27 / 58
27
しおりを挟む「ユウキ、夕食は一緒にテーブルに着きなさい」
「え、お客様と一緒に、ですか?」
「あぁ。その方がきっと面白いものが観れるからね。」
「??かしこまりました」
不思議そうな顔で俺の隣を歩くユウキは、ヒナの本気を詰め込んだ『男の娘』のメイド姿だ。
よく歩けるものだと感心する高いピンヒールも上手く履きこなし、ついているのか再度確認したくなる程その容姿は女性そのもので、よくよく見れば女性と言い切るには不思議な妖艶さもあり、嗜好によっては劣情をそそるのかもしれない。
「・・・ユウキ」
「はい」
美比呂がいないこのタイミングを見計らい、俺は気になっていたことをユウキに聞いてみることにした。
「美比呂やヒナへの甘え上手さを見て思ったのだが、ユウキは兄姉などはいるのかい?」
「兄姉・・・ですか、いえ、双子の弟がおりましたが、子供の頃に両親が離婚して別々に引き取られた為、今はどうしているのか・・・」
・・・・・・双子の弟?
それは、義姉の美比呂もとても似ていると言った俺の中での『もしかしたら』の可能性が、確実なものになった瞬間だった。
他人の空似がないわけではないが、一度家族になった人間がそれほど似ていると言う人間がそうそういるとも思えず、美比呂の義弟がユウキの弟で兄弟の線が濃厚になる。
だが・・・美比呂にそれを告げる必要もないだろう・・・
ユウキ自身を美比呂は受け入れているし、似ているからと言って、義弟を含め縁を切った家族を改めて考えさせる必要はないのではないか。
「そうか、上に兄姉はいないのか、いや、2人には打ち解けて懐いているからな。女性は苦手だと言っても、慣れ親しんだ兄姉などがいたのかと思っただけだ、気にしないでおくれ。」
追及しても不審に思われる可能性もあり、敢えて『双子の弟』『両親の離婚』などには触れず、この話は一旦ここでクローズする。
「・・・大丈夫です、ずっと昔の事ですから」
今の俺には関係ない人間のことなので、そう言い捨てるユウキの自嘲的な言葉が引っかかりながらも、明日の朝食は部屋で取りたいことや、天気が良ければ夜はライトアップされた湖までのウッドデッキを美比呂と散歩しようかと思うなど、当たり障りのない会話をユウキとしながらディナー会場である、あのホールへとやって来た。
「晃介様、どうぞこちらのお席に。」
ユウキが俺を案内したのは、ステージの正面の席で、他の席では今晩も各々が愉しみながらの淫らな食事風景が繰り広げられている。
「伊坂様」
「あぁマダム。」
「準備は整っておりますので、いつでも・・・」
「ありがとう、世話をかけるね。」
「とんでもないことです、ふふ・・・こちらとしても、こういったショーは大歓迎でございますから。」
マダムの含みのある笑いに俺も自然と口角が上がってしまうが、状況がわからないユウキだけはキョトンとした顔に脳内は『???』が踊っていることだろう。
「マダム、ではユウキも共に食事を取らせるからそのように手配を頼むよ」
「かしこまりました」
マダムが去り、不思議そうな顔をしながらもユウキは俺におしぼりを手渡したり、グラスにシャンパンを注いだりとノラの仕事をこなしていく。
「あの・・・よろしいのですか?僕が一緒にお食事なんて・・・」
「構わないよ、気を張らなくていいから一緒に食べてくれると嬉しいんだが。」
ユウキにグラスを手渡し、ステージのライトを受けてキラキラとした気泡が浮き上がっては消える様を見つめながら俺は笑って見せた。
