らく、魔王軍で1番危険な人物だ。
魔王なんかよりも、ずっと恐ろしい。

*   *   *

どこにも、リリーが居ない。
もうかなりの時間探し回ったはずだ。
一体どこに、奴は身を隠しているんだ…!

その時、僕の背後に、何か悍ましい気配を
感じたのだ。
人だけど、人の心を持たない様な。
そんな感じがしたんだ。
そして、そんな気配を持つのは、1人だけだ。

「お前が、リリーか…?」

「…あれ…?気配は、完全に消した、はず
 だった、のに…なんで…?」

話し方も、途切れ途切れで気持ち悪い。
聞いてて気分の悪くなる話し方をしてる。

「もう一度だけ、質問する…
 お前が、リリー、なんだな…?」

「…うん、私が…リリー、だよ…?」

何でこいつは”自分は何も悪くない”みたいな
話し方が出来るんだ…?
僕には全く、理解が出来ない。

「お前に1つ、確認しておきたい事がある。
 何年も前の話になるけど、お前。

 僕の故郷を襲撃しただろ…?
 
 それだけじゃない。その次の襲撃もだ。
 僕が、飲食店で働き始めて、ちょうど1年
 くらい経った頃だっけ。
 夜に、魔王軍の襲撃があった。

 それ全部、お前だよなぁ…そうだろ…?」

そう確信出来る理由はこれしかない。
襲撃の感じが、あまりにも似ているからだ。

建物の壊され方、人の逃げ惑い方、そして、
魔王軍の兵の人数。
これらが、他の襲撃の時と、あまりにも
似すぎているんだ。

「まあ、何言っても無駄かな…」

「…そう、だね。無駄、だよね…
 私ってさ、考えるのが、苦手…だし…」

ゾンビみたいな体の動き。
まるで操り人形みたいに、体がカクカクと
動いている。ますます気味が悪くなって
きたな…

「そんな言い訳、通じると思ってんの?
 死ねよ。襲撃大好きリリーさん…」

あの日、僕から故郷を奪った張本人。
こいつを、ぶっ殺してやる…!

第27話/破滅の始まり













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