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 俺は半ば無意識、後ろから由貴の腕を掴むと驚いたように振り返って「はやてくん……?」と目をまたたかせていた。

 荒い呼吸を抑えられないままに由貴の胸にしだれかかる。

「由貴……はっ……助けてくれ……」

「助けるって……颯くん、どうしたんですか?」

「……抱いて、欲しい」

 後にも先にも俺が由貴を誘ったのはこれが初めてだ。

 別れてからそんなことが出来るようになるなんてな、と自分でも呆れてしまったが今は由貴が欲しくて仕方がなかった。

 由貴が腕にもたれかかる俺を抱き留めて、その美しい顔に色を滲ませて「しばらく会わないうちにそんなお誘いが出来るようになったんですか?」と妖艶に微笑んだ。

 俺はもうフラフラで、由貴の腕に全体重を預けて荒い呼吸を繰り返すしかなくて、縋りつくように由貴のシャツの胸倉を手繰り寄せて膝を折りそうになるのを必死で堪えた。

 ――おかしくなりそうだ。

 縋る相手を間違っているのはわかっている。

 俺はどこまでもコイツを忘れられなくて、こんな口実を利用してでもまた『由貴』と呼べたことが切ないくらいに嬉しくて。
 『颯くん』と呼んでくれたことも切ないくらい嬉しくて。

 こんなにも、まだ気持ちが溢れている。

 熱い身体と煮えた脳は正直に由貴を求めていた――。

 助けて欲しいのは身体だけじゃない。
 心も助けて欲しいんだ。
 
 由貴はまだ俺を忘れていないか?

 俺はこんなにもお前を忘れられずにいるが……由貴はまだ俺に少しでも情はあるだろうか、どんな方法でもいいから触れたかった。

 もう由貴がいない日々が苦しくて。

 その言葉も付け加えられたらもっと喜んでもらえただろうか。
 それとも、そう思っているのは俺だけだろうか。

(忘れらんねぇよ……由貴。俺はどうすりゃいいかな……)
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