72 / 85
72
しおりを挟む
***
真夜の入院中、九条さんの目が覚めたらしいと聞いて俺と真夜は二人で九条さんの病室を訪れた。
刺され所が悪かったらしく、まだまだ退院出来ないらしい九条さんは、ベッドに近付くと苦い顔をして見せた。
「宇大、真夜……悪かったな」
「いえ、俺がエミリさんの前で不用心に電話してしまったせいです……本当にすみませんでした」
頭を下げると九条さんは申し訳なさそうに「やめてくれよ」と力なく笑った。
「真夜も悪かった……。真夜の心には宇大しかいないのに、俺は自分の私情と店の経営のためだけにお前を苦しめたな……。親代わり失格だ」
「九条さんは悪くない! どんなことをされても、俺は九条さんがいなかったら、今こうして宇大くんとも一緒に居られなかったし、ずっと身体売って生きてたと思う。本当に恩人だよ……。俺は『ネロック』から移籍するつもりはないから、また九条さんのところで働きたい。だから早く退院してね?」
九条さんが苦い笑いを見せて「真夜はいよいよ本当の男を見つけたか。花嫁を送り出す気分だ。親心としては寂しいよ」と呟いた。
「たとえ宇大くんとずっと一緒でも九条さんだって俺にとってはずっと親代わりだから! ね? 宇大くん」
「正直俺は九条さんに嫉妬していました。でも真夜を大切にするあまり……そして店の経営が心配なこと、当然の心理ですから。真夜にしたことは……正直、腑に落ちません。でも、ちゃんと真夜は戻ってきたし、真夜には九条さんは特別な存在なんだってわかりました。――これからは真夜のことは俺に任せてください」
「ああ……。真夜を捕まえられるのは宇大だけだろうよ。俺が退院するまでは店は中川と時也に任せることにした。二人共よろしくな。宇大も落ち着くまで引退は少し待って欲しい。お前ら二人と時也で切り盛りしてくれ。頼りになるキャストばかりで本当に助かるよ」
九条さんが俺に握手を求めてきて、ギュッと握りしめたら「宇大! 痛い痛い! 俺はまだまだ絶対安静なんだぞ」と唇を尖らせた。
真夜がクスクス笑ってポツンとこぼした。
「俺には九条さんみたいな頼りになる親がいてくれて、愛してる宇大くんがそばにいてくれて本当に幸せ」
邪気のない、心の底からの笑顔で呟かれたその言葉に、俺も九条さんも屈託のない真夜が愛おしくて慈しむような笑みを浮かべた。
真夜の入院中、九条さんの目が覚めたらしいと聞いて俺と真夜は二人で九条さんの病室を訪れた。
刺され所が悪かったらしく、まだまだ退院出来ないらしい九条さんは、ベッドに近付くと苦い顔をして見せた。
「宇大、真夜……悪かったな」
「いえ、俺がエミリさんの前で不用心に電話してしまったせいです……本当にすみませんでした」
頭を下げると九条さんは申し訳なさそうに「やめてくれよ」と力なく笑った。
「真夜も悪かった……。真夜の心には宇大しかいないのに、俺は自分の私情と店の経営のためだけにお前を苦しめたな……。親代わり失格だ」
「九条さんは悪くない! どんなことをされても、俺は九条さんがいなかったら、今こうして宇大くんとも一緒に居られなかったし、ずっと身体売って生きてたと思う。本当に恩人だよ……。俺は『ネロック』から移籍するつもりはないから、また九条さんのところで働きたい。だから早く退院してね?」
九条さんが苦い笑いを見せて「真夜はいよいよ本当の男を見つけたか。花嫁を送り出す気分だ。親心としては寂しいよ」と呟いた。
「たとえ宇大くんとずっと一緒でも九条さんだって俺にとってはずっと親代わりだから! ね? 宇大くん」
「正直俺は九条さんに嫉妬していました。でも真夜を大切にするあまり……そして店の経営が心配なこと、当然の心理ですから。真夜にしたことは……正直、腑に落ちません。でも、ちゃんと真夜は戻ってきたし、真夜には九条さんは特別な存在なんだってわかりました。――これからは真夜のことは俺に任せてください」
「ああ……。真夜を捕まえられるのは宇大だけだろうよ。俺が退院するまでは店は中川と時也に任せることにした。二人共よろしくな。宇大も落ち着くまで引退は少し待って欲しい。お前ら二人と時也で切り盛りしてくれ。頼りになるキャストばかりで本当に助かるよ」
九条さんが俺に握手を求めてきて、ギュッと握りしめたら「宇大! 痛い痛い! 俺はまだまだ絶対安静なんだぞ」と唇を尖らせた。
真夜がクスクス笑ってポツンとこぼした。
「俺には九条さんみたいな頼りになる親がいてくれて、愛してる宇大くんがそばにいてくれて本当に幸せ」
邪気のない、心の底からの笑顔で呟かれたその言葉に、俺も九条さんも屈託のない真夜が愛おしくて慈しむような笑みを浮かべた。
1
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる