いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

ちろる

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 まばゆい空間の中に俺はいた。

 りょうさんと姉さんが幸せそうに並んで立っていて、俺は二人を微笑ましく見つめて、心の底から二人の幸せを願って。

 だけど、次第に姉さんの上からドロドロの真っ黒な雨が降ってきて、涼さんが手を伸ばすけれど姉さんは瞬く間に溶けて行った。

 雨はたちまち涼さんの頭上までをも覆って、俺は傘を開いて駆け寄るけれど、涼さんも溶けて行って。

 やがて眩い空間にいた俺の頭上にも雨が降ってきて。

 ドロドロと溶けていく傘を、足を、腕を、呆然と見つめるけれど三人で消えられるなら幸せだ……このまま消えてしまえればいいと、そっと目を閉じる。

 そこで、朧気に瞳を開けると、今度は真っ白な空間が瞳に映った。

 目の前にカーテンが引かれていて、そっと腕を見遣ると点滴の針が刺さっていて。

 ──ここは?

 みるみるうちに頭が覚醒していき、涼さんが倒れて、俺は救急車を呼んで、そこで記憶が途絶えて……。

「涼さんっ!」

 大声で叫んで半身を起こすと、「葉梨はなしさん⁉」と白衣に身を包んだ女性が声をかけてきて。

「葉梨さん、わかりますか?」

「俺……は……? 涼さんは……? ねぇ⁉ 涼さんは⁉」

 看護師が、「落ち着いてください、葉梨さん!」と俺の両肩を押さえ込んできて、突然半身を起こしたせいか酷い眩暈に襲われる。

 すぐに看護師が院内PHSで医師を呼んで、駆けつけてくる。

「葉梨さん、わかりますか? 極度の栄養失調です。安静にしてください」

「俺のことはどうでもいいんです! 先生! 涼さんは⁉ 涼さんは大丈夫ですか⁉ 俺の……俺のせいで……」

 医師が沈痛な面持ちを見せて、その表情に絶望感のようなものを覚える。

「立てますか? 水樹みずきさんに会いますか?」

 ゆっくり頷いて起き上がり、点滴をぶら下げたまま医師の後ろに着いていくと、一室の前で立ち止まってそっと室内に入った。

 そこで──。
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