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第1章 失われた命

1 失われた300年

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神「選べ・・・・自分の命か?両親の命か? どちらを救うか?選べ!人間よ・・・・」


俺は・・・選ぶ・・・













神・・・それは人間では到底敵うことのできない絶対的な力を持つ存在・・・

宇宙の全て・・・万物の全て・・・この世界の全て・・・それらを創造し、支配する絶対的な存在


それが、神・・・・



今から約400年前・・・人類は、その神と無謀にも戦争を始めた・・・






いわゆる人類陣営と神陣営に別れて戦った【第三次終末戦争】である・・・

またの名を【終末100年戦争】とも呼ぶ・・・




神々の圧倒的な力よって、人類は文明をまるごと破壊された・・・




それから戦争で地上が平らになって300年・・・・





6022年・・・ここは【人類政府国】の首都ゼキウス府・・・

【第三次終末戦争】での敗北以来、生き残ったわずか2億の人類は、神によって徹底的に破壊された人類文明の形をなんとか復興させ、高層ビル群が立ち並ぶ街並みを取り戻した・・・


だが、それは一部の支配者層や資本家層の話であり、大半の民は、木と瓦作りの小さな家ばかりが立ち並ぶ狭い【密集街】に追いやられ、それでも高層ビルに憧れながら、つつましく平和に暮らしていた・・・


貧しい者は、とことん貧しく
豊かな者は、さらに豊かに

貧しい【密集街】の民は、山で木の実や山菜を取って暮らし
豊かな支配者や資本家たちは、高層ビルでワインを飲んで暮らす。


それが戦後の人類の、歪んだ平和の形だった・・・・





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

密集街に住む、1人の少女は黙って、空を見つめている・・・・


いや、空ではない・・・・【密集街】と富裕層の住む高層ビル群の、ちょうどど真ん中にある巨大な時計台を見ていたのだ・・・


キラキラと眩しい金色の髪、彫刻のように整った顔立ち、吸い込まれるようなブルーの瞳を持ったその美少女の名はカホ

彼女は、いつまでもそうやって、ずっと時計を見てそうだ・・・






そんな少女のもとに、駆け足で息を切らした少年が近づいてきた。


墨汁で塗ったかのような黒髪が特徴的な、その少年の名はタカト・・・・



カホ「タカト?どうしたの?」


タカトもカホも、密集街で生まれ、密集街で育った普通の少年、少女だ。 2人とも今年で13歳になる。


タカト「カホ!お前こそどこへ行ってたんだ?また時計を見に行ってたのか・・・やめろって言っただろ、こんなもの見るな・・・」

タカトは少し怒った口調で、そう言った。

カホ「だって・・・」

タカト「あの時計は別に時刻を指し示しているわけではないだろ!」

タカトはそう言うと、彼らを支配し、天上から見下して、あざけ笑っているであろう神々を憎むかのように、空を見上げ、睨んだ






この時計台・・・・正確には【世界終末時計】という・・・

ゼキウス府のど真ん中に設置されている時計台であり、戦争終結後に神々が人類に残し置いていったものらしい・・・

時計の針は、時間を指し示しているのではなく、『人類が滅亡するまでの残り時間を示している』と言われている・・・

止まっているのか?進んでいるのか?どちらかわからぬぐらい果てしなくノロマに進むこの時計の針が、『午前0時を指し示すと人類は滅亡する』らしい・・・

そう神は言い残して、この時計を置いていったらしい・・・


恐らくこの時計は、敗戦した人類が2度と逆らえぬよう神々が地球にかけた呪いのようなものなのであろう・・・・


よって人類は、400年の時をかけてゆ~っくりと進むこの時計の針が、いつ午前0時を指し示すのか?と怯える日々を現在まで過ごしているわけだ・・・




「ああ、神よ!我が主よ!」

「ありがたや~ありがたや~」

「神様~お許しください~」


今日も、多くの人類が時計台の前に集まって、空の上でそれを眺めているであろう【神様】とやらにお祈りしてる・・・

誰も、その【神様】とやらを見たことがないのに・・・




タカトは、その人類の情けない様子を、眉間にシワを寄せ、怒りと軽蔑が混じった顔で見ていた・・・


タカト「どいつもこいつも卑屈になりやがって・・・・・1回戦争に負けたぐらいで・・・」


しかも、たかが時計に怯えやがって・・・・


タカト「大の大人が、そろいもそろって昼間からお祈りかよ!」


タカトの、そのつぶやきが時計台の前でお祈りをしていた大人たちに聞こえたのか・・・・みんな振り向いて、彼を睨む。

子供が生意気に・・・と言わんばかりに・・・


タカト「300年前の出来事にいつまで怯えてんだよ!戦争に負けたのはそんな遠い昔の話だろ!第一、俺たちの世代は神様なんてものを見たこともないんだぜ!
結局、大人って生き物は、強い何かにすがりたい、ありがたがりたいだけなんだろ!」


