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電話の向こうで時也さんのお母さんが自信たっぷりに笑うから、俺は通話が繋がったスマートフォンを持ちながら走りだした。
「ちょっ! 聖くん!? どうしたの!?」
背中に真夜くんの驚いた声が聴こえてきたけど、俺はその声に応える間もなく今しがた後にした時也さんの病室にすぐに戻って扉を思いっきり開く。
「――時也さん!」
大声で叫ぶと、時也さんの頭がゆっくりこちらに傾いて、そのグレーの瞳が俺の視線と絡まる。
「おはよう。聖ちゃん」
呼吸器マスクの中のくぐもった声が鼓膜を震わせたと同時、視界が急速にぼやけ始めて、時也さんに返事をしたいのに上手く口が動かない。
「あれ? おかえりって言ってくれねぇの?」
時也さんの愛しい声が聴こえるけれど、俺が最初にしたことは、時也さんに駆け寄ることではなくて、スマートフォンを耳にあてることだった。
「親子揃って……直感当たりすぎですよ」
電話の向こうでお母さんが『ほーらね? じゃあ息子によろしく! バーイ!』と明るい声で電話が切れた。
今度こそ俺は時也さんに近付く。
時也さんの手が俺の方に伸びてくるから、ギュッと握りしめて、こぼれる嗚咽と共にそっと声を掛ける。
「時也さん……俺、疫病神じゃ……なかったんですか?」
「ホラ、俺が疫病神なんて追い払ってやったろ? 聖ちゃんの不幸はもうおしまい。これで怖いモンなしだ」
どこまでもふてぶてしく笑う時也さんを瞳に宿したら、力強い言葉に何もかもが払われたのではないかと、信じてみたくなった。
「ちょっ! 聖くん!? どうしたの!?」
背中に真夜くんの驚いた声が聴こえてきたけど、俺はその声に応える間もなく今しがた後にした時也さんの病室にすぐに戻って扉を思いっきり開く。
「――時也さん!」
大声で叫ぶと、時也さんの頭がゆっくりこちらに傾いて、そのグレーの瞳が俺の視線と絡まる。
「おはよう。聖ちゃん」
呼吸器マスクの中のくぐもった声が鼓膜を震わせたと同時、視界が急速にぼやけ始めて、時也さんに返事をしたいのに上手く口が動かない。
「あれ? おかえりって言ってくれねぇの?」
時也さんの愛しい声が聴こえるけれど、俺が最初にしたことは、時也さんに駆け寄ることではなくて、スマートフォンを耳にあてることだった。
「親子揃って……直感当たりすぎですよ」
電話の向こうでお母さんが『ほーらね? じゃあ息子によろしく! バーイ!』と明るい声で電話が切れた。
今度こそ俺は時也さんに近付く。
時也さんの手が俺の方に伸びてくるから、ギュッと握りしめて、こぼれる嗚咽と共にそっと声を掛ける。
「時也さん……俺、疫病神じゃ……なかったんですか?」
「ホラ、俺が疫病神なんて追い払ってやったろ? 聖ちゃんの不幸はもうおしまい。これで怖いモンなしだ」
どこまでもふてぶてしく笑う時也さんを瞳に宿したら、力強い言葉に何もかもが払われたのではないかと、信じてみたくなった。
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