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──姉さんが、死んだ。
夜勤明けで帰宅途中、青信号の横断歩道を渡っている最中に、居眠り運転のトラックに轢かれた。
警察から連絡を受けて、俺は放心状態で、どうしたらいいものかわからず、涼さんに頼りっぱなしだった。
検視が終わって、遺体安置所に涼さんと一緒に行った。
「まだ話そう? まだ眠らないで? 話し足りないんだ。もっと話したいことがあるんだ。だから、目を開けてよ……あずさ」
そう呟いて瞳から一筋の涙を伝わせた涼さんを朧気な双眸で見つめながら、何て綺麗な涙を流す人だろうと思った。
姉さんが死んだという現実感のない中、俺は涼さんのその涙に見惚れていた。
通夜や葬式は行わず、直葬という形で俺と涼さんと、涼さんのご両親だけで姉さんを見送って様々な手続きを涼さんが夫として執り行うのを淡々と見守って現実を受け入れて。
どこか喪失感を覚えながらも、少しずつ日常を取り戻していった。
だけど──。
それから半年ほどが経って、ある日、スマートフォンに涼さんから一件のメッセージが入っていた。
涼さんとは、姉さんが亡くなって四十九日に会った以来、なんとなく連絡も取り難くなって自然の流れで疎遠になっていたのだけれど。
メッセージの内容は『あずさ、会いたい』というもので。
俺はてっきり涼さんが姉さんを失った寂しさから、連絡をくれたのだと思って、『姉さんも喜んでいると思います。ありがとうございます』と返信したのだけれど。
返ってきたメッセージは『あずさ、これから会える?』で。
まさか、涼さんが寂しさから姉さんの後を追おうとしているんじゃ……と、焦って『俺なら会えます』と返信した。
慌てて、姉さんと何度か訪ねたことがある涼さんの家へ向かった。
インターフォンを鳴らすとすぐに鍵が開いて、涼さんが玄関まで出てきてくれて。
その顔は酷くやつれていて、どこか翳りのある眼差しで俺を見つめて、玄関で靴を脱いだ瞬間、抱きしめられた。
「あずさ……会いたかった」
一瞬、何を言われたのかがわからなくて、腕の中で呆然と立ち尽くしてしまう。
──涼さん? 俺は姉さんじゃないよ?
夜勤明けで帰宅途中、青信号の横断歩道を渡っている最中に、居眠り運転のトラックに轢かれた。
警察から連絡を受けて、俺は放心状態で、どうしたらいいものかわからず、涼さんに頼りっぱなしだった。
検視が終わって、遺体安置所に涼さんと一緒に行った。
「まだ話そう? まだ眠らないで? 話し足りないんだ。もっと話したいことがあるんだ。だから、目を開けてよ……あずさ」
そう呟いて瞳から一筋の涙を伝わせた涼さんを朧気な双眸で見つめながら、何て綺麗な涙を流す人だろうと思った。
姉さんが死んだという現実感のない中、俺は涼さんのその涙に見惚れていた。
通夜や葬式は行わず、直葬という形で俺と涼さんと、涼さんのご両親だけで姉さんを見送って様々な手続きを涼さんが夫として執り行うのを淡々と見守って現実を受け入れて。
どこか喪失感を覚えながらも、少しずつ日常を取り戻していった。
だけど──。
それから半年ほどが経って、ある日、スマートフォンに涼さんから一件のメッセージが入っていた。
涼さんとは、姉さんが亡くなって四十九日に会った以来、なんとなく連絡も取り難くなって自然の流れで疎遠になっていたのだけれど。
メッセージの内容は『あずさ、会いたい』というもので。
俺はてっきり涼さんが姉さんを失った寂しさから、連絡をくれたのだと思って、『姉さんも喜んでいると思います。ありがとうございます』と返信したのだけれど。
返ってきたメッセージは『あずさ、これから会える?』で。
まさか、涼さんが寂しさから姉さんの後を追おうとしているんじゃ……と、焦って『俺なら会えます』と返信した。
慌てて、姉さんと何度か訪ねたことがある涼さんの家へ向かった。
インターフォンを鳴らすとすぐに鍵が開いて、涼さんが玄関まで出てきてくれて。
その顔は酷くやつれていて、どこか翳りのある眼差しで俺を見つめて、玄関で靴を脱いだ瞬間、抱きしめられた。
「あずさ……会いたかった」
一瞬、何を言われたのかがわからなくて、腕の中で呆然と立ち尽くしてしまう。
──涼さん? 俺は姉さんじゃないよ?
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