カホ「タカト、聞こえてるわよ!」


カホが、怒りに任せてケンカを売るようなことばかり口走るタカトをなだめる・・・


タカト「見ろよ、あいつら大人のせいで、犠牲になっていく子供たちを・・・・」


タカトが、遠くからやってくる『ある一団』を指差す・・・



!!



その一団を見た時、そこにいた全ての人々の表情が、一瞬で変わった・・・


カホ「今年も、この日がやってきたのね・・・」


そう言うカホの表情は重く、暗かった・・・


タカトとカホがいる場所から、数メートル離れた先に、騎士の甲冑で武装した【人類政府軍】に連れられた子供たち10人の集団がいる・・・


子供たちは全員、真っ白な着物を身にまとっており、列をなして歩いている・・・


10人の子供たちの年齢はそれぞれ様々で、まだ世間を何も知らぬ無垢な幼児や幼女もいれば、2人と同じぐらいの年齢かと思われる思春期真っ只中の少年、少女たちもいた。


そんな風に年齢もバラバラで、真っ白な着物を着ていることだけが共通点のような10人の子供たちだが・・・



もう1つだけ共通点がある。


それは、今から『神様のイケニエとして殺されるということ』だ!



街の住民たちは、10人の子供たちを見かけると、賞賛と賛美の声をかけた。


「ありがとう!救いの勇者たちよ!」

「人類のために【名誉ある子供たち】になってくれ!」

「きっと、あなたたちは、神様の素晴らしいお食事になるわ!」



勝手なことばかり言う愚かな大人たち・・・・



そう、ここ人類政府国では、毎年、子供が必ず10人、【神のイケニエ】とならなくてはならない儀式が行われる・・


これがあの【世界終末時計】の針を進めるスピードを、少しでも抑える方法だった・・・



神々は言った・・・

「我々神々に逆らったお前たち人類が、これから滅亡せずに平和に暮らしたいならば、この時計の針を進めるスピードを少しでも遅くするしかない・・・

時計の針をこれ以上進めたくないなら、我々に毎年子供を10人を差し出せ。そうすれば、我々の力で時計の針をわずかながらでも遅くしてやろう・・・」



終末戦争の講和条約での、神々の人類に対する要求は、このような残酷なものだった。

この要求をのまなくては、講和条約も結べず、戦争も終わらなかった・・・



【人類政府】は、仕方なく要求を承諾・・・・大人たちは人類存続のために、未来ある若い命を捧げることを【神】に約束した・・・・

これが【3022年 生贄の約束】条約である・・・

条約の内容は、以下の通りだ。



『人類政府は、神々に対して、5歳から20歳までの若い世代を対象に、毎年10名の子供及び若者をイケニエとして差し出す。

1年でもイケニエを差し出さなかったり、イケニエとして差し出す予定の子供を逃がした場合、人類は、神による強大で恐ろしい報復を受けることになる。

そして、子供の保護者である両親も、責任をとって命を絶たなくてはならない。』



以上の通り、イケニエは人類の神への服従と忠誠の印でもあった・・




実質、人類は神の植民地支配の統治下にあるというわけだ・・・


人類のリーダー【人類政府】は、神々に操られた傀儡政権となっており、全ての人類国民に対し、支配者【神】を崇めるよう洗脳教育を施していた・・・





動いてるか、止まってるか、それすらもわからないぐらいのスピードで進む世界終末時計・・・

しかし、その針が午前0時になると、人類は滅亡してしまう・・・

人類の命運をまだ年端もいかぬ子供たちに託す大人たち・・


「嫌だ!嫌だ!なんで僕がみんなの犠牲にならなきゃいけないんだ!やめてくれよ!離してくれよ!」

「死にたくない!死にたくないわ!お母さん!お母さん助けて!」

