いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

ちろる

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「ねぇ、なつめくん。これ、見て?」

 今日もりょうさんの部屋のベッドに包まって、眠い瞳をシバシバさせていたのだけれど。

 涼さんが部屋の飾り棚からリングケースを取り出してベッドの端に腰掛けて、中のプラチナの指輪を取り出して俺に見せた。

「姉さんの……」

 いつか、姉さんが嬉しそうに俺に見せてくれたマリッジリングだ。

「そう。僕にはなつめくんのお姉さんの……僕の奥さんだった人の記憶はないけれど、僕の指にも同じ物がまってる。『R to A』の刻印は、きっとお姉さんの遺品なんだよね」

「……何だか懐かしいですね。姉さんが生きていた時、俺に嬉しそうに見せてくれました」
 
 涼さんが、その指輪に持っていたネックレスチェーンを引っ掻けて、「なつめくん、ちょっと後ろ向いて?」と半身を起こすよう誘導される。

 指示されるまま涼さんに背中を向けたら、涼さんが俺の首にネックレスになった指輪を着けてくれた。

「なつめくんの薬指にはサイズが合わないだろうから、こうして身に着けていて? きっと、なつめくんが持っていてくれたらお姉さんも嬉しいと思うんだ」

 涼さんに他意はないんだろうけれど、俺は少しだけ胸が締め付けられる思いになる。

 また、姉さんの身代わりになってしまったような気がして。

 今の涼さんは俺だけを見ていてくれるけれど、姉さんの遺品を身に着けた俺は、また姉さんの身代わりなんじゃないかって思ってしまって。

 ギュッと首に光る指輪を握ってみる。

 まるで姉さんに縛り付けられているような気持ちになってしまって、潤んだ瞳を涼さんに向けた。

「涼さんは……俺を見ていてくれますよね? この指輪で、もしも姉さんのことを思い出したら、俺はもう涼さんの傍には置いて貰えませんか?」

 涼さんが優しく俺の頭を撫でた。

「たとえ、お姉さんのことを思い出したとしても、今の僕が好きなのは、なつめくんだよ?」

 言いながら、そっと俺を抱きしめてきたけれど、でも──。

 涼さんの姉さんへの執着は異常だったから、思い出してしまったら、きっと俺は捨てられるか、また身代わりにされるんじゃないかって怖くて。

 震える腕で涼さんの背に縋りついた。

「お願いです……涼さん。姉さんを思い出しても、記憶を取り戻しても、俺を見てください……お願いします」

「当たり前だよ?」と微笑んだ涼さんに、俺は怖くて怖くて仕方がなくて。

 静かに涙を落した。
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