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「聖ちゃん、どうした? 店に来るなんて何かあったのか?」
真夜くんと話した翌日、俺は『ネロック』に足を運んで、VIPルームで時也さんが来るのを今か今かと待っていた。
「すみません……時也さん。なんか、時也さんが接客しているところ、見たくなって。――時也さん、やっぱり輝いてますよね。本当にこの仕事が好きなんですね」
「まぁ、俺はこれ一本で生きてきたからなぁ。でも、前も言ったけど最近はしんどいんだ。聖ちゃんっていう恋人がいるのに……悲しませてる、よな? 俺も心苦しくてさ。マジでごめん」
時也さんのために入れたボトルで喉を潤しながら、(さて、どう切り出そう――)と思わず俯くと、時也さんは俺からグラスを奪い取って唇を掠めてきた。
アルコールの味のキスだ。
「言ったよな? 俺の直感って高確率で当たるって。聖ちゃんが今日ここに来たの……俺にホスト辞めて欲しいけど、辞めさせたら悪いから離れるとか考えてるだろ? だから接客なんて見に来たんだろ?」
「――それは……」
「昨日さ、真夜からメッセージが来たんだ。聖ちゃんが苦しんでるって。どんなことかは言ってくれなかったけど……やっぱしんどいよな。俺みたいなん相手にしたら。ただ――俺はいつでも聖ちゃんに刺される覚悟だ。つーか、もう刺して欲しくてさ。俺も正直、仕事と聖ちゃんとの葛藤でどうしたらいいのかわからなくなってる。楽になりてぇ」
言って、時也さんはスーツの内ポケットからナイフを取り出すから、俺は目を見張ってしまった。
「と、きやさん……?」
「聖ちゃんがVIPに来たって聞いて、店の厨房からくすねてきた。仕事にも恩義があって愛してる。けど――聖ちゃんも死ぬほど愛してる。こんなどっち付かずな人間……殺してくれないか?」
「……どうして、俺が殺すんですか? 俺が刺したら時也さんも俺と刺し違えて一緒に連れてってくれるって言ったじゃないですか」
「聖ちゃん、本当に一緒に死んでくれんの?」
俺の瞳を覗き込んだ時也さんの視線は、いつもの冗談ではない真摯なもので、本気なのだろうということがわかって、思わず唾を飲み込んだ。
ゆっくり、ナイフを握りしめる――。
「聖ちゃん、どうした? 店に来るなんて何かあったのか?」
真夜くんと話した翌日、俺は『ネロック』に足を運んで、VIPルームで時也さんが来るのを今か今かと待っていた。
「すみません……時也さん。なんか、時也さんが接客しているところ、見たくなって。――時也さん、やっぱり輝いてますよね。本当にこの仕事が好きなんですね」
「まぁ、俺はこれ一本で生きてきたからなぁ。でも、前も言ったけど最近はしんどいんだ。聖ちゃんっていう恋人がいるのに……悲しませてる、よな? 俺も心苦しくてさ。マジでごめん」
時也さんのために入れたボトルで喉を潤しながら、(さて、どう切り出そう――)と思わず俯くと、時也さんは俺からグラスを奪い取って唇を掠めてきた。
アルコールの味のキスだ。
「言ったよな? 俺の直感って高確率で当たるって。聖ちゃんが今日ここに来たの……俺にホスト辞めて欲しいけど、辞めさせたら悪いから離れるとか考えてるだろ? だから接客なんて見に来たんだろ?」
「――それは……」
「昨日さ、真夜からメッセージが来たんだ。聖ちゃんが苦しんでるって。どんなことかは言ってくれなかったけど……やっぱしんどいよな。俺みたいなん相手にしたら。ただ――俺はいつでも聖ちゃんに刺される覚悟だ。つーか、もう刺して欲しくてさ。俺も正直、仕事と聖ちゃんとの葛藤でどうしたらいいのかわからなくなってる。楽になりてぇ」
言って、時也さんはスーツの内ポケットからナイフを取り出すから、俺は目を見張ってしまった。
「と、きやさん……?」
「聖ちゃんがVIPに来たって聞いて、店の厨房からくすねてきた。仕事にも恩義があって愛してる。けど――聖ちゃんも死ぬほど愛してる。こんなどっち付かずな人間……殺してくれないか?」
「……どうして、俺が殺すんですか? 俺が刺したら時也さんも俺と刺し違えて一緒に連れてってくれるって言ったじゃないですか」
「聖ちゃん、本当に一緒に死んでくれんの?」
俺の瞳を覗き込んだ時也さんの視線は、いつもの冗談ではない真摯なもので、本気なのだろうということがわかって、思わず唾を飲み込んだ。
ゆっくり、ナイフを握りしめる――。
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