上 下
21 / 58

21

しおりを挟む
 由貴ゆきがシャワーから出て寝室に入っていくのを見届けてから俺はリビングで煙草に火を点ける。

(これから、どうすりゃいいんだろう……)

 小鳥遊たかなしを落とさなかったら由貴と別れなきゃいけない……でも俺は彼女をそんな勝負に巻き込ませて傷つけたくないし、由貴以外の誰かと付き合うなんて考えられない。

 しかも、由貴は俺が勝った場合の望み次第じゃ別れる道を選ぶとか言い始めるし……勝っても負けても由貴と離れなきゃいけないんじゃないのか?

 由貴が俺に望んで欲しいものって何だよ。

 俺は由貴にどんな不満を抱かせてるっていうんだよ。

 他に女や男を作りまくっているアイツに俺が不満を抱くことはあっても、由貴と離れたくないがためにじっと我慢して耐え忍んでいる俺が何をしたっていうんだよ。

 煙草を灰皿に押し付けて寝室へ入っていくとやっぱり由貴はもう夢の中にいて、あどけない寝顔を晒していた。

 そっとベッドに入って、由貴の年齢の割には恐ろしいほどに肌理きめ細やかな頬に手を添えて撫でさする。

「由貴……俺の何が不満なのか言ってくれないか……? 直すから……。言葉にしてくんなきゃわかんねぇよ。どうやって察しろっつーんだよ……。俺はお前と離れたくねぇんだ……」

 やっぱり、由貴が起きている時には言えない本音がぼろぼろこぼれてきて、何なら涙まで流れてくるから思わず鼻をすする。

なっさけねぇ……。泣くとか女々しすぎんだろ、俺)

 小鳥遊と付き合えないって言ったら由貴はアイツを手に入れて俺から離れて行ってしまうだろうか。

 そうなるくらいなら小鳥遊を傷つけるとしても――。

 だけど、やっぱり俺にはそんなことが出来るわけもなくて、由貴のように恋人がいながら小鳥遊を二股かけるような真似が出来そうにないから。

 この美貌の恋人は、初めから俺が捕まえられるような存在じゃなかったのかもしれない、そう諦めなきゃいけないのに。

 どうしても、俺から離れてやることなんて出来そうもないから。

 せめて、その時が来るまでそばにおいてもらえるだけで……それで諦めるしかないんだなって思ったら。

 また悔し涙が浮かびそうなタイミングで由貴が「はやてくん……」なんて寝言をこぼすから、その呼び名に応えるべく掠めるだけの口接くちづけを落とした。

 煙草吸った後で悪いな、と思いながら。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【FairyTale】 ノンケ同士×お互い一目惚れ。甘い恋♡

BL / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:1,385

この先は君だけだと言われましても

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:350

ラヴィニアは逃げられない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:69,268pt お気に入り:2,553

絵の中はあやかしの世界でした 〜青年は私に結婚を申し込む〜

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:16

愛して、許して、一緒に堕ちて【オメガバース・完結!】

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:15

処理中です...