いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

ちろる

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りょうさんから連絡が来てさ、俺、涼さんの部屋に来たんだ。そしたら、涼さんが壊れてた。俺と姉さんを混合していて、姉さんの身代わりに俺は抱かれた。朝起きたら、足枷あしかせが嵌まってた。──でも、俺は幸せなんだ」

『なつめ? 壊れてるのは涼さんだけじゃなくてお前もじゃないのか? 監禁されて幸せって何言ってんの? しっかりしろよ』

 俺は、正気だ、と思う。

 だって、好きな人に監禁されて、独占されるなんて、これ以上に嬉しいことが他にあるだろうか。

「俺は正気だよ。もしかしたら、夏休みが明けても学校には行けないかもしれない。心配しないでよ、俺のことは」

『なつ──』

 あらたの言葉を最後まで聞かずに電話を切って、すぐにまたスマートフォンが鳴ったけれど、それにはもう出なかった。

 俺は壊れてなんかいない。

 そっと、足首に嵌まる枷を触ってみる。長い長い鎖は、この何もない部屋を自由に行き来できる。

 手錠でくくりつけられているわけではないし、これは涼さんの愛の証なんだ。

 今は姉さんを俺に重ねているだけだとしても、涼さんの愛は確かに姉さんの分身である俺に注がれている。

 そう、信じることは自由だろう──。

 ブブッと、今度はメッセージアプリの振動が鳴った。

 ディスプレイを覗いて見ると涼さんからで、はやる心を抑えながらタップした。

『なつめ、何もない? いい子にしてる?』

 ほら、涼さんはちゃんと俺の名を呼んだ。
 朝の涼さんはちょっと間違っただけ、ただ、間違っただけ。

『涼さん、早く帰ってきてくださいね? 寂しいです』

 そう返信すると、すぐに返事が返ってきた。

『大丈夫。あずさ、早く帰るからね?』

 ──何でだろう、涼さんは何で、間違えるんだろう。

 俺の存在感が足りないから?
 もっと奔放ほんぽうに涼さんを求めれば、涼さんを俺で染めてしまえば、もう間違えない?

 早く帰ってきて、涼さん。
 俺は溺れるから、涼さんも俺に溺れて?

 目の端にフォトスタンドの姉さんがこちらを見つめたけれど、俺はもう気づかない振りをした、見えない振りをした。

 俺だけの涼さんにしてもいいかな? 姉さん。
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