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第一話 西浦秋穂 編
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私は、親が嫌いだ。
普通、親というものは子供の為に何だって出来るものでしょう?
子供の為に仕事や家事をして、
時に相談に乗って、時に一緒なバカな話をして…。
それが当たり前の家族の形。
でも、その当たり前が私には無い。
1度憧れると、理想ばかりが膨らんで「当たり前の家族の姿」がこの上なく美しいものだと勝手に思い込んでいる。
これは、“家族”に不満を抱えている西浦 秋穂の物語だ。
昨日、目を閉じてからどれくらいの時間が過ぎただろう。私は、バタバタと響く足音で目を覚ました。
時刻は午前七時。母がパートに行く時間だ。
私は、まだぼーっとする頭で立ち上がると、洗濯機を回してから台所に向かった。
シンクには、母が朝食に使用した食器が無造作に積まれている。私は軽いため息をついてから食器を洗い、近くに置いてあった食パンをくわえた。マーガリンもジャムも塗っていない冷えたパンは、味気がなくて全く美味しくない。
楽しい食事から、生きるための食事に変化したのはいつからだろうか。
食パンを食べている最中に、ピーッと洗濯機から洗濯終了の合図が聞こえた。私は大急ぎで歯磨きと着替えを済ませると、小走りで洗濯機へと向かった。別にすぐに洗濯物を出さなければならない訳ではないのだが、何故かあの音を聞くと急いでしまう。私は、慣れた手つきで洗濯物を干し終えると、そのまま鞄を掴んで家を出た。
朝起きてから家を出るまで約四十分。記録更新とはいかなかったが、家事もしているから上出来だろう。
学校に着くと、私の席の隣に塚田絵梨花が座っているのが見えた。彼女は私の唯一の友達だ。といっても、高校に入学してから今年同じクラスになるまでは全く接点が無かったのだが。
「おはよう絵梨花。」
私はにっこりと笑って自分の席に座った。
絵梨花は一瞬私のことをじっと見つめてから、少しだけ微笑んだ。
「おはよう秋穂。」
それだけ言うと、絵梨花は持っていた本に視線を戻した。
朝の絵梨花は、いつも少しだけ機嫌が悪い。普通の人は気づかないだろうが、人の顔色を伺って生きてきた私なら簡単に分かる。
私は何も気にしていないふりをして、絵梨花の手元を覗いた。
「国家試験問題集、弁護士編…?え、絵梨花。弁護士目指してるの?」
私が驚いて問いかけると、絵梨花は慌てて問題集を閉じた。
「あ、いや…。公務員の中から進路を探してて、父が弁護士だから…何となく…。」
「へぇ。凄いね。私なんて全く決まってないのに。」
私は感心して問題集に視線を戻した。絵梨花は元々賢いから、きっと何を選んでも余裕だろう。
私とは正反対だ。
「全然凄くないよ。実際、まだはっきりと決めた訳じゃないし。」
「勉強頑張ってるだけで十分凄いよ。私なんてほら、いつも赤点ギリギリ…。」
私は苦笑いで言った。勉強する時間が無いからと自分にいつも言い訳をしているが、それは自分の心の中だけであって、その事情をわざわざ話そうとは思わなかった。
私の様子をじっと見ていた絵梨花は、私が勉強出来ないことを気にしていると思ったのか、こんな提案をしてきた。
「勉強、教えようか?」
「え、本当?絵梨花の勉強の邪魔しちゃわない?」
私は驚いて絵梨花を見つめた。
絵梨花はいつも何でこんなに……。
絵梨花は私の剣幕に驚きつつも、笑って言った。
「大丈夫よ。教えるのも勉強だって先生も言ってたから。放課後は難しいから、休み時間だけでも良ければだけど。」
「ありがとう!お願いしていいかな?」
「もちろん。」
絵梨花の笑顔に、私は胸がいっぱいになった。
絵梨花はいつも、何でこんなに私の面倒を見てくれるんだろう。見放さずに手を差し伸べてくれる絵梨花のことが、私は大好きだ。
あの人…お母さんとは違って。
でも……。私は絵梨花に、何を返せるのだろうか。
普通、親というものは子供の為に何だって出来るものでしょう?
子供の為に仕事や家事をして、
時に相談に乗って、時に一緒なバカな話をして…。
それが当たり前の家族の形。
でも、その当たり前が私には無い。
1度憧れると、理想ばかりが膨らんで「当たり前の家族の姿」がこの上なく美しいものだと勝手に思い込んでいる。
これは、“家族”に不満を抱えている西浦 秋穂の物語だ。
昨日、目を閉じてからどれくらいの時間が過ぎただろう。私は、バタバタと響く足音で目を覚ました。
時刻は午前七時。母がパートに行く時間だ。
私は、まだぼーっとする頭で立ち上がると、洗濯機を回してから台所に向かった。
シンクには、母が朝食に使用した食器が無造作に積まれている。私は軽いため息をついてから食器を洗い、近くに置いてあった食パンをくわえた。マーガリンもジャムも塗っていない冷えたパンは、味気がなくて全く美味しくない。
楽しい食事から、生きるための食事に変化したのはいつからだろうか。
食パンを食べている最中に、ピーッと洗濯機から洗濯終了の合図が聞こえた。私は大急ぎで歯磨きと着替えを済ませると、小走りで洗濯機へと向かった。別にすぐに洗濯物を出さなければならない訳ではないのだが、何故かあの音を聞くと急いでしまう。私は、慣れた手つきで洗濯物を干し終えると、そのまま鞄を掴んで家を出た。
朝起きてから家を出るまで約四十分。記録更新とはいかなかったが、家事もしているから上出来だろう。
学校に着くと、私の席の隣に塚田絵梨花が座っているのが見えた。彼女は私の唯一の友達だ。といっても、高校に入学してから今年同じクラスになるまでは全く接点が無かったのだが。
「おはよう絵梨花。」
私はにっこりと笑って自分の席に座った。
絵梨花は一瞬私のことをじっと見つめてから、少しだけ微笑んだ。
「おはよう秋穂。」
それだけ言うと、絵梨花は持っていた本に視線を戻した。
朝の絵梨花は、いつも少しだけ機嫌が悪い。普通の人は気づかないだろうが、人の顔色を伺って生きてきた私なら簡単に分かる。
私は何も気にしていないふりをして、絵梨花の手元を覗いた。
「国家試験問題集、弁護士編…?え、絵梨花。弁護士目指してるの?」
私が驚いて問いかけると、絵梨花は慌てて問題集を閉じた。
「あ、いや…。公務員の中から進路を探してて、父が弁護士だから…何となく…。」
「へぇ。凄いね。私なんて全く決まってないのに。」
私は感心して問題集に視線を戻した。絵梨花は元々賢いから、きっと何を選んでも余裕だろう。
私とは正反対だ。
「全然凄くないよ。実際、まだはっきりと決めた訳じゃないし。」
「勉強頑張ってるだけで十分凄いよ。私なんてほら、いつも赤点ギリギリ…。」
私は苦笑いで言った。勉強する時間が無いからと自分にいつも言い訳をしているが、それは自分の心の中だけであって、その事情をわざわざ話そうとは思わなかった。
私の様子をじっと見ていた絵梨花は、私が勉強出来ないことを気にしていると思ったのか、こんな提案をしてきた。
「勉強、教えようか?」
「え、本当?絵梨花の勉強の邪魔しちゃわない?」
私は驚いて絵梨花を見つめた。
絵梨花はいつも何でこんなに……。
絵梨花は私の剣幕に驚きつつも、笑って言った。
「大丈夫よ。教えるのも勉強だって先生も言ってたから。放課後は難しいから、休み時間だけでも良ければだけど。」
「ありがとう!お願いしていいかな?」
「もちろん。」
絵梨花の笑顔に、私は胸がいっぱいになった。
絵梨花はいつも、何でこんなに私の面倒を見てくれるんだろう。見放さずに手を差し伸べてくれる絵梨花のことが、私は大好きだ。
あの人…お母さんとは違って。
でも……。私は絵梨花に、何を返せるのだろうか。
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