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俺、――風早 颯――は由貴より十歳下の二十六歳で、この春に入職してきた二十二歳の小鳥遊 陽の指導係をしている。
そして俺は今、そんな小鳥遊の連絡先を訊かなければならないという由貴のおつかいを受けている真っ最中。
「風早先輩、市内の空き店舗の資料まとめました」
小鳥遊はゆるく巻いた栗色のロングヘアを下ろし、まだ幼さの残るクリクリした大きな二重の双眸に、少し低めの鼻、厚くも薄くもない形の良い唇。
所謂、可愛いと呼ばれる部類の女だ。
コイツの連絡先を訊いて、由貴と寝ているところを想像しただけで腹が立つし、イライラして仕方がない。
けれど、由貴に素直になれない俺はアイツの奔放な人間関係に対してやめてくれ、俺だけを見ろということが言えない。
俺は執着なんかしていない、由貴が俺に執着してこいと心の中でただひたすら一方通行に願うのみ。
「ああ、お疲れ。なぁ……小鳥遊さ、今日仕事の後って何か予定あるか?」
そう問うと、何故か小鳥遊は目尻に朱を刷いた。
「……えっ? 特に予定はありませんけど……」
訊きたくない、マジで訊きたくないけれどでも訊かなきゃまるで俺が嫉妬しているんだと思われてしまう。
由貴には俺は余裕なんだ、お前がどこの女や男と遊ぼうが俺はちっとも傷ついてなんかないし余裕なんだって思わせなきゃいけないから。
「ちょっと訊きてぇことがある。職場じゃなんだから……仕事があがったら『モンドリップ』に行かねぇか?」
『モンドリップ』は役所のすぐ近くにある厳選されたコーヒーと軽食を出すカフェで利用する職員も多い。
「じゃあ十七時半に待ち合せますか?」
小鳥遊が何故か嬉しそうに頬を紅潮させているので、(もしかしてコイツ俺に気があるのか?)なんて憶測してしまう。
由貴ほどの美貌ではないが、俺も漆黒の髪に濡れたような黒い瞳を持つ甘い精悍な面立ちと言われ続け、女に事欠いたことはない。
そんな俺があろうことか男の由貴に心酔してるんだから世も末だ。
ふと視線を感じて振り向くと、小鳥遊と話している俺に満足気な瞳を由貴が離れた席から送ってきて。
睨み返してやったら、にこりと笑ってすぐに視線を逸らされた。
本当に小鳥遊と遊びたくて仕方がないんだなって思ったらふつふつと嫉妬に苛まれたけれど、俺は何とか取り繕って「悪いな、よろしく」と返事をした。
(クッソ……一矢報いてぇ)
そして俺は今、そんな小鳥遊の連絡先を訊かなければならないという由貴のおつかいを受けている真っ最中。
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所謂、可愛いと呼ばれる部類の女だ。
コイツの連絡先を訊いて、由貴と寝ているところを想像しただけで腹が立つし、イライラして仕方がない。
けれど、由貴に素直になれない俺はアイツの奔放な人間関係に対してやめてくれ、俺だけを見ろということが言えない。
俺は執着なんかしていない、由貴が俺に執着してこいと心の中でただひたすら一方通行に願うのみ。
「ああ、お疲れ。なぁ……小鳥遊さ、今日仕事の後って何か予定あるか?」
そう問うと、何故か小鳥遊は目尻に朱を刷いた。
「……えっ? 特に予定はありませんけど……」
訊きたくない、マジで訊きたくないけれどでも訊かなきゃまるで俺が嫉妬しているんだと思われてしまう。
由貴には俺は余裕なんだ、お前がどこの女や男と遊ぼうが俺はちっとも傷ついてなんかないし余裕なんだって思わせなきゃいけないから。
「ちょっと訊きてぇことがある。職場じゃなんだから……仕事があがったら『モンドリップ』に行かねぇか?」
『モンドリップ』は役所のすぐ近くにある厳選されたコーヒーと軽食を出すカフェで利用する職員も多い。
「じゃあ十七時半に待ち合せますか?」
小鳥遊が何故か嬉しそうに頬を紅潮させているので、(もしかしてコイツ俺に気があるのか?)なんて憶測してしまう。
由貴ほどの美貌ではないが、俺も漆黒の髪に濡れたような黒い瞳を持つ甘い精悍な面立ちと言われ続け、女に事欠いたことはない。
そんな俺があろうことか男の由貴に心酔してるんだから世も末だ。
ふと視線を感じて振り向くと、小鳥遊と話している俺に満足気な瞳を由貴が離れた席から送ってきて。
睨み返してやったら、にこりと笑ってすぐに視線を逸らされた。
本当に小鳥遊と遊びたくて仕方がないんだなって思ったらふつふつと嫉妬に苛まれたけれど、俺は何とか取り繕って「悪いな、よろしく」と返事をした。
(クッソ……一矢報いてぇ)
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