ある程度、状況が理解できている思春期の子供たちは、これから訪れる死の痛みと恐怖から必死に逃げようと泣き喚き、そして【人類政府軍】の騎士たちに必死で命乞いをする。


「ねえ、お姉ちゃんなんで泣いてるの?」

「これからパーティーやるんでしょ?楽しみだな~」

まだ、何も知らない純粋無垢な幼児たちは、年上の子供たちが泣きわめいている意味がわからなかった・・・



これから、【死】が口を開いて待っているというのに・・・






【天刑台】・・・・それが、10人の子供たちを殺害し、イケニエとして神に捧げる場所だ・・・


木で作られた見張り台のような、高い建築物で、階段がついている。


この天刑台で、政府軍の騎士たちが子供たちを処刑することで、その遺体から出る魂が、神々のいる天上へ送信されるらしい・・・


もちろん、生きている人間の目には、遺体から出た魂が天上へ登っていく姿なんて目には見えない・・・・


そして、全ては300年前に決まった出来事であり、今を生きる子供たちからすれば、なぜこのような恐怖の儀式が未だに執り行われているのか理解できない・・・・

特にタカトのように、なぜか学校の洗脳教育には引っ掛からず、己の感情のまま生きる子供には理解不能だった!




やめて!殺さないで!お願い!お願い!助けてお母さん!

許して!許してください!

死にたくないよ!死にたくないよ!


うわあああああああああああああああああああ!! ぎゃああああああああああ!!



天刑台の上で泣き叫びながら、騎士たちに殺される10人の子供たちの悲痛な叫び・・・・


それが街中に響き渡る・・・・


ビチャ ビチャ・・・・・

天刑台の上から滴り落ちてくる子供たちの真っ赤な鮮血・・・



そのあまりに残酷すぎる光景に、先程まで子供たちを褒め称え見送った街の大人たちも、すぐに家の中へ戻った・・・・

現実逃避したのだ・・・・


タカトは、またも握り拳を作る・・・




タカト「この臆病者が!!」


大人たちに向かってそう叫ぶ!


だが、タカトがこれ以上何か大人に喧嘩を売るようなことを言って、酷い目に合わないか心配したカホが、タカトの口を両手で抑えた。

カホ「もう、ダメ!」

タカト「離せ!」

カホの手を振り払うタカト・・・・・



タカト「俺は自分以外の人間はみんなバカだと思ってる・・・・」


タカトは、深い憎悪に燃えた目で、そう言った・・・ 


ビク!!


カホは、彼の目に思わずゾクッとしてしまった・・・


タカト「昔、誰かが大衆の8割はバカだと言った・・・こんなこと言ったら徹底的に非難されるかもしれないが俺は全くその通りだと思う。8割どころじゃねえ!みんなバカだ!アホばっかりだ!
人間ってのはバカ丸出しの生き物だ!そうだ!どうせなら、その神とやらに人類みんな殺されちまえばいいんだ!」


みんな神だとか、よくわからないものにすがり、実体の見えぬ不確かなものにおびえてやがる・・・・・・・・・・・・・・


そして、それを理由に未来ある子供の命を犠牲にする・・・・


そんなクソみたいな生き物が人類だとするなら・・・


みんな死ねばいいんだ・・・・・・・・


そうすれば、この苦しみの連鎖から解放される・・・・





タカトは、時計台という偶像にすがりつく、さっきの愚かな大人たちの姿を思い浮かべながら・・・


タカト「みんな心が弱いだけだ・・・心が弱いから、あんなものにすがってしまうんだ・・・」


カホ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


しばらくの沈黙・・・・それからカホは寂しそうに、静かな声でこう言った・・・



カホ「タカト、確かにあなたの言うことにも一理あるかもしれない・・・・でもね・・・心の強い人なんて、この世にいないと思うよ・・・」



!!


