俺様執着男が忠犬になれと命じてくるがアンタに飼われる気などない

２４

　すぐにＴシャツを切り刻まれて、上半身が露わになると、男は俺の首筋にナイフを押し当てて、「切り刻みながらヤんの、最高に燃えるんだよねぇ」と首筋の刃に力を込めた。

　ツーッと血が流れるのがわかって、冷たいかたまりを飲み下したかのように背筋が凍りつき、身動きひとつ取れないでいると、今度は胸の中央にバツ印を刻み込まれる。

　痛い、とか考える思考は麻痺していた。 
  
「お兄ちゃん失格だからバツ印ね？ 」

　腕に、腹にバツ印を刻み込まれて、声も出せずに固まってしまっていると、履いていたスキニーパンツすらも切り刻まれて、そこでやっと我に返った。

「やめろ！」

　男の腹に思い切り蹴りを入れると、男はベッドの下に転がって腹を押さえながら丸まっていたけれど、すぐに立ち上がって再びナイフを向けてきた。

　このホテルの部屋はルームキー式になっていて、鍵は男が持っているから逃げることが出来ねぇ。

「躾のなってないネコだなぁ……痛い目見なきゃわかんない？」

　その言葉に酷く腹が立ったのは、『俺は犬だ』なんてことを心の奥底で思っちまった自分にだった。

　何だかんだいって、俺は京馬きょうまに『犬扱い』されることを本心では嫌じゃなかったのかもしれないということに気付いて愕然としちまったからで。

　そして、今も尚、求めていることにも――。

　意識が散っていた刹那、腹にドンと鈍い衝撃を受けて、数秒のち、俺は男に刺されたのだということを自覚した。