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「……なつめ、ごめん」

 互いの衣服が乱雑にベッドの上から下にまで散らばって、達した余韻で肩で息をしている俺に、りょうさんが最初に発した言葉は謝罪だった。

 その言葉を聞いて、やらかした……と思った時には時すでに遅し。

 俺は、奔放ほんぽうに涼さんを求めて、あられもない声や言葉を発して涼さんをただ一心に欲してしまって、罪悪感に駆られながらも、己の快楽のみに溺れてしまって。

「なんで……涼さんが謝るんですか? 謝るのは俺の方です。涼さんはまだ姉さんだけを見ているのに、俺は涼さんを誘うような真似をしてしまって……。今日のことは……きっと何かの間違いだったんですよ」

 ベッドサイドに腰かけて情けなく項垂うなだれると、ゆっくり立ち上がって散らばっていた衣服を搔き集めた。

 シャワーを浴びていない身体に再び衣服の袖を通すのは若干不快だったけれど、このままここに居てはダメなことくらいわかる。

 なのに──。

 涼さんが、下着を身に着けようとしている俺の手首を掴んだ。

「なつめ、今日は朝まで一緒にいて?」

 吐息のように紡がれたその言葉に戸惑う。
 涼さんは確かに、達する時、姉さんの名前を呼んだ。

 俺のことを見ているわけじゃない。
 俺に姉さんの面影を重ねて、自分を見失っているだけだ。

 こんな行為に及んでしまった後では何も言い訳は出来ないけれど、こんな関係を構築してしまったら、姉さんは浮かばれない。

「涼さん、俺は姉さんじゃありません。今はまだ……涼さんの傷が癒えていないだけで、俺と一緒になんかいたら後できっと後悔します。姉さんに申し訳ないって思うはずです」

 涼さんが掴んでいた手首をグッと引き寄せて、俺を抱きしめた。

 ──そんな行動ばかりされたら困る。

 俺は涼さんが好きなんだ。必死に、涼さんから目を逸らそうとしているのに、そんな行動をされたら困る。

「壊れそうなんだ……あずさ……」

 だから、違う。
 俺は姉さんじゃない、どうあがいたって、姉さんにはなれない。

 けれど、抱きしめられている腕を離そうとしても、涼さんはキツく抱きしめて離してはくれない。

「……涼さん。ずっと言えなかったけれど……俺はゲイなんです。涼さんのことがずっと好きでした。だから、こんなことは困ります。俺は、姉さんを裏切りたくないんです」

 涼さんが、抱きしめる手を弛緩しかんさせて、少しだけ胸と胸の間に空白を作って、俺の瞳をじっと覗き込んだ。

「なつめは、僕が好きなの? だったら、僕の傍にいてよ……お願いだから……」

 それだけ言って、瞳から涙を伝わせる涼さんを──。

 気付けば抱きしめてしまっていた。
 その綺麗な涙ごと、抱きしめてしまっていた。
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