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調律

42.元社畜とミートボールのスープパスタ

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「……それでこれ?」
「それでこれです……あいたっ!」

 テーブルに広がった昼食、本日のメニュー、サラダ、ミートボールのスープパスタ、きのことじゃがベーのチーズ焼き。デザートもあるよ!
 我ながらこの短時間でよく作ったと自画自賛しつつ、えへんと胸を張ってみたら、呆れ顔をしたリオナさんから、チョップを食らった。



* * *



 みじん切りして炒めた玉ねぎと、オークとグレートオックスの合い挽き肉、古くなったパンをすりおろして作ったパン粉に塩コショウして、みんな大好きハンバーグのたねが出来上がり!
 それを、小さめにコロコロして丸くまとめ、ミートボールを量産しておく。

 下準備しておいたニンニク、玉ねぎ、キャベツを鍋で炒めると、美味しい匂いが立ち上る。うーん、ニンニクは食欲をそそるよね。
 そこに、ざく切りしておいたトマトを潰しながら加えて、作り置きしてあるガラスープとブイヨンを味見しつつ混ぜ合わせる。
 今日はスープパスタなので、水分を少なくちょっと濃厚目に。トマトスープを作るのも、すっかりお手の物だ。ふふふ~ん♪
 ヒースさんが美味しいって笑って、たくさん頬ばってくれると嬉しいな。
 鍋の中に、作った肉だねを落としていって、火を入れる。
 あくを取るのって面倒だけど、丁寧に取っておけば、ぐんと美味しくなるのだ。

 煮込んでいる間に、パスタをちょっと短めに茹でる。
 乾燥パスタがあれば欲しいですって、ダメ元でリオナさんにお願いしてみたら、仕入れてきてくれた。生麺ならまだしも、乾麺もあるんだ……。でも、どこから買ってくるんだろう。
 ちなみに、お米は手に入らなかった。ミクラジョーゾーさん、頑張ってくれないかな。

 この間に、スキレットで炒めておいたベーコンとじゃがいもときのこに、たっぷりチーズをかけて、オーブンへイン。
 タイミングよく茹で上がったパスタは、そのままスープに投入して少し煮込み、味が馴染めば出来上がりだ。

 麺をお皿に盛りつけて、ミートボールを積んでいく。
 ヒースさんのは、ミートボールを多めにしてあげたら、タワーみたいになっちゃってちょっと笑ってしまう。お祝いっぽくていいね。
 更にその上に、お湯の中でしばらく放置しておいた卵を、生卵の要領で割る。
 ——そう、温泉卵である。
 とってもワクワクする見た目になった。ミートボールにスープパスタに温玉なんて、欲張りセットみたいなものだ(個人的に)。子ども用みたいなメニューだけど、童心に返るというかさ。

「手伝うよ」
「じゃあサラダお願いします」
「承知した。今日も凄くいい匂いだ」

 そろそろ完成だと察したヒースさんが、手伝いを申し出てくれたので、サラダとカトラリーの準備をお願いした。
 冷蔵箱で冷やしておいたサラダを取り出し、ドレッシングをかけて、ヒースさんは手際よくテーブルに並べていく。
 私がオーブンでのきのこじゃがベーの焼き加減を見ている間に、パスタも持って行ってもらう。

「あ、このいっぱいミートボール積んであるのが、ヒースさんの分です」
「こんなにたくさん……!!」

 ヒースさんの目が、めっちゃくちゃキラキラ輝いていた。やったね!男子ってお肉大好きだよね。まあ、私も好きだけど。
 きのこじゃがベーも、バッチリ焼き上がっていた。チーズのほんのりお焦げが、また美味しいんだよね。
 スキレットごとダイニングに運ぶと、昼食を察したリオナさんが、ちょうど階段から降りてきた。

「……ん? やけに昼食、気合入ってない?」

 そうして、食卓に並んだいつもよりちょっとだけボリュームあるご飯に手をつけつつ、ヒースさんに≪調律ヴォイシング≫を行うまでの流れを説明したところ、冒頭に戻るのであった。

「まったく。ヒースの魔力が、そんな大変なことになっていたのはともかくとして、目覚めたばかりのスキルを、私に相談もなく使うのはいただけないわね。まあ、≪調律≫のスキルを一番わかっているのは、要なんだけれど」
「すみません……。"いける"って思っちゃって」

 スキルは身に宿ったとともに、使い方も肌身で理解する。私がリオナさんの真似っこをしただけで、すぐ≪鑑定アナライズ≫が使えたみたいに。
 だから、スキルを持っている人が、一番己のスキルについて知覚できている。レアスキルならなおさら。
 技術を突き詰めていくには、当然習練が必要だけどね。
 とはいえ、リオナさんの心配ももっともなので、私は素直に謝った。

「てか、こんなに早く≪調律≫が使えるようになるなんてね。……って、カナメ、まさかまた隠れて何やらしてないでしょうね?」
「してない、してないです、誤解です!」

 私は、首を振って、慌てて否定する。
 前科があるので、リオナさんはじとりと胡乱な目で見つめてくるけど、本当に偶然なんです。
 大丈夫、寝てるし、ホワイト勤務だし、体調もすこぶる良好!

