いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

ちろる

文字の大きさ
上 下
39 / 59

39

しおりを挟む
 看護大学も後期になって、明日から統合実習で夜勤実習が始まる。

 情交の後、ベッドに包まりながら「りょうさん」と声をかけると、片肘を付いて綺麗な輪郭を顎に乗せながら俺の髪を柔らかにいていた涼さんが「うん?」と優しく微笑んだ。

「俺、明日から夜勤実習が始まります。週に三回だけど……夜、一緒に眠れなくなるので寂しいです」

 そこで涼さんが一瞬だけ目をみはった。

「夜勤……?」

「はい、帰ってくるのは朝になります」

 涼さんが何か不可解な瞳で見つめてくるので一体どうしたんだろうと思ったけれど、その表情は一時だったので俺も特に気には留めなかった。

「そっか……寂しくなっちゃうね。でも、なつめくんの将来のためだもんね」

 言いながら優しく抱きしめられて、その温かな裸身らしんの胸にこめかみをくっつけたら涼さんの胸の鼓動が聴こえた。

 その心拍が、どこか強く脈打っているような気がしたのは気のせいだろうか。

 でも、涼さんが俺を抱きしめる腕はいつもと変わらず優しく力強いものだったし、何も変わったところはない。

 ただ──。

 どこか朧気な声で、もう一度「夜勤……」と涼さんが呟いたことに、少しだけ不思議に思った。

 俺と束の間擦れ違ってしまうのを寂しく思ってくれているのかな?なんて思ったら、たちまち幸福な気分に包まれて、涼さんの背中をきつく抱きしめた。

 けれど、その肩が少し震えているのはどうしてだろう?とも思ったけれど、その時の俺は全く気付けていなかった。

 このことが、涼さんにとって心の鍵を開けてしまうことになるだなんて思ってもいなかったんだ。

 ずっと、記憶を失ったまま俺だけを見ていて欲しいと心から願っていたから、記憶なんか戻らなければいいと願うずるい自分がいたから。

 だから──。

 これで涼さんが再び苦しむことになるだなんて思ってもいなかったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

処理中です...