12 / 53
12
しおりを挟む
嗚咽を堪えて、出来うる限りの冷たい声を出した。
真白に、俺は本気なんだって気持ちを理解させたかった。俺がどれだけ真白の執着に苦しんでいるのかを理解させたかった。
「クビにしたかったらすればいい。今の真白とは、俺は一緒に居られない」
『帰っておいで? 伊吹。ちゃんと会って話をしよう? こんな、電話一本で決められることなの? 伊吹の心はそんなに軽いものなの?』
突然、柔和になる声に少しだけ期待を持ってしまうのは、惚れた弱みだろうか。別れを切り出したことで、少しは真白の心が動いてくれたのだろうか。
そう願うことは儚い望みだろうか──。
「明日、帰る。今日は要先輩の家にいる」
『わかった、待ってるよ』
それだけ言って電話が切れた。
やけに容易く引き下がる真白に、何か恐怖のようなものを感じつつ、でも、もしかしたら……と希望を持ってしまうのは甘いだろうか。
真白は演技が得意な人間だ。
柔和なそれは、いつだって上っ面なことも、もう嫌というほど知っているし、この会話だって演技かもしれない。
でも、俺はまだ真白を好きだという気持ちがあるから……信じてみたくなってしまう。真白が変わってくれたら、と渇求してしまう。
「伊吹くん、大丈夫?」
要先輩が俺の顔を覗き込みながら気遣わし気な瞳を向けた。
孝太郎さんも、質実な顔で俺を見つめている。
「大丈夫です。明日、話をしようって、真白が言ってくれました」
「危ないことにならないよね? また、伊吹くんに何か酷いことをしたりしないよね? 本当に帰っても大丈夫?」
要先輩が心配そうな声を出すから、俺も少しだけ不安になったけれど。
また、何か酷いことをされるんじゃないかって心配になったけれど。
でも、真白を信じてみたい。
ちゃんと、真白と話してみたい。
これが最後になるかもしれないから──。
真白に、俺は本気なんだって気持ちを理解させたかった。俺がどれだけ真白の執着に苦しんでいるのかを理解させたかった。
「クビにしたかったらすればいい。今の真白とは、俺は一緒に居られない」
『帰っておいで? 伊吹。ちゃんと会って話をしよう? こんな、電話一本で決められることなの? 伊吹の心はそんなに軽いものなの?』
突然、柔和になる声に少しだけ期待を持ってしまうのは、惚れた弱みだろうか。別れを切り出したことで、少しは真白の心が動いてくれたのだろうか。
そう願うことは儚い望みだろうか──。
「明日、帰る。今日は要先輩の家にいる」
『わかった、待ってるよ』
それだけ言って電話が切れた。
やけに容易く引き下がる真白に、何か恐怖のようなものを感じつつ、でも、もしかしたら……と希望を持ってしまうのは甘いだろうか。
真白は演技が得意な人間だ。
柔和なそれは、いつだって上っ面なことも、もう嫌というほど知っているし、この会話だって演技かもしれない。
でも、俺はまだ真白を好きだという気持ちがあるから……信じてみたくなってしまう。真白が変わってくれたら、と渇求してしまう。
「伊吹くん、大丈夫?」
要先輩が俺の顔を覗き込みながら気遣わし気な瞳を向けた。
孝太郎さんも、質実な顔で俺を見つめている。
「大丈夫です。明日、話をしようって、真白が言ってくれました」
「危ないことにならないよね? また、伊吹くんに何か酷いことをしたりしないよね? 本当に帰っても大丈夫?」
要先輩が心配そうな声を出すから、俺も少しだけ不安になったけれど。
また、何か酷いことをされるんじゃないかって心配になったけれど。
でも、真白を信じてみたい。
ちゃんと、真白と話してみたい。
これが最後になるかもしれないから──。
16
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
愛しているかもしれない 傷心富豪アルファ×ずぶ濡れ家出オメガ ~君の心に降る雨も、いつかは必ず上がる~
大波小波
BL
第二性がアルファの平 雅貴(たいら まさき)は、30代の若さで名門・平家の当主だ。
ある日、車で移動中に、雨の中ずぶ濡れでうずくまっている少年を拾う。
白沢 藍(しらさわ あい)と名乗るオメガの少年は、やつれてみすぼらしい。
雅貴は藍を屋敷に招き、健康を取り戻すまで滞在するよう勧める。
藍は雅貴をミステリアスと感じ、雅貴は藍を訳ありと思う。
心に深い傷を負った雅貴と、悲惨な身の上の藍。
少しずつ距離を縮めていく、二人の生活が始まる……。

ポンコツアルファを拾いました。
おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて……
ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。
オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。
※特殊設定の現代オメガバースです
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる