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「ホストを辞めて……か」
吐息と共にこぼしたら真夜くんはじっと俺の顔を覗き込んで「そうだよ!」と力強く頷いてくるけれど、思わず俯いてしまった。
「時也さんは、仕事に誇りを持ってる。長年〝覇王〟として伝説を作り続けている人だ……。時也さんのお陰で生きていける人がきっとたくさんいる。俺が縛れるような人じゃないよ……」
「じゃあ、ずっと苦しいまま? 時也さんと離れることも出来ないのにそばにいるのも辛いまま? それって……聖くんが自分で自分を不幸にしてない? 時也さんだって、きっと聖くんが言えば辞めるんじゃないかな? 聖くんが物分りが良すぎるからたくさんいる客のために無理してると思う。時也さんってすごく誠実な人だから。客も大事だろうけど、やっと見つけた大本命の聖くんに筋も通せなくて苦しんでるんじゃないかな。お互い不幸になってる。そばにいなよ。片時も離れなければ、不幸になんてならないんじゃないかな?」
確かに、俺という存在が出来てしまったせいで、時也さんを苦しめてしまっているのは間違いがない。
時也さんは既に不幸になっている――。
「俺は覇王の恋人になっちゃいけない人間だったんだよ。っていうか――時也さんは誰か一人が縛り付けちゃいけない存在なんだと思う。俺だけが独り占めするなんて……きっと出来ないよ。やっぱり離れるしかないのかな……。時也さんを解放してあげることが時也さんの幸せなのかもしれない」
「そんなことない! 時也さんは聖くんの話ばかりしてるよ? 会えなくて辛いって。聖くんが離れるなんて言ったら時也さんが可哀想。時也さんから離れなきゃいけないって思い込んでる聖くんも可哀想。二人でいればいいじゃん。聖くんの手を取った時也さんは、もう覇王から解放されるべきなんだよ。正直になって? 聖くん。本当は時也さんから離れたくなんかないでしょ?」
時也さんのそばにいたい。
俺だけの時也さんにしたい。
だけど――。
美聖のように時也さんに心酔している客が大勢いる彼を、俺が奪うようなことをしたら、俺は大勢を不幸にするんじゃ……。
(俺は大勢を不幸にして幸せを手に入れていいのだろうか……)
吐息と共にこぼしたら真夜くんはじっと俺の顔を覗き込んで「そうだよ!」と力強く頷いてくるけれど、思わず俯いてしまった。
「時也さんは、仕事に誇りを持ってる。長年〝覇王〟として伝説を作り続けている人だ……。時也さんのお陰で生きていける人がきっとたくさんいる。俺が縛れるような人じゃないよ……」
「じゃあ、ずっと苦しいまま? 時也さんと離れることも出来ないのにそばにいるのも辛いまま? それって……聖くんが自分で自分を不幸にしてない? 時也さんだって、きっと聖くんが言えば辞めるんじゃないかな? 聖くんが物分りが良すぎるからたくさんいる客のために無理してると思う。時也さんってすごく誠実な人だから。客も大事だろうけど、やっと見つけた大本命の聖くんに筋も通せなくて苦しんでるんじゃないかな。お互い不幸になってる。そばにいなよ。片時も離れなければ、不幸になんてならないんじゃないかな?」
確かに、俺という存在が出来てしまったせいで、時也さんを苦しめてしまっているのは間違いがない。
時也さんは既に不幸になっている――。
「俺は覇王の恋人になっちゃいけない人間だったんだよ。っていうか――時也さんは誰か一人が縛り付けちゃいけない存在なんだと思う。俺だけが独り占めするなんて……きっと出来ないよ。やっぱり離れるしかないのかな……。時也さんを解放してあげることが時也さんの幸せなのかもしれない」
「そんなことない! 時也さんは聖くんの話ばかりしてるよ? 会えなくて辛いって。聖くんが離れるなんて言ったら時也さんが可哀想。時也さんから離れなきゃいけないって思い込んでる聖くんも可哀想。二人でいればいいじゃん。聖くんの手を取った時也さんは、もう覇王から解放されるべきなんだよ。正直になって? 聖くん。本当は時也さんから離れたくなんかないでしょ?」
時也さんのそばにいたい。
俺だけの時也さんにしたい。
だけど――。
美聖のように時也さんに心酔している客が大勢いる彼を、俺が奪うようなことをしたら、俺は大勢を不幸にするんじゃ……。
(俺は大勢を不幸にして幸せを手に入れていいのだろうか……)
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