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涼さんが仕事へ行ってリビングのソファに座って、ぼんやりとこの現状をどうしていくべきなのか思考を飛ばしていた。
ふと、テレビボードの上に視線を転じる。
そこにはガラスの大きなフォトスタンドが置かれていて、笑顔で映る涼さんと姉さんの写真が飾られていることは、何度かこの部屋を訪ねていた時に見たものだと記憶している。
そっと、フォトスタンドを手に取ってみる。
笑顔で映る姉さんは、今、何を思っているだろうか。
俺の傍にずっと居て、ずっと見守っていてくれていると思っているけれど、だからこそ、この現状を姉さんはどう思っているだろうか。
姉さんの大好きだった涼さんのことが実は俺も大好きで、こうして図らずも涼さんの傍にいることが叶ってしまった裏切り者の弟の俺を憎んでいるだろうか。
こんな風に姉さんの代わりに俺を捕まえようとしている、変わり果ててしまった涼さんの姿に悲しんでいるだろうか。
涼さんの部屋には無駄な物が何もなくて、何を見て、何をして過ごせばいいのだろうと思うほど、何もなかった。
姉さんの痕跡も何もない。
真っ新なその空間に閉じ込められて、これから涼さんが帰ってくるまで、俺は何をして過ごせばいいのだろうか。
そこで、スマートフォンが鳴って、ディスプレイを覗いてみると、看護学校で知り合って以来の親友の坂口 新からだった。
「もしもし? 新?」
『なつめ、今何してる? 暇だったら過去問の出し合いしないか?』
新には、俺がゲイなことも言ってある。
そして、実は密かに姉さんの夫である涼さんのことが好きで、その気持ちから目を逸らすために、ネットで知り合った適当な男で寂しさを紛らわせていたことも知っている。
「新、俺さ……涼さんの部屋に監禁されてるんだ」
電話の向こうで、新が何も言葉を紡がず間を置いて、少ししてから、訝しむような声を出した。
『は? 何言ってんの?』
さて、どこから説明したらいいものか。
ふと、テレビボードの上に視線を転じる。
そこにはガラスの大きなフォトスタンドが置かれていて、笑顔で映る涼さんと姉さんの写真が飾られていることは、何度かこの部屋を訪ねていた時に見たものだと記憶している。
そっと、フォトスタンドを手に取ってみる。
笑顔で映る姉さんは、今、何を思っているだろうか。
俺の傍にずっと居て、ずっと見守っていてくれていると思っているけれど、だからこそ、この現状を姉さんはどう思っているだろうか。
姉さんの大好きだった涼さんのことが実は俺も大好きで、こうして図らずも涼さんの傍にいることが叶ってしまった裏切り者の弟の俺を憎んでいるだろうか。
こんな風に姉さんの代わりに俺を捕まえようとしている、変わり果ててしまった涼さんの姿に悲しんでいるだろうか。
涼さんの部屋には無駄な物が何もなくて、何を見て、何をして過ごせばいいのだろうと思うほど、何もなかった。
姉さんの痕跡も何もない。
真っ新なその空間に閉じ込められて、これから涼さんが帰ってくるまで、俺は何をして過ごせばいいのだろうか。
そこで、スマートフォンが鳴って、ディスプレイを覗いてみると、看護学校で知り合って以来の親友の坂口 新からだった。
「もしもし? 新?」
『なつめ、今何してる? 暇だったら過去問の出し合いしないか?』
新には、俺がゲイなことも言ってある。
そして、実は密かに姉さんの夫である涼さんのことが好きで、その気持ちから目を逸らすために、ネットで知り合った適当な男で寂しさを紛らわせていたことも知っている。
「新、俺さ……涼さんの部屋に監禁されてるんだ」
電話の向こうで、新が何も言葉を紡がず間を置いて、少ししてから、訝しむような声を出した。
『は? 何言ってんの?』
さて、どこから説明したらいいものか。
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