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 風呂上り、プシュッと小気味よい音を立てて缶ビールのプルタブを開けて一口ぐびっと煽ると何ともやるせない気分になった。

 真夜まやは『そばにいてくれるなら毎日違う人でもいい』と言っていたが、それと同時に俺のことが好きだ、俺と付き合えたら一途になるとも言っていた。

 けれど、結局は俺よりオーナーを――九条くじょうさんを優先した。

 いや、俺は九条さんのように(事実かどうかは知らんが……)真夜を抱いてやることは出来ないから、真夜の心と身体を満たせる方を優先するのは当然だろう。

 いくら話を聞いてやったとしても、真夜の好きだという気持ちに応えてやれない俺は心すら満たしてやれないんだから。

(なのに、何でこんなにモヤモヤするんだ……)

 時也ときやさんの話が本当なら、真夜は俺だけに弱味を見せてくれたのだと錯覚しそうだが、九条さんにも見せているかもしれない。

(そう考えるだけでやたら気分が悪いのは何故だろう)

 これじゃあまるで立場が逆転しているじゃないか。

 俺を追いかけて来た真夜にほだされて、真夜の理解者は俺でありたいだなんて思い始めているこの気持ちはなんだ。

 恋愛感情だとでも言うのか?

 ……そう問われれば俺ははっきり『そうだ』とは認められない自分が確かにいるし、同性を性的対象に持っていけるかと問われれば自信がない。

(じゃあ何だ? 俺は真夜とどうなりたいんだ?)

 俺だけに(もしかしたらの話だが……)弱味を見せてくれた真夜がいじらしくて仕方がなくて、これは先輩として放っておけないという庇護欲のようなものなのだろうか。

 昨夜は真夜に触れられて身体が反応してしまった事実もあるが、それは一方的に受けた行為によるもので――。

 仮に俺が真夜を押し倒したとて、その揺るぎない男性の身体をまじまじと見つめて興奮できる自信はない。

(だが、九条さんと真夜が絡み合っているところを想像すると虫唾が走るし、この感情きもちは間違いなく嫉妬だ)

 真夜は『火遊びでも駄目?』と、問いかけてきたが……果たして〝火遊び〟と称して自分を試すことは許されるだろうか?

 もしも〝火遊び〟と称した実験で真夜の身体に嫌悪感を抱いて断念せざるを得なくなったとしたら、それは真夜を傷つけることになるだろう。

 だけど――。

 このまま真夜を野放しにしてしまうのは何だか悔しくて。

(これって、恋煩こいわずらいに近くないか……? 俺。勘弁してくれ……)
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