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「殺そうとしたってどういうこと? ひじりくんは時也ときやさんのことが憎いの? やっぱり他の女たちに苦しくなっちゃった?」

(時也さんを憎めたらどんなにいいだろう……)

「付き合う時、約束したんです。時也さんに、ムカついたら殺してくれ、それで俺が刺したら時也さんも俺と刺し違えて連れていってくれるって。俺はそんなことをするつもりはなかったけど――時也さんに殺してくれって言われた。店と俺との葛藤で苦しんでるって。だから、俺は店で時也さんを刺そうとして……そうしたら、姉の自殺未遂の連絡があって。時也さんを俺に巻き込んじゃいけないっていう神のお告げかな」

 思わず苦く笑うと、真夜まやくんと宇大うたさんは黙り込んでしまったので、必然的に俺も黙り込んで、三人の間に重苦しい空気が流れる。

 と――。

「聖ちゃん、ひでぇじゃん」

 病室の入口から、焦がれて止まない声が聴こえて。

「……時也さん……なんで、いま……同伴じゃ……、それになんでここが――」

「大切な恋人に着拒されてまで平然とお仕事出来るほど俺は真面目な男じゃねぇんだ。美聖みさとさん、何度か家に送ったから聖ちゃんは知ってる。ハウスキーパーさんがここだって教えてくれたんだ。つーか! おーおー、宇大と真夜もいたか。丁度良かった。紹介するぜ、俺のかわい子ちゃん」

 言って時也さんは俺のすぐそばまで近付いて、頬に掠めるように口付けを落とすと、真夜くんが「わーお」と歓声をあげた。

「宇大。真夜もかわい子ちゃんだけど、俺のハニーも負けず劣らずだろ? どうよ?」

「そのかわい子ちゃんを随分悩ませているみたいですけど?」

 宇大さんの返事に時也さんはたちまち真顔になって俺をじっと見つめると、「聖ちゃん、悪かった」と頭を下げられるから戸惑ってしまう。

「引き止める余裕すらなくて本当に悪かった。俺っていざとなったら使えねぇ男なのかもしれねぇ。俺なら仕事も聖ちゃんも両立出来るって、アホみたいに自信持ってた。そんなの聖ちゃんも俺も不幸になるだけだってわかってたけど……店への恩義で仕事を捨てる決心が出来なかった。――でも、聖ちゃんが離れてくって思ったらすげぇ不安になった。オーナーに土下座してでも、店を辞めさせてもらう覚悟は出来た。だから、そばにいてくれないか?」

 時也さんが俺のために仕事を捨てようとしている。

「……駄目、です」

 絞り出すような声で条件反射みたいに呟いたら、時也さんの、真夜くんの、宇大さんの視線が一斉に俺に集まった。
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