テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~

ちろる

文字の大きさ
上 下
35 / 58

35

しおりを挟む
由貴ゆきはそんなに俺を信じていなかったのか? 信じらんねぇから他所よそに女や男を作ってたとでも言い訳するつもりか? 自分だけ正当化するつもりか?」

はやてくんとは、もうこれ以上会話を続けても意味がありません。キミはどんなことをしても僕の望みを叶えてはくれませんでした。好きだと、愛していると言い続けた僕はなんだったんでしょう。もう二度とこんな関係はやめてくださいね? 颯くんとは一夜限りの相手になろうとも思えませんから」

 それだけ言って、由貴は部屋の扉を開けて出て行った。

 残された俺は手の中の万札をグシャッと握りしめて、しばらく放心状態になってしまっていた。

 ――だから、俺が叶えてやれなかった望みってなんだよ?

 どうして由貴はいつも肝心なことを言ってくれずに俺から離れていこうとするんだよ。

 言いたいことがあるなら、不満に思っていることがあるなら、口に出して伝えてくれたら、もし俺に非があるんだったらいくらでも謝るから。

 だが――。

 一夜限りの相手にもしてもらえないほど、よくわからない失望を勝手にされて、俺から離れるんだって思ったら無性に腹が立って。

 別れてもまだ由貴に執着している自分にもイライラして、ベッドから降りて頭を冷やすため気持ち冷ためのシャワーを浴びた。

 ユニットバスの鏡に映る胸中に紅く散った所有印をこんな風に残していく由貴の気持ちが全然わからなくて。

 多分、由貴も俺のことを憎からず思っていることはわかる。

 わかるが、口から飛び出す言葉はもうずっと冷たいそれで、俺に好きだ、愛していると囁いてくれた由貴はどこにもいなくて。

(もう戻ることは出来ねぇんだ……)

 そう諦めるしかないはずなのに、頭の中が由貴でいっぱいでどうしようもないほどに恋焦がれていて。

 でも――。

 アイツがあれでいて頑固であることを知っているから。

 ただひたすら、俺が由貴に叶えてやれなかった望みとは何だったのかと延々と考えてみても答えは出なくて。

 こんな虚しい思いをするなら小鳥遊たかなしと寝ときゃよかった、なんて考えてしまったけれど、確かに由貴の温もりで満たされたから。

 やっぱり俺には由貴が必要なんだよ。

 離れて行くなよ――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『倉津先輩』

すずかけあおい
BL
熱しやすく冷めやすいと有名な倉津先輩を密かに好きな悠莉。 ある日、その倉津先輩に告白されて、一時の夢でもいいと悠莉は頷く。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...