【完結】元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい

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オルクス公爵領ダンジョン調査

79.元社畜、いざダンジョンへ

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 きょろきょろと周辺に首を巡らせながら、私はほわーと初体験のダンジョン内に目を配る。
 ダンジョンというから、水滴のしたたるごつごつとした天然の洞窟のようなものを想像していたけれども、どちらかというと遺跡のほうが雰囲気として近いかもしれない。魔素マナも濃い。
 あちこちに≪鑑定アナライズ≫をかけてみては、私はダンジョンを楽しんでいる。
 薄暗いかと思われたダンジョンは、ところどころ生えている、鑑定さん曰くのヒカリゴケのおかげでそこそこ明るく、神秘的な様相を醸し出している。
 おおお、とってもRPGぽいな!嫌が応にもテンション上がるね。

「カナメはもっと不安がるかと思ったけど、そうでもないね? ダンジョンは初めてじゃなかったっけ?」
「や、こういったダンジョンは、割とうちの世界だと定番って感じなので」
「へえ。カナメの世界にも、ダンジョンがあるんだ?」

 言葉が足らずに、私の後ろを歩くヒースさんに誤解を与えてしまった。慌ててリアルダンジョンは、さすがにないですと説明を足しておく。
 まあ、ある意味ダンジョン的な構造の駅とかは、各地にあったけどね。

 先頭を行くのは、ディランさんとシラギさんの主従コンビ。マリーが続いて私、殿がヒースさんだ。斥候、魔法も兼ねられる前衛、回復役と、バランスは悪くないんじゃないかな。私除く。
 マリーが杖を持って白のローブを着ていて、まさしく白魔導士!って感じだったので、内心大興奮していたのは秘密だ。魔法塔所属のユエルさんは、特級だからか、ローブ着たところを見せてくれなかったからなあ。

 ダンジョンはというと、主従コンビがさくさく敵を殲滅してくれるので、あっさり1階は片付いてしまった。まだ出てくる敵も弱いからか、拍子抜けである。
 ディランさんは斥候役だから弱いんだけど~なんて言っているけど、私からすると充分強い。

 ダンジョンの1階から10階は、既にオルクス公爵領騎士団の手で踏破されている。何なら、調査ついでにマッピングもされていて、大がかりな罠とかもないみたい。たまに弓が飛んできたり、槍が飛び出してはくるみたいだけど、ディランさん曰くそれは軽微な罠なんだとか。
 作成されたマップが、いずれ結構な収入に繋がる理由が、よくわかるというものだ。

 安全地帯は、階段付近に設置されているらしい。毎回思うけど親切仕様だよね、ダンジョンって。本当、ゲームみたいだ。
 このダンジョンを作ったのは、【狂乱の魔女】らしいけれども、やっぱり強者のお遊び的な腹積もりなんだろうか。

 特に問題もなく、さくさく足を進め2階を降りて3階へ。
 マリー以下の出番は、今のところない。ヒースさんは物足りなさそうな顔をしている。

「あちゃー、面倒くさい……」

 すると、前方の区画の入り口で、ディランさんが嫌そうな声を上げた。
 後方組が部屋を覗き込んで見ると、四方の壁から天井から床から一面に、たくさんのスライムがべちょりと張り付いている。色は緑色と青色。透明なゼリーみたいなのが、うごうごうぞうぞと蠢いている。
 一匹くらいならまだ可愛いなーで済むけど、さすがに数が多いと絵面的に気持ちが悪い。

「ひえぇ……」
「スライムの異常分裂か……厄介だな」

 ヒースさんも、眉をわずかに顰める。
 魔素を吸収しすぎたスライムは、ぽこんぽこんと自然分裂してしまうのだそう。それが過ぎると、こんな風に異常発生に繋がる。
 3階は、相当魔素の濃度が高かったものと思われる。まあ、雪に閉ざされて、なかなか間引きに来るのもままならなかっただろうしねぇ……。
 確かに、魔力視を使ってみると、周辺は結構な濃さのお色をしていた。

 数匹程度なら、剣で核となる魔石を砕けばいいものの、ここまで大量のスライムに遭遇してしまうと骨が折れる。スライムの粘液は、金属を融かすのだ。
 しかも、緑色のスライムは毒持ちときた。

 対処として火魔法で焼きつくしてしまうのが一番手っ取り早いのだが、残念ながら火に適性を持つ人員がいなかった。

「あっ、じゃあ。ちょっと私が試してみてもいいですか?」

 私は、ここぞとばかりにはいはいと手を挙げた。
 まさか、こんなに早く機会が巡ってくるとは!