「ヒースは? 違和感とか、おかしいところはないの?」
「ああ、おかげさまで。魔女殿、あまりカナメを叱らないでやってくれ。俺がやってくれと頼んだんだ」
「……なんにせよ、大事に至っていないようでよかったわ」
「ご飯を食べたら、森で魔法の威力を確認したり、魔力の流れを追ったりして、異常がないか経過観察をしてきます」
「そうね。それがいいわ。ま、お説教はこのくらいにするとして」

 リオナさんが食べる手を止め、腰を浮かせた。

葡萄酒ワイン欲しいわ。この昼食に酒を合わせないなんて、冒涜」
「わかる」
「ヒースも飲む?」
「この後があるから、少しだけいただこう。確かに、酒が進みそうだ」
「昼間から酒宴……」
「えー、だってお祝いなんでしょう。めでたいんだから酒よ、酒。ヒース、快癒おめでとう」
「棒読みが過ぎる。かこつけすぎじゃないですか……」

 ヒースさんは苦笑している。
 因みに、さっきからずっと話をしているけれども、この間、我々の食べる手は一切止まっていなかった。
 真剣な顔して、モリモリパスタや副菜を頬ばっている図、なかなかにシュールである。

「このチーズ焼き、酒のつまみに絶対に欲しい一品ねえ……。定番にラインナップしてほしいくらい」
「はいはい、了解です。簡単に作れますからいいですよ。材料を色々変えられますし、飽きもきにくくて良いですよね」
「はぁ、濃厚なトマトスープに絡んだパスタはもちもちだし、何よりミートボールが旨い。パスタとミートボールを一緒に食べると、更に幸せが倍。そこに黄身を割った温泉卵を絡めると、まろやかさが広がって、口の中にハーモニーをもたらしている。こんな何度でも楽しめる味わい、豪勢が過ぎるのでは? 」
「食レポみたいなこと言っている……」

 だんだん力説するヒースさんの表現力が上がってきていて、面白いんだけど……。私は、ふはっと吹き出してしまった。
 リオナさんがいそいそと持ってきたグラスに、葡萄酒ワインを注いで、二人は乾杯している。

「"しょくれぽ"が何なのかはわからないが、本当カナメが来て以来、俺の舌が贅沢になって困る。もう遠征に行きたくない。貧相な飯は嫌だ……」
「幸せな悩みねぇ」
「大げさだあ」
「それが、大げさじゃないんだよ。カナメも一度、携帯食がどれだけ味気ないかを味わってみれば……」

 大好きな人たちと一緒の、笑いのある明るい食卓。私が欲しかったもの。
 作ったものを、美味しい美味しいといっぱい頬張ってもらえて、幸せな悩みだなんて言ってもらえたら、それはもう作った者冥利に尽きるというものだ。



 さて。お祝いと言ったら、やっぱりケーキでしょう。異論は認める。
 といっても、急にケーキは作れない。当たり前ですね。
 あと私にケーキを作る能力が、残念ながらなかった……無念!
 ケーキって本格的に作ろうとすると、難しいし手間がかかるので、時短をこよなく愛する社畜が手作りするには、最初から縁遠い代物だ。
 でも、ヒースさんの喜ぶ顔は見たいわけで。甘いもの好きだしね。

 というわけで、できるものでどうにかする。
 元々、今日のお昼は、水切りヨーグルトを使って、フルーツサンドでも作ろうかなーとか思って準備していたんだよね。タイミングがよかった。
 水切りヨーグルトなかったら、私の手腕じゃ、あとはもう蒸しパンとかクレープをどうにかアレンジするくらいしか思いつかなかったよ……。
 フルーツサンドも見栄えがいいから、お祝いって感じはするけど、ケーキっぽいほうがより良い気がして方針転換。
 こっちの世界に、ケーキでお祝いっていう風習があるのかどうかはわからないけど……転生者がちらほらいるなら、どこかしらやっているでしょう。

 作り方は至って簡単。
 作り置きのプレーンクッキーを砕いて、溶かしたバターを加え合わせ、ココット皿の底に敷き台座にする。
 水切りヨーグルトとレモン汁、はちみつを混ぜ混ぜ。
 それをカップに三等分し、飾りのブルーベリージャムをたっぷり載せ、冷蔵箱で冷やす。
 たったこれだけで出来上がり。ゼラチンもいらないし(そもそもゼラチンがないんだけど!)、混ぜるだけで簡単にレアチーズケーキもどきができる、お手軽デザートなのである。

 冷蔵箱からサラダを取り出したときに見つけてしまったヒースさんが、ずっとソワソワしていて、いざ提供したら盛大に喜んだのは言うまでもない。
 やー、よかったよかった。

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