テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~

ちろる

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 先に由貴ゆきをシャワーに入れて、俺がシャワーに入って寝室に戻った時には由貴はもう夢の中に居るようだった。

 惜しげもなく裸身らしんを晒して布団に包まっている姿はどこかいとけなくて、いつものさしずめ女王様と呼んでもおかしくない摑みどころのない妖艶な笑顔や、奔放ほんぽうな態度もどこにもない。

 そっと白妙しろたえの頬に手を這わせて、唇に掠めるだけの口接くちづけを落とす。

 何ならもうこのまま目を覚まさないで、永遠に俺のそばにいてもらうことは叶わぬ願いだろうか。

 目を覚ましたらまた由貴は俺の知らない女や男の元へ行ってしまうんだと考えたら、胸が搔きむしられるような思いになる。

 今まで適当な女と情もなく付き合ってきた俺にとって由貴は初恋と呼べるのではないだろうかというくらい、本気で真剣に愛している存在で。

「由貴……愛してる。俺だけのものになれよ……」

 ポツリと、由貴が眠っているからこそ言えるそんな本心を呟いてみてもコイツには伝わるはずがないってことくらいわかっている。

(どうして、由貴に面と向かってそう言えねぇんだろう……)

 拒絶されるのが怖くて、その他大勢の一人かもしれない俺が束縛するような真似をしたら由貴は疎ましがって離れて行ってしまうんじゃないかって怖くて。

 それなら、その他大勢の一人でもいいからコイツを手放したくなくて、そばに居て欲しくて。

 俺がこんな女々しいことを考えているだなんてきっと由貴は思ってもいないんだろうし、好きに行動させてもらえる都合のいい恋人なんだろう、俺は。

「由貴……愛してる……」

 もう一度ポツンと呟いたら、由貴が僅かに身じろいだ。

 せめて夢の中だけでもいいから俺の本心が伝わってはくれないだろうか、なんて考えながら由貴の体温にくっつくためにベッドに入る。

 隣で眠る由貴を壊れ物を扱うように抱きしめてやったら、夢の中では俺を認知してくれたんだろうか……背中に腕が回ってきたと同時、「はやてくん……」と寝言を漏らすから。

 もう一度ゆっくり口接けて。

 しかし全然眠れる気配がしなくて、静かに由貴の腕を外して寝室からリビングに戻って煙草に火を点ける。

 あ、今日はもうキス出来ないな、なんて思いながら。

    一方通行のキスじゃ届かないってわかっているのに。
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