上 下
1 / 85

しおりを挟む
 ――二人、殺した。

 一人目は、十六歳の高校一年生の時だった。

 担任クラスの生徒だった俺との不倫がタレコミで公になって、家庭からも職場からも追いやられて追い詰められ、学校の屋上から飛び降りた男性教師。

 綺麗に揃えられていたらしい靴と、家族への謝罪と俺への愛と謝罪を綴ってくれた遺書。

『ごめんね』と書かれたあの文章を、俺は一生忘れないだろう。

 飛び降りた瞬間を見たわけではないけれど、俺は未だに彼が飛び降りて行ったであろう背中の映像の夢を見る。

 二人目は、十八歳の高校三年生の時だった。

 三つ年上の大学生だった彼は、男性教師を自殺させてしまったことを親身に相談に乗ってくれた家庭教師。

 自然と付き合いは深くなり、家の外でも会うようになってすぐに、青信号で渡っていたところに突っ込んできたダンプカーから俺を突き飛ばして守って跳ねられた。

 地面に染み入るおびただしい血液と、変わり果てた彼の倒れた映像の夢を見る。

 俺と付き合った人は漏れなく死んでしまった。

 同性しか愛せない俺が心底愛する人は、二人とも死の淵に追いやられて行った。

 だから、俺はもう誰も愛してはいけなくて、誰のことを不幸にもしてはいけない存在なのだと理解したつもりだ。

 俺という疫病神はこの世から消えるべきかと思い悩んだ時期もあったけれど、醜い俺は浅ましくも生にしがみついている。

 幸せは求めない代わりに、命だけは許してくれないだろうかと。

 臆病で弱虫な俺は死んで償うことも出来ない。

 せめて、もう二度と誰も愛さないから、生きていることだけは許してはくれないだろうかと。

 〝孤独〟というかせをはめて生きていくから、それで償いにならないだろうかと。

 そんな自分勝手なハンデを背負ってみても、許されないことはわかっているけれど、どうかそれで許してもらえないだろうかと。

 犯した罪は俺が一生独りで償っていくつもりだから、もう誰も不幸にしないように頑張るから。

 けれど――。

 いつか俺の〝疫病神〟を振り払って愛してもらいたい――そんな弱さを抱えている自分も誰かに許されないだろうか。

 叶いもしない望みを抱えたまま俺は生き続ける。

 どこまでも、どこまでも真っ暗な闇を通りながら。

 そこで、闇の先にたった一人の偉大な男性が光を灯してくれるようになるだなんて、思いもしていなかったんだ。

 ずっと独り――。

 その絶望の底から俺を引きずりあげてもらえるなんて、微塵も思っていなかったんだ。

 また、誰かを愛せる日がくるなんて――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...