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しおりを挟む「――マジで? 有紗来てたのか?」
真夜くんが帰った後で時也さんと二人、美聖が目覚めたことや、お母さんと会ったことなどを話していると時也さんは目を瞬かせた。
「お母さん、有紗さんって言うんですか?」
「そうそう。まさかアイツがわざわざやってくるとはびっくりだ」
「わざわざって……息子が昏睡状態なら当然くるでしょ? お母さん、凄く素敵でした。時也さんにそっくりですね。見た目も性格も」
クスクス笑うと時也さんはどこか遠い目をして、それから嬉しそうに笑って見せた。
「嫁いびりされなかったか? 俺、母子家庭でさ。有紗がキャバ嬢しながら女手一つで育ててくれたんだよ。今はススキノのクラブでママやってんだ。俺に似て――つーか、俺が似てんのか? 破天荒な女だからさ。あんなんでも一応息子は心配ってわけか。まぁ、目覚める前に帰るのがアイツらしいんだけどさ」
「時也さんのこと、自慢の息子だって言ってましたよ。俺がそばにいたら死ぬほどもがいて死なないはずだから信じてくれって言われて。本当に心強かったです。でも――」
そこで言葉を切って俯いたら、時也さんは「ん?」と下から顔を覗き込んできた。
「時也さん、『俺に何かあったら連絡して』なんて仕掛けておくなんて、やっぱり不幸になる予感してたんですよね……ごめんなさい」
思わず苦く笑ったら、時也さんは俺の頭をよしよしと撫でて「ちげぇーよ」と囁いた。
「不幸になるって思ってたわけじゃねぇ。ラブラブカップルに愛の試練は必ず訪れるってわかってたからさ。あんなんでもイイ女なんだ。聖ちゃんにもいつか会って欲しいと思って根回ししといただけ。なぁ、今度一緒に北海道に行かねぇか? 改めてハニーを紹介したいんだ」
「俺、ハニーでいいんでしょうか……」
何だか自信がなくて時也さんの瞳を覗き込んだら、彼はグレーの瞳を艶っぽく眇めた。
「聖ちゃん以上のハニーはいねぇよ。真夜も元気。美聖さんも目覚めた。俺も目覚めた。もう疫病神の看板降ろせよ? 俺がそばにいる限り聖ちゃんは疫病神になれねぇんだから」
その言葉に涙が出そうなほど感極まってしまったけれど、俺は時也さんのために強くありたくて、我ながら綺麗に笑んで見せた。
「はい。覇王はトラウマごと疫病神を愛してくれました」
「なんで過去形? 現在進行形だろ?」
「そうでした。覇王はトラウマごと疫病神を愛してくれています。ありがとうございます」
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