45 / 59
45
しおりを挟む
着替えをして、涼さんの手を消毒して包帯を巻いてから、タクシーに乗って辿り着いたのは霊園だった。
海が望める眺望の良いその霊園には、涼さんが姉さんのためだけに建てた個人墓の洋一段オルガン型の洋式墓石で、正面に『愛』とだけ文字が刻まれている。
四十九日以来訪れていなかったその場所は、涼さんが清掃代行サービスを利用しているお陰で荒れ果てている様子もなく綺麗に磨かれている。
涼さんが柄杓で打ち水を終え、途中で買った菊、カーネーション、アイリス、キンセンカを華やかに二本の花立に供えると、香炉に一緒に線香を立てた。
涼さんと並んで墓石の前にしゃがみ込む。
「あずさ、久しぶり。ずっと来られなくてごめんね? 寂しかったよね……」
そっと、涼さんが姉さんに語りかけるのを俺は黙って耳に入れた。
「愛してるよ、あずさ。でも、僕は自分を見失ってキミの大切なたった一人の弟を傷つけた。あずさは怒ってるかな? 本当にごめんね。だから──傷つけてしまった分、今はなつめが愛おしくて仕方がないんだ……」
視界がじわじわと霞み出す。
「姉さん、俺に怒ってる? 涼さんを奪ったこと、怒ってる?」
涼さんが優しく俺の頭を引き寄せて掠めるだけの口付けを落とした。
「あずさ……僕、なつめを愛してるんだ。キミを守れなかった分までなつめを守っていくから、どうか見守っていて? 僕は、生涯なつめを守り抜くと誓うから」
その言葉にいよいよ眼に溜まった涙が頬を伝ってしまって、涼さんがそれを指で拭ってくれた。
「涼さん……姉さんの前で、告白してもいいですか?」
「うん。あずさに認めて貰おう? 愛してるよ、なつめ」
肩を抱き寄せられて、涼さんの胸に顔を埋めて涙声で言葉を紡いだ。
「俺も、俺は……ずっと愛してました。涼さん」
涼さんが再び俺の唇を塞いだと同時、不意にヒュッと風音が聴こえた。
海が望める眺望の良いその霊園には、涼さんが姉さんのためだけに建てた個人墓の洋一段オルガン型の洋式墓石で、正面に『愛』とだけ文字が刻まれている。
四十九日以来訪れていなかったその場所は、涼さんが清掃代行サービスを利用しているお陰で荒れ果てている様子もなく綺麗に磨かれている。
涼さんが柄杓で打ち水を終え、途中で買った菊、カーネーション、アイリス、キンセンカを華やかに二本の花立に供えると、香炉に一緒に線香を立てた。
涼さんと並んで墓石の前にしゃがみ込む。
「あずさ、久しぶり。ずっと来られなくてごめんね? 寂しかったよね……」
そっと、涼さんが姉さんに語りかけるのを俺は黙って耳に入れた。
「愛してるよ、あずさ。でも、僕は自分を見失ってキミの大切なたった一人の弟を傷つけた。あずさは怒ってるかな? 本当にごめんね。だから──傷つけてしまった分、今はなつめが愛おしくて仕方がないんだ……」
視界がじわじわと霞み出す。
「姉さん、俺に怒ってる? 涼さんを奪ったこと、怒ってる?」
涼さんが優しく俺の頭を引き寄せて掠めるだけの口付けを落とした。
「あずさ……僕、なつめを愛してるんだ。キミを守れなかった分までなつめを守っていくから、どうか見守っていて? 僕は、生涯なつめを守り抜くと誓うから」
その言葉にいよいよ眼に溜まった涙が頬を伝ってしまって、涼さんがそれを指で拭ってくれた。
「涼さん……姉さんの前で、告白してもいいですか?」
「うん。あずさに認めて貰おう? 愛してるよ、なつめ」
肩を抱き寄せられて、涼さんの胸に顔を埋めて涙声で言葉を紡いだ。
「俺も、俺は……ずっと愛してました。涼さん」
涼さんが再び俺の唇を塞いだと同時、不意にヒュッと風音が聴こえた。
10
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
その執着、愛ですか?~追い詰めたのは俺かお前か~
ちろる
BL
白鳳出版に勤める風間伊吹(かざまいぶき)は
付き合って一年三ヶ月になる恋人、佐伯真白(さえきましろ)の
徐々に見えてきた異常な執着心に倦怠感を抱いていた。
なんとか元の真白に戻って欲しいと願うが──。
ヤンデレ先輩×ノンケ後輩。
表紙画はミカスケ様のフリーイラストを
拝借させて頂いています。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる