テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~

ちろる

文字の大きさ
上 下
34 / 58

34

しおりを挟む
「――はやてくん、颯くん」

 頬をペチペチと叩かれて朧気に瞳を開けると、由貴ゆきが美しい顔を間近に寄せて俺の顔を覗き込んでいて、その身体はもうスーツに包まれていた。

 ガバッと半身を起こすと昨夜散々絡まり合って痴態を見せつけ合った鏡が目の前にあって、胸中に無数の鬱血痕を確認する。

「おはようございます、颯くん。サラッと身体は清めましたがシャワー入りますよね? 僕はもう入ったのでキミも支度してください。遅刻します」

 冷静になると、(俺はなんてことをしちまったんだ……)と罪悪感のようなものを覚えて、急いで枕元に畳んでくれていたらしい俺のスーツの上着のポケットから財布を取り出す。

「由貴、これ……治療代」

 財布から三万円を取り出して突き付けると、由貴は姿勢の良い肩をすくめて溜め息を吐いてみせた。

「……そんな援助交際みたいな真似はやめてください。颯くんはどうして僕に助けを求めたんですか?」

 そんなの……あの熱くくすぶった身体を解放してもらうには小鳥遊たかなしが相手じゃ考えられなくて、つい、もう別れた由貴にこれみよがしに未練がましく縋っただけだ。

(でも、そんなことは言えるわけがねぇ……)

「……たまたまテメェが目の前にいたから……、昔のよしみで助けてくれねぇかなと思っただけだ」

「それならあかりちゃんが相手でも良かったんじゃないですか? 目の前にいる人なら誰でも良かったのなら」

 痛いところを突かれて思わず言い淀んでしまうと、由貴が呆れたようにその美しい顔を少しだけ歪めた。

「小鳥遊は……手ぇ出したら色々面倒になんだろ。一夜限りの相手に慣れてるお前なら割り切れるかなって思っただけだ」

「本当に颯くんは何も変わっていませんね。あんなことをしてまでキミを手に入れようとした陽ちゃんと早く付き合ってあげたらどうですか? 颯くんこそ、適当な女には事欠かない男前なんですから。ずっとそうしてきたって言ってましたよね? 気持ちはなくとも付き合ってきたと」

 確かに言った。
 言ったけれど、それはだからこそ由貴は〝特別〟で〝例外〟な存在なんだって、こんな俺なりに伝えてみた言葉だった。

 それをそんな風に解釈していたのか?

 由貴に対しても、気持ちがなくとも付き合っていたとでも受け止めていたのか? そう解釈されていたのか?

 こんなに、愛してるのに――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『倉津先輩』

すずかけあおい
BL
熱しやすく冷めやすいと有名な倉津先輩を密かに好きな悠莉。 ある日、その倉津先輩に告白されて、一時の夢でもいいと悠莉は頷く。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

処理中です...