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「生理的振戦しんせんですね」

 時也ときやさんの震えはすぐに治まって、動揺する俺と美聖みさとにしばらく様子を見た医師が穏やかな声音で笑んでみせた。

「……生理的振戦? 時也さんは大丈夫なんですか?」

「一酸化炭素中毒の後遺症でしょう。煙を吸って数週間後に症状が出やすいんです。眠っている間に健康な人でも身体がびくっと動いたりしますよね? それと同じなので心配する必要はありませんよ。度々続くかもしれませんが自然と動こうとしている証です。ちゃんと良い方向に向かっていますよ。信じて、たくさん声を掛けてあげてください」

「先生、ありがとうございます」

 美聖と二人、ぺこりと会釈すると、医師は「では、ごゆっくり」と看護師を引き連れて病室から出て行った。

「こらぁ! 時也ぁ! 心配させないでよぉ」

 美聖が時也さんの頬をぺちぺちと叩くのを、俺は胸を撫で下ろして見つめる。

 そこで美聖が立ち上がって、「ひじり、私はそろそろ次の撮影があるから行くね? 二人っきりにしてあげるからほっぺにちゅーでもしてあげて?」と冷やかしてきた。

「うん。俺は面会時間ギリギリまでいるよ。気を付けて」

 言ったら美聖が時也さんの手を取って、「時也、またくるね?」と囁いて病室を後にした。

(時也さん……順調に回復してるんだ……)

 そこで俺は(あ、そういえば真夜まやくんと宇大うたさんに一般病棟に移ったこと言ってなかったな)と思い、スマートフォンを出して真夜くんにメッセージを送るとすぐに返信が来て驚いてしまう。

(あ、そっか……『ネロック』が全焼したから真夜くんはお休みなんだ)

『本当!? これから行っていい?』

 そのメッセージに添えられた、時也さん御用達の可愛い猫のスタンプが『わくわく』と喜んでいたから、思わず口元がほころ

『病室に案内するからロビーで待ってるね』

 それだけ返信すると、俺は眠る時也さんの目尻に口付けを落としてから「時也さん、ちょっと外しますね」と声を掛けて病室を後にした。

 その指が再び、ぴくりと動いたことにも気付かずに――。
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