その執着、愛ですか?~追い詰めたのは俺かお前か~

ちろる

文字の大きさ
上 下
29 / 53

29

しおりを挟む
 かなめ先輩の家に戻ると、もう二十三時近くになっていた。
 そっとリビングに入ると、要先輩と孝太郎こうたろうさんが心配そうに俺を見つめた。

伊吹いぶきくん、おかえり。南波ななみちゃんと何かあった?」

「南波ちゃんに……好きだと言われました……。それで俺……南波ちゃんを抱こうとして──」

 そこでまた、涙が頬を伝う。
 みっともなくて、すぐに手の甲でそれを拭った。

「伊吹くん?」

 要先輩が眉根を寄せて見つめてくる。
 じわじわじわじわと視界が霞むのを止めることが出来ない。

 要先輩、俺はやっぱり、やっぱり──。

「それで俺……やっぱり、真白ましろが忘れられなくて……無理でした」

 孝太郎さんが「まぁ、立ってないで座れよ」と俺をダイニングテーブルに促してくれる。しばらく涙が止まらなくて、でも、もうどうしたらいいのかわからなくて。

 俺も、真白も変われないのに、もうどうしたらいいのかわからなくて。

 何も喋れずにただ俯いて、当て所のない思考を彷徨わせていると、ソファで孝太郎さんの横に腰かけていた要先輩が立ち上がって、俺の傍でひざまずいて下から顔を覗き込んできた。

「伊吹くん。佐伯さえき先輩のところに戻ったら? 伊吹くんはやっぱり、なんだかんだ言って、佐伯先輩の執着をちゃんと愛だってわかってるんだよ。だから忘れられないんだよ」

 要先輩が白妙しろたえの手の平を俺のこぶしに重ねて、そう言った。
 孝太郎さんがその手を横目に見遣って、ちょっとだけ眉をしかめていて、心の中でごめんなさいと謝る。

 俺は、真白の執着を愛だと感じていたんだろうか。
 真白に執着されることを、本当は喜んでいたんだろうか。

 俺だけの真白だって、真白はいつも俺だけを見てくれているって、心のどこかで喜んでいたんだろうか。

 それが絶えてしまったから、こんなに心が空っぽなんだろうか。

 そう思ったら、たちまち真白に会いたくなって。
 執着だって愛なのかもしれない、そう思って。

「要先輩、孝太郎さん……ちょっと真白のところへ行ってきます」

 二人が大きく頷いて、俺はすぐにタクシーを呼んで真白の家へ向かった。
 車内で、真白とどう話せばいいか、真白はもう俺のことを切っているかもしれないのに、どう顔を会わせればいいか、ずっと考えていた。
 
 今更、真白に執着されることを望んでいるだなんて、おかしいのかもしれない。

 だけど──。

 南波ちゃんと関係を持とうとした瞬間、はっきりと真白が溢れ出して。
 閉じ込められない気持ちが溢れ出して。

 俺はやっぱり真白が好きで。
 どうしようもなく、真白が好きで。

 忘れることなんかできないんだ、そう思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...