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 俯いてしまった俺に、真夜まやは「宇大うたくん顔上げて?」と下から覗き込んでくるから、そっと視線を合わせたら穏やかに微笑んで、それから続けた。

「違うよ? 俺が宇大くんを傷付けた。好きなくせに怖くなって逃げた。でも宇大くんはこうして俺に会いに来てくれた。スマホに送ってくれてたメッセージも全部読んだ。やっぱり好きなんだ……宇大くんが。逃げたくせに、好きなんだ。気持ちが消えないんだ。一緒にいるのも怖かったけど、離れ離れになるのはもっと怖かった。寂しいよ。そばにいて欲しい。もう……今更遅いかな?」

「それは俺の台詞だ。先に言うな」

 それだけ言ったら、ふと見た真夜の唇がカサカサと乾いていることに気付いて、ゆっくり己のそれを重ね、吐息で蒸して唾液で水分を含ませてやる。

 静かに唇を離したら、真夜が濡れたべにを光らせながら俺の手をぎゅっと握ってきて、その手が小刻みに震えていた。

 あの日、真夜が俺のことを〝火遊び〟だったと言って去って行ったあの日と同じように震えていた。

 キラキラと光る吸い込まれそうな黒い瞳にくっついた、瞬きの合間に今にもこぼれ落ちそうに揺れている露を、オマケみたいに唇で拭ってやる。

「あの日、震えてたの……本当は寒かったからじゃない。助けて欲しかった。宇大くんとのことをゲームだなんて言った嘘吐きな俺を」

「そんなの言われずともわかっていた。真夜が強がっていたことなんて。もっと優しくお前に語りかけて帰ってこいって言うべきだったんだ。それが出来なかった俺はお前より十一も歳上のくせに自分がガキ過ぎて情けなくなる。早く退院しろ。――お前の居場所は俺だけだと言ったろう?」

 真夜のまなじりから雫がはらりと頬に筋を作って、「うん」と、今度こそ本当の笑顔を見せてくれた。
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