「え、カナメが? キミって攻撃魔法使えたっけ? やってみてもいいけど……何を企んでいるのやら。大丈夫かい?」
「企んでるって何ですか! でも、危ないので、ちょっと下がっていてくださいね」
「……危ない? 何をする気ですか、カナメさん」

 ディランさんとシラギさんは首を傾げつつも、身を引き私のために場所を開けてくれた。心配げなシラギさんとは裏腹に、ディランさんはちょっと楽しそうだ。

 私は、ウエストポーチから無属性魔石を取り出す。
 魔石に通す魔力は、水。
 魔力増幅ブーストをほどこしてから、並列ではなく直列に発動するよう、中級魔法を込めていく。単体じゃなく範囲攻撃が必要だからね。

「≪付与・雨エンチャント・レイン≫≪付与・エンチャント・轟雷サンダーボルト≫」

 効果範囲は、この区画内。
 魔法の発動条件を、『床に魔石が当たったら』と設定すれば出来上がり。スライムに当たっちゃうと、飲み込まれて融かされちゃうかもしれないからね。

「よっし、できたぞ、感電魔石。いっけー!」

 私はスライムがいない、ちょっと遠くの床に魔石を放り投げた。私の下手くそなアプローチショットでは、上手くスライム同士の隙間に落ちるか心配だったけれども、運よくかつんと魔石が床に当たった。
 衝撃と同時に、かっと魔石が光を放ち、仕込んだ魔法が展開される。

 まず1つ目。その名の通り、雨のように水がしとしとと区画内に降り注ぐ。ダンジョン内に染み込んだであろう雨水を元にした水だ。≪ミスト≫よりも確実に、スライムを濡らすことができるため選択した魔法である。
 もちろん、スライムに一切のダメージはない。むしろ気持ちふくふくしたか?
 水魔法って、どちらかというとこういった補助系の魔法が多い。上位の氷魔法になると、攻撃度がぐんと跳ね上がるんだけど。
 そうして、雨でしっかりずぶ濡れになったスライムに対して、2つ目の魔法が発動する。

 ーー雷撃が、幾重にも区画内を走った。

 真白の閃光。そして、ばちばちばちっという派手な轟音とともに、スライムたちが次々感電していく。感電で発生した熱により、ゲル体は焼かれ、水分が蒸発していく。
 やがてショックに耐え切れなくなった個体から、存在が露と消え、核となる魔石だけがその場にバラバラと落ちた。

 お、予定通り上手く行ったぞ。しめしめ。いい感じのダメージが出て、一斉処理ができた。
 私が誇らしげに胸を張って背後を振り返ると、4人ともドン引きした表情でこちらを見ていた。ええ……。

「……うわぁ、えっぐ」
「これ、は……2属性魔法の展開……ですか」
「……ひぇえ、カナメったらとんでもない」

 ディランさんとシラギさんとマリーが、あんぐりと口を開けたまま、現状に呆けている。
 ヒースさんは、苦悩の表情で額を押さえていた。

「あっ、あれー?」
「カナメ、これはちょっとグランツさんも交えて要相談だ」
「ええー?」
「カナメはその場で即時付与できるからいいものの、攻撃魔法を仕込んだ魔石の販売を考えているなら危険すぎる……。知ってはいたけど、やっぱり規格外だな、君は」

 がしりと、真顔のヒースさんに肩を掴まれる。
 危ないって言われても、普通の攻撃魔法だって、似たようなものじゃん?
 そう思ったけど、ヒースさん曰く2属性アークの魔法の相乗効果で、威力が桁違いすぎるとのこと。条件付けによっては、暴発の可能性が高いことなどなど。些細な衝撃で発動してしまったら目も当てられないので、もう少し慎重にしないとならない旨、ヒースさんに懇々と説かれた。

「いや、だけど2属性の魔法を使えるっていうのは、凄く便利だ。≪転換コンバート≫をかませば行けるなら、僕も欲しいくらいだよ。防御魔石がとんでもないなとは思っていたけれど、やっぱり攻撃もいけたかあ……」
「需要は絶対にありますよね……自分の属性関係なく使えるわけでしょうし。魔法の組み合わせも、色々考えられますし」
「面白い試みではあるんですよ。多少威力を落とせば、まあ許容範囲か……?」
「よし、カナメの魔石で遊んで……もとい、実験してみるか!」

 人に使えば当然危険だけれども、通常の魔法と何ら変わりなく、魔法防御で防げるものだから、威力が若干アレなだけで……と男性陣3人は、興奮気味に検討を始めた。
 ディランさんから不穏な単語が聞こえたけれども、知らんふりだ。細かな検証は、ぜひ魔法塔辺りの専門家に投げたいところである。
 感電も、単純に魔法から生成した不純物のない水じゃあ、電気が通らない気がするからなあ。ダンジョン内の湿気は、雨水由来っぽいからいけたっていうのもあるので。

 ヒースさんたちが話している間に、電撃の衝撃も落ち着いたので、私とマリーは床に落ちた膨大な量の無属性魔石を拾い上げていく。入れ食いである。1つの無属性魔石が、数十個になったよ。やったね!
 まさに自給自足というか、ダンジョン内で自分が利用する無属性魔石は、軽くまかなえてしまえそうである。





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次回は土曜日更新の予定です。よろしくお願いします!

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