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 オーナー・九条くじょうさんに閉店後に呼び出されたのは、真夜まやに暴行を働いてから三日ばかり経った時だった。

宇大うた、お疲れ」

 元ナンバーワンホストであり、先代オーナーから『ネロック』を引き継いで盛り立て続ける三十九歳の九条さんは、まだ現役を張れるんじゃないかという美丈夫だ。

「お疲れ様です、九条さん」

「ああ、座れ」

 店の事務所であるその場所は、瀟洒しょうしゃな調度品が集められた煌びやかな空間だ。

   イタリア製の大理石が彩るテーブルを挟んで二脚置かれている上質な革張りのソファを顎で指され、促されるまま腰を下ろす。

「話って何ですか?」

 真夜のことだろうか……と、当たりはつけていたけれど、九条さんが切り出してきたのは予想通りのものだった。

「宇大、お前……真夜に何をした?」

 あの日のことは思い出したくもない。
 けれど時也ときやさんに殴られたように、九条さんにも殴られる覚悟を決めて白状するしかないだろう。

「……レイプまがいのことをしました」

 端的に言葉を紡ぐと九条さんは俺の瞳をじっと覗き込んだ。

「本当なのか……?」

 どこまでも軽蔑する声で、憤りを隠しきれないと言った九条さんの冷淡な声音に俺はたちまち己のしてしまったことの重大さを痛感させられる。

「はい……。真夜は九条さんの愛人だと言っていました。九条さん以外を信じられないから俺のことは揶揄からかっていただけだと……。それで俺はカッとなって……すみません」

「真夜は俺の愛人なんかじゃない。真夜に手を出したことなんて一度もないよ。アイツは俺にとって愛する息子みたいな存在なんだ。宇大も聞いたんだろ? 真夜がどうやってこの店に辿り着いたか。話すつもりはなかったけどお前には話してしまったと言っていた。アイツは本気で誰かを愛することを知らない。ずっとしいたげられて生きてきたから。宇大のことも、ずっと相談されてて……本気になってしまってどうしようと。怖くなったと言っていた。いつか壊れる幸せなら逃げてしまいたいと。だから俺を口実に別れさせてくれと。そうしたら――宇大を怒らせてもうどうしたらいいのかわからないと泣いていた。真夜はお前に本気だ。本気だから……アイツは自分の中の葛藤に苦しんでる」

「……真夜は俺を信じられなくて逃げたんですか?」

「アイツは愛せないんだよ。誰か一人を。身体で一時繋がる関係しか知らない。誰か一人を愛して裏切られて傷付くかもしれないことに酷く怯えるんだ。孤独が染み付いてる。宇大のことが初めて真剣だからこそ、戸惑って悩んで自分を追い込んでる」

 そんな――。
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