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京馬と俺の忠犬生活はつつがなく続いた。
一緒に店に出て、一緒に京馬の家に帰り、夜は京馬が飽きるまで身体を貪られ続ける。
身体の距離は日に日に近付くが、心の距離は日に日に遠くなっていくようで、正直俺はもうどうすればいいのかわからなくなっていた。
(京馬が恋人として俺を見ることはない)
別に監禁されているわけでも、軟禁されているわけでもねぇ。俺さえ何もかも捨てて京馬の元を去れば、それで簡単に終わらせられる関係だ。
引っ越しちまったから家は無いが、頼めば瑠衣がしばらくは置いてくれるだろうし、京馬からは律儀にも給料を支払ってくれているから金もある。
俺は自分の恋心に踏ん切りをつけて京馬の元を去ろうか考えるようになってきた。
***
相も変わらず抱き潰されて、身体を汚したままベッドに突っ伏していると、シャワーを浴びて戻ってきた京馬に「遥」と声を掛けられた。
「……あ?」
(こちとら腰が痛くてくたばってんだよ)
「これ、遅くなった」
言って、京馬は何やら小箱からプラチナに輝くチョーカーを取り出して、俺の首に着けてくれた。
「これ……」
「ホラ、首輪。買ってやるって言っただろ? 名前刻んでたら遅くなった。お前はもう立派な忠犬なのに悪かったな」
(やべぇ……)
不覚にも目頭が熱くなった自分に気が付いて、でも、それは嬉しかったからではなかった。
京馬が、完全に俺を『忠犬』だとしか見ていないという現実をまざまざと見せつけられちまったからだ。
これがプラチナの指輪だったなら、どんなに嬉しかったことだろう。
だが、これは〝愛〟を誓うものではない、〝主従関係〟を誓うための道具でしかねぇんだから。
「……サンキュ。高かっただろ?」
「ああ。二十八万」
「アンタ、そういう値段は隠せよ。『別に高くない』とか言えよ」
「だってこれで遥は完全に俺の忠犬だ。値段分しっかり働いてもらわなきゃ困るからな。――身体で」
「……ああ。これからも俺は忠犬頑張るよ」
京馬は嬉しそうに俺のチョーカーに触れて、そのまま鎖骨にキスを落とした。
けれど、キスがいやに冷たく感じられたのは、所有の金属から伝播した虚しさだろうか。
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