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エレベーターを待つ時間すら惜しくて走って階段を駆け上がり、商工観光課の受付へ息を切らして戻って来た。
「由貴!!」
大声で叫ぶと課長が、課の面々が帰ったばかりの俺の再登場に目を丸くしていて、でも由貴だけはまるでこうなることがわかっていたかのようにそっと顔を上げて艶やかに微笑んだ。
「どうしましたか? 風早くん」
今すぐこの場で好きだと叫んでしまいたかったが、由貴の外聞もあるから、それはグッと抑え込む。
「ちょっと付き合え」
目を細めた由貴が課長に「すみません、課長。僕、半休を頂いても構わないでしょうか?」と静かに囁いた。
課長が目を瞬かせながら「あ、ああ……」と頷いたと同時、由貴がデスクを立って鞄を持ち俺に近付いてきた。
と、同時に俺の後から戻って来たらしい小鳥遊がいつの間にか後ろに居て、「主任」と呟いた。
「陽ちゃん、勝負に負けてくれたんですね?」
「あーもう、私の大負けですよ。風早先輩はどうやっても私の手には堕ちてくれないみたいです」
苦笑しながらそう言った小鳥遊に、俺は思わず「小鳥遊……」と声を掛けていた。
「絶対に主任を離しちゃ駄目ですよ? 風早先輩」
それだけ呟いて、後はもう黙って自席に戻って行った小鳥遊の代わりに、由貴が「行きましょうか、颯くん。僕に話があるはずですよね?」と腕を引いた。
待たせてしまったタクシーに「すみません」と謝って由貴と二人、後部座席に乗り込むと、由貴がそっと指を絡ませてきて俺もそれを握り返す。
思えばコイツの手を握りしめたこともなかったような気がして、こんなに温かかったのかと今更のように気が付いて。
タクシーが俺のマンションに辿り着いて、清算を済ませ玄関を開けるなり靴も脱がずに由貴を抱きしめた。
「言えよ……そんなことくらいだったならいくらでも直せただろ」
「颯くんの意志で言って欲しかったんです」
「あー、その、なんだ……好きだ。あー、それからその……あ、愛してる。こっ恥ずかしいな、おい……。まぁ、そういうわけだから……一度も言ってなくて悪かった。そんなこと気付いてもいなかった。伝わってんのに蔑ろにされてんだって勝手に誤解してた。俺のお前への執着は半端ねぇぞ。手放すなんて考えられねぇんだよ」
由貴が、掠めるように口接けてくる。
「やっと言ってくれましたね。颯くんからその言葉を聞くまでに僕がどれだけ苦労したかわかっていますか? 毎週末どうでもいい人間にキスだけ貰ってあとは一人で時間を潰していました。キミの気を引きたくて。こういう時、何て言うんでしたっけ?」
(キス……だけ?)
誰とも寝ていなかったのか?
俺だけだったのか?
――そんなん、もう……。
「悪いな。俺も小鳥遊とキスしちまった。でも、やっぱ――本当に欲しいのはテメェだけなんだよ」
「由貴!!」
大声で叫ぶと課長が、課の面々が帰ったばかりの俺の再登場に目を丸くしていて、でも由貴だけはまるでこうなることがわかっていたかのようにそっと顔を上げて艶やかに微笑んだ。
「どうしましたか? 風早くん」
今すぐこの場で好きだと叫んでしまいたかったが、由貴の外聞もあるから、それはグッと抑え込む。
「ちょっと付き合え」
目を細めた由貴が課長に「すみません、課長。僕、半休を頂いても構わないでしょうか?」と静かに囁いた。
課長が目を瞬かせながら「あ、ああ……」と頷いたと同時、由貴がデスクを立って鞄を持ち俺に近付いてきた。
と、同時に俺の後から戻って来たらしい小鳥遊がいつの間にか後ろに居て、「主任」と呟いた。
「陽ちゃん、勝負に負けてくれたんですね?」
「あーもう、私の大負けですよ。風早先輩はどうやっても私の手には堕ちてくれないみたいです」
苦笑しながらそう言った小鳥遊に、俺は思わず「小鳥遊……」と声を掛けていた。
「絶対に主任を離しちゃ駄目ですよ? 風早先輩」
それだけ呟いて、後はもう黙って自席に戻って行った小鳥遊の代わりに、由貴が「行きましょうか、颯くん。僕に話があるはずですよね?」と腕を引いた。
待たせてしまったタクシーに「すみません」と謝って由貴と二人、後部座席に乗り込むと、由貴がそっと指を絡ませてきて俺もそれを握り返す。
思えばコイツの手を握りしめたこともなかったような気がして、こんなに温かかったのかと今更のように気が付いて。
タクシーが俺のマンションに辿り着いて、清算を済ませ玄関を開けるなり靴も脱がずに由貴を抱きしめた。
「言えよ……そんなことくらいだったならいくらでも直せただろ」
「颯くんの意志で言って欲しかったんです」
「あー、その、なんだ……好きだ。あー、それからその……あ、愛してる。こっ恥ずかしいな、おい……。まぁ、そういうわけだから……一度も言ってなくて悪かった。そんなこと気付いてもいなかった。伝わってんのに蔑ろにされてんだって勝手に誤解してた。俺のお前への執着は半端ねぇぞ。手放すなんて考えられねぇんだよ」
由貴が、掠めるように口接けてくる。
「やっと言ってくれましたね。颯くんからその言葉を聞くまでに僕がどれだけ苦労したかわかっていますか? 毎週末どうでもいい人間にキスだけ貰ってあとは一人で時間を潰していました。キミの気を引きたくて。こういう時、何て言うんでしたっけ?」
(キス……だけ?)
誰とも寝ていなかったのか?
俺だけだったのか?
――そんなん、もう……。
「悪いな。俺も小鳥遊とキスしちまった。でも、やっぱ――本当に欲しいのはテメェだけなんだよ」
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