タカト「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


カホのその一言に、タカトは何も言えなくなってしまった・・・


いつも無口でクールなカホだが、この時ばかりは、言葉の中に言い知れぬ強い感情がこもっていたようだ・・・・


カホのその一言は、タカトの怒りの熱を冷ますような効果を持っていた・・・・





2人は、黙って道を歩く・・・・


カホ「でも、なんとか今年も私たちはイケニエにならずにすんだね・・・・」

タカト「ああ・・・俺も後、1点低ければ、もしかしたらイケニエになっていたかもしれねえ・・・・」


タカトは、自分の真っ白な服の胸の辺りに大きく描かれた「50」という数字をジッと見る・・・



この人類社会の、基本は【数値化社会、点数社会】である・・・

人類の子供たちが通う【人類学校】・・・・

そこでの成績は、子供たちがみんな着ている【国民服】と呼ばれる真っ白な服の胸に、数字として記される。

100点満点形式で、50点以下の者は確率的にイケニエにされる可能性が高くなるという話がある。
(あくまで噂の中の話だが・・・)


【人類学校】での最終成績は、後の人生にもついて回り、大人たちの社会でも壮絶な数値化社会
となっている。いわゆる学歴みたいなものだ。


子供たちは、学校に通っている間は、みんなこの成績の数字が示された【国民服】を着なくてはならない。
つまり、国家的な取り決めとして、子供の私服は許されていないのだ。


だが、常に100点満点を取り続けるカホのような子供には、例外として私服が許されている。






その時だった!

首都ゼキウス府に住む全ての人類国民に、政府からの知らせを伝える鐘【知らせの鐘】が鳴った・・・


タカト「何の知らせだろう?」

カホ「儀式はもう終わったはずよね?」



2人は不思議そうに、耳を澄ます。


【知らせの鐘】に続いて、本題である【政府からのお知らせ】が巨大スピーカーで流れた・・・・


スピーカー「ゼギウスに住む全ての人類国民の皆さん、こんちには!人類政府より呼び出しの伝令です!今年は、例年より2名ほど多く子供が欲しい!と神々からお告げがありました!」



その知らせに、国民全員が驚愕と恐怖で恐れ、震えた声を出す!



タカト「2人も増やすだって!神々の奴ら、子供の命をなんだと思ってるんだ!」




誰だ・・・誰がえらばれてしまったんだ・・・





スピーカー「タカト・ヤマト!そして、カホ・イザベラ・・・・おめでとうございます!あなたたちは神々に選ばれた【名誉ある子供】となりました!」



!!!!


タカト「え??」


まさか、俺たち2人が選ばれてしまったのか・・・イケニエに・・・


タカトとカホは、お互い青い顔して顔を見合わせた・・・・


ヤバい・・・殺される・・・・・




【失われた300年】とは・・・・


人類政府が神々と結んだ【3022年 生贄の約束】条約により、約3世紀に渡って、
あらゆる世代の子供たちがイケニエとなって人生を奪われた・・・その期間がタカトたちが生きる6022年まで続いていることから、【失われた300年】という言葉が出来上がった。






はあ!はあ!はあ!


走るタカトとカホ・・・・・



2人は、必死にゼギウス府から逃げようとする!


タカト「イケニエにされてたまるかよ!」


逃げる2人に気付いたのか、騎士姿の政府軍が追いかけてきた!


政府軍「待てー!」


騎士の格好で、追いかけてくる軍は、まさに不気味そのもの・・・



しかし、おかしい・・・・考える暇もなかったが、タカトの頭の中でふと疑問に感じたことがあった・・・

俺はともかく、成績優秀者のカホまで、なぜイケニエに選ばれた?

これまでの例なら、成績優秀者はイケニエにされていなかったのに・・・・



カホ「無理よ!政府軍の追手から逃げられるわけないわ、仮にゼギウスから出れたとして、その先どうするの?」


タカト「ゼギウスから出てから、考えればいいさ!こうなったら、もう誰も信用できねえ!大人なんて、社会なんて信じた方が負けだって今証明されたな!」



カホ「待って!」

カホがタカトの手を引っ張る!


カホ「あなたの・・・お父さんと、お母さんは・・・・・どうするの?」


タカト「!!」


そうだった・・・子供がイケニエになることを拒み、逃げ出してしまった場合、保護者である親は・・・・・・その責任をとらなくてはならない!!



『人類政府は、神々に対して、5歳から20歳までの若い世代を対象に、毎年10名の子供及び若者をイケニエとして差し出す。

1年でもイケニエを差し出さなかったり、イケニエとして差し出す予定の子供を逃がした場合、人類は、神による強大で恐ろしい報復を受けることになる。

そして、子供の保護者である両親も、責任をとって命を絶たなくてはならない。』



人類ならばみんな知ってる、条約のこの一文・・・・


それを今やっと思い出したタカト・・・・


自分の命ばかりに気を取られ、忘れていた!


