上 下
24 / 56

24

しおりを挟む
 二人で会社に戻ると、来栖くるす先輩が近付いてきた。

「お疲れ様。椎名しいな日高ひだかくん」

 僕はペコリと頭を下げて、暖人はるとは来栖先輩と目も合わせない。
 暖人の目の前で、来栖先輩がポンと、また大きな手の平を頭に乗せてくる。

「日高くん」

「なんすか?」

 暖人が、どこまでも感情のこもっていない声を出した。
 来栖先輩が焚きつけるような視線を暖人に向けて、僕は来栖先輩が何を言い出すんだろうとソワソワしてしまう。

「俺、昨日、椎名を抱いたよ? もう椎名は日高くんのものじゃないよ? 椎名は俺のことが好きなんだ。ちょっかいかけるのは、日高くんがやめてくれない?」

 暖人がチラリと僕を横目に見遣った。
 何故か、後ろめたい気持ちがしてしまうのは何故だろう。後ろめたいことをしたのは暖人なのに。僕は、報われたはずなのに。

「そっすか。まぁ、来栖先輩が葵晴あおはをどうしようと、俺が葵晴を好きな気持ちまでは左右できないんで。人の気持ちまでは左右できないんで。そんくらいは、わかりますよね?」

 来栖先輩がどこか勝ち誇った顔で僕の肩に手を置いた。
 わざと、暖人に見せつけるように僕の耳朶じだに口元を寄せて囁いた。

「じゃあ椎名、今日も帰りにね」

 僕はコクリと頷いて、暖人は何も言わず自分のデスクに戻った。
 その背を縋るように見つめてしまう僕はなんだ。

 どうしよう──。

 僕の気持ちは宙ぶらりんだ。
 暖人の元へも、来栖先輩の元へも行けていない。

 身体は、来栖先輩のものになったけれど。
 心は、ずっと宙ぶらりんだ。

 二人から離れて、一人になれば楽になれるんだろうか。
 やっぱり僕は、一人で生きていくしかないんだろうか。

 誰かに孤独を埋めてもらおうなんて、甘えなんだろうか──。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

オレと親友は、どうやら恋人同士になったらしい

BL / 完結 24h.ポイント:1,870pt お気に入り:82

『悪役令息』セシル・アクロイドは幼馴染と恋がしたい

BL / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:153

【完結】BL声優の実技演習

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:45

愛をあなたへ

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:204

凌辱夫を溺愛ルートに導く方法

BL / 完結 24h.ポイント:766pt お気に入り:3,630

手をつないで(BL)

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:63

初恋の実が落ちたら

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:125

【完結】運命の番保険

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:71

【完結】抱き締めてもらうにはどうしたら、

BL / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:1,117

僕達は恋人ですらなかった。

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:79

処理中です...