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「何でお前がここに居るんだよ! 暖人はると!」

 僕は仕事を終えて家に帰ってくるなり、何故か鍵が開いていて何事かと恐る恐る部屋に足を踏み入れると、リビングのソファでスナック菓子を食べながらテレビを見ている──元カレ、日高 暖人ひだかはると──に、こぶしを震わせた。

「おかえり、葵晴あおは

 おかえり、だと? お前とは三ヶ月前に別れたはずだ。
 何でそんな奴が僕の部屋でのうのうとくつろいでいるんだ。自分のしたことを忘れたの?

「どうやって入った? 何でここにいる?」

「まだ合鍵持ってんだ、俺。何でって、葵晴に戻って来て欲しいから」

 女と浮気したこの男が何をのたまっている?
 こいつは六年も付き合った僕を捨てて、女の元に行ったクソ野郎だ。そんな奴が僕に戻って来て欲しい? ふざけるのもいい加減にしろよ。

 二十一歳の時、小料理屋のバイト先で僕が店員、暖人が客として出会って六年も付き合った。

 仲良くなって、連絡先を交換して、プライベートでも会うようになって僕が暖人を好きになって、ゲイであることをカミングアウトした。

「俺はゲイじゃねぇけど、葵晴のことは特別な感情で見てた。手探りかもしんねぇけど付き合おう」と言ってくれて、ノンケなこいつと付き合って幸せな六年を過ごしていたのに、ノンケなこいつは僕を裏切った。

 僕の六年を無駄にされて、僕は二十七歳。こいつは三十五歳。

 女と浮気したとわかって、僕がどれだけ苦しんで悩んで、こいつとの思い出を三ヶ月かけてやっと昇華しつつあったのに何故、今更、僕の前に現れる?

「ふざけんなよ! お前、自分のしたことわかってる?」

「気の迷いだったんだ。あんなクソ女。それに、聞いてくれ。俺、今、無職なんだ」

 は? そこまで落ちぶれたの?
 女と浮気して、更には職まで失うなんて、一体どういう暮らしをしていたの?

 そんなの僕にはもう関係のない話だけれど。
 暖人とはもう綺麗さっぱり別れたんだから。

「出てけ。今更、暖人とやり直すつもりなんて毛頭ない」

 すると暖人がソファから立ち上がってこちらに近づいてきた。
 思わず、間合いを取ろうとしたのに、思い切り首筋を噛まれて。

 そこは僕の性感帯であって、六年の付き合いの中で完全に熟知されているそれで、僕は思わず「んっ」と吐息をこぼした。

 何度も何度も執拗に首筋を噛まれて絶えず嬌声が口からこぼれて。

「はるっ……やめっ……」

 しかし、気付けば、気付けば暖人がスーツの上着のボタンを開けていた。
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