「あ・・・申し訳ありません、ありがたく頂きます。」
ユウキはユウキで不安と緊張があったようだが、少し肩の力が抜けたのか恥ずかしそうに笑ってグラスに口を付けた。
コース料理が運ばれ始め、和やかに進む食事。
ユウキの頬がほんのり赤く色づいてきた頃、俺はマダムに向かってそっと手で合図を送った。
ステージ以外の客席が暗転し、客席よりも1mほど高いステージへとつながる花道がライトで照らされると興味を誘われた客も、ノラも、一斉にそちらへと視線を向ける。
音を立てずに開いた扉から入って来たのは・・・
「えっ・・・ぁ、あの・・・晃介、様・・・あ、れっあの・・・」
口に運ぼうとしていたステーキを危うく落としそうになったユウキが声を抑えて俺に向かって口をパクパクと動かしている。
「あぁ・・・悪いコには仕置きが必要だろう?」
俺は傍に待機していたノラから、普段ノラたちが使用しているインカムを借り受け装着した。
「晃介様、一体何を・・・」
「なに、面白いものを見せてあげよう。ユウキは気にしないで食事を続けるといい。」
音の入りも問題ないと確認した俺は、首輪と目隠しをされ、雄のノラに鎖で繋がれ、重い足取りでステージ中央へと歩く従順だった有能な秘書、咲藤に声をかけた。
「・・・どうだ、気分は」
「!!こ、晃介様っ」
俺の声はホールに響き、視界を遮られ、ノラの誘導でしか動けない咲藤が俺の声を聴きわかりやすく動揺する。
引き締まった身体をいつも包み隠しているスーツもなく、両手首には手枷を嵌められ、自分を誘導する手に従うしかない咲藤はステージ上に設置してもらった開脚したまま拘束できる椅子に手足を固定された。
「ぁ、あ・・・晃介様・・・っおね、がいですッ、御姿を見せてください・・・!」
「・・・ふふふふ、なんだ咲藤、見えなくとも俺は傍にいるじゃないか。」
俺の言葉に咥えた生ハムを口から落としたのはユウキ。
ぽかーんとしているその様子が可愛らしく噴き出しそうになったが、俺がボロを出したら全てが水の泡になってしまうので気を引き締め直す。
「え、ぁ・・・それでは・・・今私をこんな姿にしているのは・・・」
「あぁ、俺だよお前には期待しているんだ。もう一度従順で忠実な俺の・・・秘書として戻ってこられるかはお前次第だからな、咲藤。」
ーーーそう、俺はあいつの嗜好に則って、罰を与える。
自分を伴ってここへ来たのはノラだと思っていたあいつの視界を奪い、傍にいて醜態を晒させているのは俺だと声を聴かせて思い込ませ、飼い犬に手を噛まれた俺はあいつが最も悔しがるであろう方法で罰を与えることにしたのだ。
「え、お客様と一緒に、ですか?」
「あぁ。その方がきっと面白いものが観れるからね。」
「??かしこまりました」
不思議そうな顔で俺の隣を歩くユウキは、ヒナの本気を詰め込んだ『男の娘』のメイド姿だ。
よく歩けるものだと感心する高いピンヒールも上手く履きこなし、ついているのか再度確認したくなる程その容姿は女性そのもので、よくよく見れば女性と言い切るには不思議な妖艶さもあり、嗜好によっては劣情をそそるのかもしれない。
「・・・ユウキ」
「はい」
美比呂がいないこのタイミングを見計らい、俺は気になっていたことをユウキに聞いてみることにした。
「美比呂やヒナへの甘え上手さを見て思ったのだが、ユウキは兄姉などはいるのかい?」
「兄姉・・・ですか、いえ、双子の弟がおりましたが、子供の頃に両親が離婚して別々に引き取られた為、今はどうしているのか・・・」
・・・・・・双子の弟?