父さん・・・・母さん・・・・・





カホ「タカト!!」


足が止まっていたタカトは、勢いよく走り出す!


タカト「俺ん家のある方向にいったん、戻るぞ!」


と言って政府軍から逃げながら、タカトの家がある方向へ引き返す2人!




ゴオオオオオオオオ!!


家は焼き尽くされていた・・・・・政府軍によって・・・・


燃える業火・・・・・もうすぐ2度と戻らない灰になるであろう・・・


タカト「お、俺の家が・・・・・父さんと母さんの家が・・・」


タカトの足が止まる・・・そして、膝が地に崩れ落ちる・・・・・


カホ「タカト!!」


そのタイミングで政府軍が、2人を捕まえた!


政府軍「ガキのくせに、なんて足が速いんだ!手こずらせやがって!」


だが絶望に身を奪われたタカトには、もう抵抗する気力もなかった・・・


政府軍「さあ、来い!」


拘束された2人は、政府軍の兵士に引っ張られ、ある場所まで連れていかれる・・・





そこは、先ほど子供たちがイケニエとして殺された場所、【天刑台】だった・・・・


政府軍「見ろ、親と会わせてやるぞ・・・」


天刑台の前には、2人の大人が・・・・


タカトの両親である父のマモルと母のナギサが、縄で縛られ、そこに座っていたのだ・・・・



マモル ナギサ 「タカト!!」


タカト「父さん!母さん!」



両親は、タカトの姿を見て、絶望と悲しみに思わず涙があふれていた!




ナギサ「ど、どうかタカトだけは・・・タカトとカホだけはお許しください!」


マモル「私たちの命は、どうぞ神々に捧げてください!しかし、子供たちだけは・・・」


両親は、必死に兵士に懇願するが・・・


政府軍「ならん!ならん!神がお求めなのは、貴様らの命ではない!子供の命なのだ!貴様らは子供をしっかり管理せず、逃がしてしまった責任として死んでもらうだけだ!」


あまりに絶望的すぎる状況・・・・・




その時だった!



カチン!!という音がしたかと思うと、目の前の全ての景色が止まった! 


必死に「子供をころさないで!」と懇願する両親の動きも・・・・・それを断る政府軍兵士の動きも・・・ 天刑台の下で他人の死を見物しようとする野次馬も・・・・


カホの涙も・・・・


全ての時が止まった・・・・・



止まった時の中で、動いているのはタカトだけだった・・・・


タカトは動いて、両親の手を触るが、石のように全く動かない・・・・・

同じくカホも・・・・兵士も・・・・触ってもピクリともしない・・・・


止まった時の中に、動いているのはやはりタカトだけだった・・・



え?え?え?どうなってんだ・・・・・何がおこったんだ・・・・



その時、タカトの耳に、今まで聞いたことのない神々しい声が聞こえた・・・・



「タカト・ヤマトよ・・・・・・・タカト・ヤマトよ・・・・・聞こえるか?」



タカト「だ、誰だ・・・・??」



その声が聞こえても、誰も動かない・・・・・


どうやら、本当に彼だけに聞こえる声のようだ・・・・



「安心しろ・・・・私が時を一時的に止めただけだ・・・」


実体の見えない者からの声・・・一体、誰なんだ??



タカト「誰だ?姿を見せろ!」


「私はお前ら人類が、神と呼ぶ生き物だ・・・・・つまり全ての創造主、全てを司る存在だ・・・」


タカト「神・・・だって・・・」


神「そうだ・・・・お前がいつも憎んでいる【神】というものだ・・・」


ふん、バカバカしい・・・・・何が神だって・・・


タカト「俺は信じないぞ、今話しかけている得体の知れない何かの正体が、神だなんて・・・」


神「そうか・・・では今、時間が止まっていることはどう説明するのだ?お前も今言ったように、姿の見えない私が得体の知れない何かだと思っているんだろう?
だとしたら、【神】という言葉で片付けるのが一番早いのではないか?」


タカトは周囲を見渡す・・・・確かに神様が時をとめたとでも言わなければ、自分以外の全ての人間が動いていないことに説明がつかない。


神「お前は、今、時が止まった世界にたった1人取り残されているわけだ・・・どうだ?やっと現実がわかったか?」


タカトは状況を冷静に把握して、少し寒気を感じる・・・

だとするなら・・・・


タカト「・・・・・俺に何の用だ?」


神「今すぐ選べ。自分の命を救うか?親の命を救うか?」



!!!

衝撃的すぎる選択に、タカトは耳を疑う。

神「これから間もなく、お前とお前の両親は、あの騎士たちによって殺される・・・だが、私の力で運命を少しだけ変えることができる。

お前を救うか

お前の両親を救うか

私は選ぶことができる・・・しかし、その選ぶ権利をあえてお前に託そう。」


え?え?なんだよ、それ・・・どういうことだよ、それ?


タカト「お、おい!なんでだよ!神様ならみんなまとめて救ってくれてもいいだろ!全知全能なんだろ?なんでもできるんじゃねえのか、神なら」


確かに、タカトの言う通りだ。 だが、この神は残酷だった・・・


神「もちろん、できる・・・・全ての運命を司るのが私だからな・・・・だが、私は知りたいのだ・・・・人間が非情な選択に迫られると、どんな行動をとるかということ・・・私が運命を司ることから離れれば、
人間はどんな選択をするのか?」

タカト「ふ、ふざけるな!そんな選択できるわけないだろ!」

神「選ばれなければ、どちらも死ぬだけだ・・・・言っただろう?私が全ての運命を司るものだと・・・・私が作った選択肢は変えることはできない・・・お前が変えられるのは、どちらかを選ぶだけだ・・・」

タカト「ちょっと待て・・・・お前が全ての運命を司るってことは・・・」

神「そうだ・・・・この状況も、全て私が作ったことだ・・・私が残酷な余興を楽しむために、あえて作った状況だよ。」


タカトは、この神の外道さに、激しい怒りを覚える・・・・


タカト「このクソ野郎が!!」


タカトは、恐ろしい憎悪がこもった目で、天を睨む・・・・

こいつが・・・・・今、俺にどこからか話しかけている、この【神】と名乗る奴が・・・・

全てを操っていたっていうのか・・・・時間も運命も・・・・

俺たち人間を操作し・・・・


そして、俺の家を・・・燃やしたっていうのか・・・・・



神「お前ら人間からすれば、私が操作したこの状況は残酷とも言える所業かもしれん・・・・だが、お前たち人間はもともと我々神々が地球に作ったオモチャに過ぎない・・・
我々が全ての創造主であり、お前らの主人なのだからな・・・・つまり、お前ら人間は【遊ばれる道具】に過ぎないのだ・・・・オモチャはオモチャらしく、我々を楽しませてくれればいいのだ・・・・・


街を作って 子供を産んで 食事をとって 成長して

戦争して 破壊して 憎しみあい 悲しみあい 感動し合い

素晴らしいオモチャじゃないか、お前らは・・・

さあ、文明という箱の中で、愚かで醜いショーを繰り返し、我々を楽しませててくれ!」


タカト「ふざけんな!人間には人権がある!生きる権利がある!誰にも縛られず、何者にも自分の人生を邪魔されず、思うがままに生きることができる・・・それが人間だ!
それを【神】などという不確かで目に見えない奴らの呪縛で生きているなんて、俺は信じないぞ!」


神「ハハハハハ・・・勇敢だな・・・・だが、お前のその1つ1つ発する言葉も、お前がそのように我々に対して怒りを持つことも・・・・全て我々がコントロールしている運命だとしたら?」


タカト「ハ!!」


まさか・・・・そんなこと・・・・・


タカト「・・・・信じない・・・・お、俺は信じないぞ・・・・・」

タカトは、一瞬で頭が真っ白になった・・・・

俺は・・・・俺すらも・・・自分自身すらも・・・・こいつに管理されているだと・・・

だとしたら・・・

もう、何を信じたら・・・

自分も信用できないってことなのか・・・・

何を糧に怒ればいいのか、わからなくなった・・・・


神「ふ・・・やっと状況が理解できたようだな・・・・・さあ、選べ・・・・お前は、お前の命か?両親の命どちらを選ぶ?」


タカト「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

神「選べ!!」



果たして、タカトはどちらを選ぶのか?



















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