テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~

ちろる

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「――はやてくん、颯くん」

 頬をペチペチと叩かれて朧気に瞳を開けると、由貴ゆきが美しい顔を間近に寄せて俺の顔を覗き込んでいて、その身体はもうスーツに包まれていた。

 ガバッと半身を起こすと昨夜散々絡まり合って痴態を見せつけ合った鏡が目の前にあって、胸中に無数の鬱血痕を確認する。

「おはようございます、颯くん。サラッと身体は清めましたがシャワー入りますよね? 僕はもう入ったのでキミも支度してください。遅刻します」

 冷静になると、(俺はなんてことをしちまったんだ……)と罪悪感のようなものを覚えて、急いで枕元に畳んでくれていたらしい俺のスーツの上着のポケットから財布を取り出す。

「由貴、これ……治療代」

 財布から三万円を取り出して突き付けると、由貴は姿勢の良い肩をすくめて溜め息を吐いてみせた。

「……そんな援助交際みたいな真似はやめてください。颯くんはどうして僕に助けを求めたんですか?」

 そんなの……あの熱くくすぶった身体を解放してもらうには小鳥遊たかなしが相手じゃ考えられなくて、つい、もう別れた由貴にこれみよがしに未練がましく縋っただけだ。

(でも、そんなことは言えるわけがねぇ……)

「……たまたまテメェが目の前にいたから……、昔のよしみで助けてくれねぇかなと思っただけだ」

「それならあかりちゃんが相手でも良かったんじゃないですか? 目の前にいる人なら誰でも良かったのなら」

 痛いところを突かれて思わず言い淀んでしまうと、由貴が呆れたようにその美しい顔を少しだけ歪めた。

「小鳥遊は……手ぇ出したら色々面倒になんだろ。一夜限りの相手に慣れてるお前なら割り切れるかなって思っただけだ」

「本当に颯くんは何も変わっていませんね。あんなことをしてまでキミを手に入れようとした陽ちゃんと早く付き合ってあげたらどうですか? 颯くんこそ、適当な女には事欠かない男前なんですから。ずっとそうしてきたって言ってましたよね? 気持ちはなくとも付き合ってきたと」

 確かに言った。
 言ったけれど、それはだからこそ由貴は〝特別〟で〝例外〟な存在なんだって、こんな俺なりに伝えてみた言葉だった。

 それをそんな風に解釈していたのか?

 由貴に対しても、気持ちがなくとも付き合っていたとでも受け止めていたのか? そう解釈されていたのか?

 こんなに、愛してるのに――。
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