それは、義姉の美比呂もとても似ていると言った俺の中での『もしかしたら』の可能性が、確実なものになった瞬間だった。
他人の空似がないわけではないが、一度家族になった人間がそれほど似ていると言う人間がそうそういるとも思えず、美比呂の義弟がユウキの弟で兄弟の線が濃厚になる。
だが・・・美比呂にそれを告げる必要もないだろう・・・
ユウキ自身を美比呂は受け入れているし、似ているからと言って、義弟を含め縁を切った家族を改めて考えさせる必要はないのではないか。
「そうか、上に兄姉はいないのか、いや、2人には打ち解けて懐いているからな。女性は苦手だと言っても、慣れ親しんだ兄姉などがいたのかと思っただけだ、気にしないでおくれ。」
追及しても不審に思われる可能性もあり、敢えて『双子の弟』『両親の離婚』などには触れず、この話は一旦ここでクローズする。
「・・・大丈夫です、ずっと昔の事ですから」
今の俺には関係ない人間のことなので、そう言い捨てるユウキの自嘲的な言葉が引っかかりながらも、明日の朝食は部屋で取りたいことや、天気が良ければ夜はライトアップされた湖までのウッドデッキを美比呂と散歩しようかと思うなど、当たり障りのない会話をユウキとしながらディナー会場である、あのホールへとやって来た。
「晃介様、どうぞこちらのお席に。」
ユウキが俺を案内したのは、ステージの正面の席で、他の席では今晩も各々が愉しみながらの淫らな食事風景が繰り広げられている。
「伊坂様」
「あぁマダム。」
「準備は整っておりますので、いつでも・・・」
「ありがとう、世話をかけるね。」
「とんでもないことです、ふふ・・・こちらとしても、こういったショーは大歓迎でございますから。」
マダムの含みのある笑いに俺も自然と口角が上がってしまうが、状況がわからないユウキだけはキョトンとした顔に脳内は『???』が踊っていることだろう。
「マダム、ではユウキも共に食事を取らせるからそのように手配を頼むよ」
「かしこまりました」
マダムが去り、不思議そうな顔をしながらもユウキは俺におしぼりを手渡したり、グラスにシャンパンを注いだりとノラの仕事をこなしていく。
「あの・・・よろしいのですか?僕が一緒にお食事なんて・・・」
「構わないよ、気を張らなくていいから一緒に食べてくれると嬉しいんだが。」
ユウキにグラスを手渡し、ステージのライトを受けてキラキラとした気泡が浮き上がっては消える様を見つめながら俺は笑って見せた。
「あ・・・申し訳ありません、ありがたく頂きます。」
ユウキはユウキで不安と緊張があったようだが、少し肩の力が抜けたのか恥ずかしそうに笑ってグラスに口を付けた。
コース料理が運ばれ始め、和やかに進む食事。
ユウキの頬がほんのり赤く色づいてきた頃、俺はマダムに向かってそっと手で合図を送った。
ステージ以外の客席が暗転し、客席よりも1mほど高いステージへとつながる花道がライトで照らされると興味を誘われた客も、ノラも、一斉にそちらへと視線を向ける。
音を立てずに開いた扉から入って来たのは・・・
「えっ・・・ぁ、あの・・・晃介、様・・・あ、れっあの・・・」
口に運ぼうとしていたステーキを危うく落としそうになったユウキが声を抑えて俺に向かって口をパクパクと動かしている。
「あぁ・・・悪いコには仕置きが必要だろう?」
俺は傍に待機していたノラから、普段ノラたちが使用しているインカムを借り受け装着した。
「晃介様、一体何を・・・」
「なに、面白いものを見せてあげよう。ユウキは気にしないで食事を続けるといい。」
音の入りも問題ないと確認した俺は、首輪と目隠しをされ、雄のノラに鎖で繋がれ、重い足取りでステージ中央へと歩く従順だった有能な秘書、咲藤に声をかけた。
「・・・どうだ、気分は」
「!!こ、晃介様っ」
俺の声はホールに響き、視界を遮られ、ノラの誘導でしか動けない咲藤が俺の声を聴きわかりやすく動揺する。
引き締まった身体をいつも包み隠しているスーツもなく、両手首には手枷を嵌められ、自分を誘導する手に従うしかない咲藤はステージ上に設置してもらった開脚したまま拘束できる椅子に手足を固定された。
「ぁ、あ・・・晃介様・・・っおね、がいですッ、御姿を見せてください・・・!」
「・・・ふふふふ、なんだ咲藤、見えなくとも俺は傍にいるじゃないか。」
俺の言葉に咥えた生ハムを口から落としたのはユウキ。
ぽかーんとしているその様子が可愛らしく噴き出しそうになったが、俺がボロを出したら全てが水の泡になってしまうので気を引き締め直す。
「え、ぁ・・・それでは・・・今私をこんな姿にしているのは・・・」
「あぁ、俺だよお前には期待しているんだ。もう一度従順で忠実な俺の・・・秘書として戻ってこられるかはお前次第だからな、咲藤。」
ーーーそう、俺はあいつの嗜好に則って、罰を与える。
自分を伴ってここへ来たのはノラだと思っていたあいつの視界を奪い、傍にいて醜態を晒させているのは俺だと声を聴かせて思い込ませ、飼い犬に手を噛まれた俺はあいつが最も悔しがるであろう方法で罰を与えることにしたのだ。
1
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる