上 下
31 / 47

31

しおりを挟む
 ウトウトしていたらあっという間にお昼になって。
 玄関がガチャガチャと開く音がして時雨さんがコートも脱がずに真っ先に寝室へ駆けつけてくれた。

「春、ただいま。大丈夫?」

「お帰りなさい、時雨さん。我儘言ってごめんなさい」

 時雨さんが触れるだけの口付けを落としてくれて。
 俺は半身を起こして時雨さんをぎゅっと抱きしめた。
 時雨さんが俺の額に額を合わせてくる。

「少し熱下がったかな? 病院へ行く?」

「行かない。時雨さん、抱いて?」

 時雨さんが困った顔をした。
   困らせちゃいけないんだってわかってるのに、朝だって我儘言って早退させてしまったのに。

   でも時雨さんが欲しくて仕方がなくて。

「まだ傷、痛むでしょう?」

 俺は駄々っ子のように時雨さんに抱き着いたまま何度も首を横に振った。熱に浮かされているのかもしれない。

「痛まない、平気。時雨さんが欲しいんです。お願い」

 その言葉と同時、時雨さんがコートを脱ぎ捨てて俺を組み敷いて。嬉しさのあまり目尻から涙がこぼれた。

「僕は出来た大人じゃないから、春に無理させてもやめてあげられないよ?」

「やめないで……時雨さん」

 ぎゅっと時雨さんの首に抱き着く。
 時雨さんも幼子をあやすように俺を抱きしめてくれて。

 俺の瞳からますます涙が止まらなくなった。
 時雨さんが俺の涙を指で拭って。
 いつもの優しい声で「泣かないの」と言った。

「じゃあ、抱いてくれますか?」

    時雨さんがまた少し困った顔をして。
    俺の首筋に唇を寄せた。

「春には敵わないな」 

 抱いて、時雨さん。お願い。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

人形と皇子

BL / 連載中 24h.ポイント:11,744pt お気に入り:4,420

この状況には、訳がある

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:6

異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,250pt お気に入り:8,552

愛される日は来ないので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:986pt お気に入り:1,613

バツイチの恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:257

うつくしき僧、露時雨に濡れ

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:224

処理中です...