上 下
33 / 59

33

しおりを挟む
 いつも別々の部屋で寝ていた俺たちだけれど、その夜はりょうさんの部屋のベッドに同衾どうきんした。

 涼さんがそっと俺を抱きしめて、口付けてくる。

 下唇を吸い上げるようにしてから歯の先で柔らかく噛まれ、唇の隙間から忍び込んできた舌に応えるとじっくりと咥内こうないを舐め回されて、水音を立てながら離れた。

「なんか……初めてって気がしないのは何でだろう? 僕は男の抱き方を知っているんだ……。何でだろう?」

 それは、俺と散々身体を重ねていたからですよ、なんて言ったら涼さんは混乱するだろうか。

 涼さんには俺は片想いだったと言っているのに、身体を重ねていただなんて言ったら、壊れていた時の涼さんを想起させるだろうか。

 涼さんにとって記憶が戻らないことは不幸なことなのに、俺は今の優しい穏やかな涼さんのままでいて欲しいと思ってしまうのは自分勝手だろうか。

 ──自分勝手、だな。

「涼さんは記憶を失う前、俺を抱いてくれていました」

 キョトンとした顔で涼さんが俺を見つめてくる。

「どうして? 僕はなつめくんのお姉さんと結婚していたんだよね?」

「姉さんが死んで……俺に面影を重ねていたんです。涼さんは少し疲れてしまっていたんです」

 涼さんが沈痛な面持ちで俺を見つめてくるから、安心させるように、そっと背に腕を回して撫でさすった。

「……僕は、なつめくんにそんな身代わりみたいなことをさせていたの? キミにそんな酷いことをしていたの?」

 柳眉りゅうびひそめて、湿っぽい声で俺の顔を覗き込んでくるから、なだめるように背中を優しく叩いてあげると、涼さんの肩が僅かに震えていた。

「俺は涼さんが好きだったから……だから幸せだったんです。でも、今はもっと幸せなんです。涼さんが、本当に俺だけを見てくれて」

 ゆっくり、涼さんが俺の半袖のパーカースウェットをまくり上げて腰に手を這わせて、ゾクゾクするような駆け上がる快感にただ身を委ねる。

「……ごめんね、なつめくん。僕はもうこれからはずっと、なつめくんだけを見ていくから。ずっと僕の傍にいて?」

 指が胸を掠める甘やかな刺激に、「ぁ、……ん」と艶冶えんやな声が漏れて、その吐息ごと唇を奪われた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...