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「止めないでください、時也さん」
からからに乾いた喉で絞り出すように声を出すと、時也さんはこの状況の中、ふてぶてしいくらいににっこりと笑んでみせた。
「……俺は止めにきてねぇよ?」
言いながら、つかつかと足音を立てて近付いてくるから――。
「近付かないでください!」
けれど、時也さんは止まることなく俺の目の前まであっという間に距離を詰めて、優しく身体を抱きしめられる。
耳元で、風音のようにふわっと時也さんが囁く。
「止めにきてねぇから安心しろ。一緒に飛び降りに来ただけだから」
「……何、言って……」
「何度言えばわかる? 聖ちゃんが死ぬ時は俺も一緒だ。死にてぇんだろ? ほら、行くぞ。一緒に手ぇ繋いで飛び降りようぜ? あ、靴とか脱いだ方がいいのか? 二人で揃えてく?」
言って、時也さんは俺の腕を引いてフェンスに手を掛けるから。
「……ま、待って! 時也さん!」
「なんで止めんの? 聖ちゃんの意志だろ? だったら俺もどこまでも付き合う。一人で行かせるつもりなんてさらさらねぇよ。――それとも、本心は別か? なぁ、聖ちゃん。正直になってくれ。本当はどうしたい? どうせこのまま死ぬんなら、最期に本心を聞かせてくれねぇか? ほら、もう死ぬんだから何言っても自由だぞ? 俺にだけ聞かせてくれよ。聖ちゃんの遺言」
――本当に、この人はもう……。
頬が生温く濡れるのを感じながら、フェンスに手を掛ける時也さんの腕を引き離すと、そのまま行かないで欲しいのだと彼の背に縋る。
「死なないで……時也さん。そばにいたい。俺だけの時也さんでいてほしい。本当は、苦しいくらい独占したい……。これが、俺が言いたかった遺言です。時也さんには迷惑だってわかっていても、災いをもたらすってわかっていても……俺も幸せになりたかった……」
「なれるに決まってんだろ。俺が悪かった。両天秤にかけるようなことして……。もう、聖ちゃんしか見ねぇから一緒に帰ろう? 一緒に美聖さん目覚めるの待とう? 俺がそばにいたら聖ちゃんの不幸なんて吹き飛ぶ。信じろ。全部上手くいく」
それだけ言ってまなじりに落とされた口付けに、新たな涙が伝ったけれど、それはもう哀しみの涙ではなかった。
からからに乾いた喉で絞り出すように声を出すと、時也さんはこの状況の中、ふてぶてしいくらいににっこりと笑んでみせた。
「……俺は止めにきてねぇよ?」
言いながら、つかつかと足音を立てて近付いてくるから――。
「近付かないでください!」
けれど、時也さんは止まることなく俺の目の前まであっという間に距離を詰めて、優しく身体を抱きしめられる。
耳元で、風音のようにふわっと時也さんが囁く。
「止めにきてねぇから安心しろ。一緒に飛び降りに来ただけだから」
「……何、言って……」
「何度言えばわかる? 聖ちゃんが死ぬ時は俺も一緒だ。死にてぇんだろ? ほら、行くぞ。一緒に手ぇ繋いで飛び降りようぜ? あ、靴とか脱いだ方がいいのか? 二人で揃えてく?」
言って、時也さんは俺の腕を引いてフェンスに手を掛けるから。
「……ま、待って! 時也さん!」
「なんで止めんの? 聖ちゃんの意志だろ? だったら俺もどこまでも付き合う。一人で行かせるつもりなんてさらさらねぇよ。――それとも、本心は別か? なぁ、聖ちゃん。正直になってくれ。本当はどうしたい? どうせこのまま死ぬんなら、最期に本心を聞かせてくれねぇか? ほら、もう死ぬんだから何言っても自由だぞ? 俺にだけ聞かせてくれよ。聖ちゃんの遺言」
――本当に、この人はもう……。
頬が生温く濡れるのを感じながら、フェンスに手を掛ける時也さんの腕を引き離すと、そのまま行かないで欲しいのだと彼の背に縋る。
「死なないで……時也さん。そばにいたい。俺だけの時也さんでいてほしい。本当は、苦しいくらい独占したい……。これが、俺が言いたかった遺言です。時也さんには迷惑だってわかっていても、災いをもたらすってわかっていても……俺も幸せになりたかった……」
「なれるに決まってんだろ。俺が悪かった。両天秤にかけるようなことして……。もう、聖ちゃんしか見ねぇから一緒に帰ろう? 一緒に美聖さん目覚めるの待とう? 俺がそばにいたら聖ちゃんの不幸なんて吹き飛ぶ。信じろ。全部上手くいく」
それだけ言ってまなじりに落とされた口付けに、新たな涙が伝ったけれど、それはもう哀しみの涙ではなかった。
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