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「聖」
「あ、亜美さん。お疲れ様です」
今日は十八時からの撮影で、控え室でスタイリストと打ち合わせしながら衣装の確認をしていたら、亜美さんがやってきたので軽く会釈すると、亜美さんは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「美聖、どうなの?」
あれから三週間ほど経って、美聖はICUから出られたけれどまだ目を覚ましてくれていなくて、時也さんと俺は美聖が目覚めるのを信じながら、それぞれの日々をこなしている。
「相変わらずです……ね」
「時也とは会ってるの?」
会っていない。
あれを最後に、誠実な彼は本当に俺を呼び出さず、美聖が目覚めて一緒に謝りに行ける日を待ってくれている。
(やっぱり俺がそばにいるせいかな……)
なんて考え始めると、また時也さんを振り回してしまうだけだから考えないようにしているけれど、美聖が目覚めない現実も、時也さんと会えない現実にも、正直打ちのめされている。
「時也もホント生真面目というか、良い意味では筋が通ってるのかもしれないけど……こんな時こそ聖のそばにずっといてほしいわよねぇ」
「時也さんに美聖が目覚めるまで変わらずにいて欲しいって言ったのは俺ですから……。俺も美聖に謝るまで時也さんを独占するようなことはしたくないですし……」
思わず苦く笑うと、亜美さんは「はぁー」と溜め息を吐いて「聖も時也も頑固ねぇ……」と呆れたように俺を見つめてきた。
「美聖の気持ちもさぁ、わかるよ。私は。けど、聖と時也の幸せだって願いたいの。美聖も聖も我が子みたいな存在なんだから。頑なに会わないって決めなくても、たまに顔くらい見せるのは駄目なの?」
「うーん……時也さんが俺の気持ちを尊重してくれての上なので、俺も我慢します」
と――。
ドレッサーのテーブルの上でスマートフォンが電話の音楽を鳴らしたので「すみません、亜美さん」と断って携帯を手に取りディスプレイを覗くと、画面には『真夜くん』と表示されていた。
(真夜くん? なんだろう?)
真夜くんは無事退院してもう仕事に復帰しているから、今は営業中のはずなのにどうしたんだろう?と訝しみながらも受話器マークをタップする。
「もしもし?」
『聖くん!! 大変!! どうしよう……! 時也さんが!!』
「聖」
「あ、亜美さん。お疲れ様です」
今日は十八時からの撮影で、控え室でスタイリストと打ち合わせしながら衣装の確認をしていたら、亜美さんがやってきたので軽く会釈すると、亜美さんは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「美聖、どうなの?」
あれから三週間ほど経って、美聖はICUから出られたけれどまだ目を覚ましてくれていなくて、時也さんと俺は美聖が目覚めるのを信じながら、それぞれの日々をこなしている。
「相変わらずです……ね」
「時也とは会ってるの?」
会っていない。
あれを最後に、誠実な彼は本当に俺を呼び出さず、美聖が目覚めて一緒に謝りに行ける日を待ってくれている。
(やっぱり俺がそばにいるせいかな……)
なんて考え始めると、また時也さんを振り回してしまうだけだから考えないようにしているけれど、美聖が目覚めない現実も、時也さんと会えない現実にも、正直打ちのめされている。
「時也もホント生真面目というか、良い意味では筋が通ってるのかもしれないけど……こんな時こそ聖のそばにずっといてほしいわよねぇ」
「時也さんに美聖が目覚めるまで変わらずにいて欲しいって言ったのは俺ですから……。俺も美聖に謝るまで時也さんを独占するようなことはしたくないですし……」
思わず苦く笑うと、亜美さんは「はぁー」と溜め息を吐いて「聖も時也も頑固ねぇ……」と呆れたように俺を見つめてきた。
「美聖の気持ちもさぁ、わかるよ。私は。けど、聖と時也の幸せだって願いたいの。美聖も聖も我が子みたいな存在なんだから。頑なに会わないって決めなくても、たまに顔くらい見せるのは駄目なの?」
「うーん……時也さんが俺の気持ちを尊重してくれての上なので、俺も我慢します」
と――。
ドレッサーのテーブルの上でスマートフォンが電話の音楽を鳴らしたので「すみません、亜美さん」と断って携帯を手に取りディスプレイを覗くと、画面には『真夜くん』と表示されていた。
(真夜くん? なんだろう?)
真夜くんは無事退院してもう仕事に復帰しているから、今は営業中のはずなのにどうしたんだろう?と訝しみながらも受話器マークをタップする。
「もしもし?」
『聖くん!! 大変!! どうしよう……! 時也さんが!!』
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