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それから俺は、毎日、仕事の帰りに面会時間ギリギリまで真白のお見舞いに行った。取り留めもないことをいつまでもいつまでも話した。
こんなに穏やかに真白と会話を続けたのは、なんだかすごく久しぶりで、でも、すごく幸せな時間だった。
毎日、真白と病室で唇を結わえて。
「早く退院して伊吹を抱きしめたい」なんていう言う真白に面映ゆくなったりして。
俺たちの距離は、またグッと縮まって。
出会った頃の、いや、今だって変わらない真白の愛を享受して。
そんな幸せな日々を過ごしていた。
真白の退院が近づいたある日、俺は要先輩に話しかけた。
ずっとずっと考えていたことを話そうと思って。
「要先輩」
「うん?」
要先輩が隣の席から俺の顔を窺い見る。
その瞳に少しだけ寂寥を込めて、そっと呟いた。
「俺、仕事を辞めようかと思っています」
「え?」
要先輩が目を瞬かせていた。
いきなりこんな話をしたら無理もないよな、とちょっとだけ苦笑する。
「真白が退院したら……もう、真白が変な気を揉まないように、真白だけの俺でいようかと思うんです。生活は、真白に甘えてしまうことになるけれど……」
「伊吹くん……それは佐伯先輩も了承してのこと?」
真白には、まだ話していない。
でも、話したらきっと喜んでくれるんじゃないかと思った。
「退院したら、話そうかと思っています」
「そっか……寂しくなるけれど、佐伯先輩は喜ぶかな?」
どうだろう、真白は喜んでくれるかな。
俺が、もう変に他の人間と関わって、真白を不安にさせたくないんだ。
俺は、もう真白だけの俺でありたいんだ──。
こんなに穏やかに真白と会話を続けたのは、なんだかすごく久しぶりで、でも、すごく幸せな時間だった。
毎日、真白と病室で唇を結わえて。
「早く退院して伊吹を抱きしめたい」なんていう言う真白に面映ゆくなったりして。
俺たちの距離は、またグッと縮まって。
出会った頃の、いや、今だって変わらない真白の愛を享受して。
そんな幸せな日々を過ごしていた。
真白の退院が近づいたある日、俺は要先輩に話しかけた。
ずっとずっと考えていたことを話そうと思って。
「要先輩」
「うん?」
要先輩が隣の席から俺の顔を窺い見る。
その瞳に少しだけ寂寥を込めて、そっと呟いた。
「俺、仕事を辞めようかと思っています」
「え?」
要先輩が目を瞬かせていた。
いきなりこんな話をしたら無理もないよな、とちょっとだけ苦笑する。
「真白が退院したら……もう、真白が変な気を揉まないように、真白だけの俺でいようかと思うんです。生活は、真白に甘えてしまうことになるけれど……」
「伊吹くん……それは佐伯先輩も了承してのこと?」
真白には、まだ話していない。
でも、話したらきっと喜んでくれるんじゃないかと思った。
「退院したら、話そうかと思っています」
「そっか……寂しくなるけれど、佐伯先輩は喜ぶかな?」
どうだろう、真白は喜んでくれるかな。
俺が、もう変に他の人間と関わって、真白を不安にさせたくないんだ。
俺は、もう真白だけの俺でありたいんだ──。
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