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転移
10.社畜は魔石で試行錯誤する・1
しおりを挟む「まずは数をこなして、基本的な付与魔法に慣れて、感覚を身につけなさい。私だと使えないし、これは要の好きにしてくれていいわ」
何やら意味深なことを言って、リオナさんは、じゃらじゃらとたくさんの無属性の魔石を私にくれた。
昼食後、相も変わらず閑古鳥な店頭のカウンター席に座って、店番をしながら私はもりもりと付与魔法で遊んでいた。
物量イズパワーばりにいっぱい魔石を貰ったので、練習するには事欠かない。
付与といっても種類がある。
まず、魔力の付与。これは、私が現在絶賛取り組み中のヤツ。
単純に自分の魔力を、物に付与する。物体の属性を変えたりできるし、魔石に付与すれば、魔力を保持できたりする。
因みに、人から人に魔力を分け与えることは、なかなかに難しい。
体内で生成する魔力は、魔力回路を通して循環され、人ごとに異なる波を持つ。波形が合わないと、激しく体調を崩してしまうのだそうだ。それこそ、魔力のエキスパートクラスである付与調律師でもない限り。
そして、魔法そのものの付与。一般的には、こちらの方がスタンダードだろう。
対象物や人に直接魔法を刻み込んで、効果を与える。いわゆる肉体強化や、魔法剣みたいな使い方ができる。
ただ、複雑な分、魔力の消費も多いし、付与魔法以外の魔法の構築に対しても理解が必要になってくるから、難易度が高い。
一通り――といっても時属性は避けたんだけど、無属性の魔石に魔力を与えてみた。
見事に8色の魔石が出来上がった。
出来上がってしまった……。
時属性のことで頭がいっぱいだったから、すっかり記憶から抜け落ちていた。天属性も魔石は存在しないと、リオナさんが言っていたのに……。
グレー混じりの藍色の魔石を手に、私は遠い目をする。
《鑑定》で状態を確認しても、まごうことなく天属性。
水属性の石に似ているから誤魔化せないかなーとか、これは絶対に表に出したらアカンやつじゃないかとか、思考がぐるぐるする。
アウトなのかセーフなのか、わからない。私のほかに、天属性を与えられる付与術師がいればワンチャンあるか。
しかし、それ以外の魔石は、天然物と遜色ない。
無属性の魔石は、弱い雑魚魔物からも獲れるので、ほとんど価値がないらしく、クズ石扱いらしい。
でも、属性を付与したこれらは、淡く輝いて、とっても目の保養だ。元が無属性とは誰も思うまい。売れるし使えるのでは!?
こんなところに商機が転がってきて、私は小躍りせんばかりにほくそ笑んだ。
リオナさんとヒースさんに、恩を返せそうなものができたのが単純に嬉しい。
こうして、繰り返し魔法を行使してみて気になったのが、注いだ魔力の量に比例して、魔石の色の濃さが変わるという点だ。
「うーん……? 魔力を限界まで注いでみたらどうなるんだろう? あと重ね掛けとかできるのかしら。やってみるか……」
親指と人差し指で魔石を挟んで眺めながら、物は試しだとやってみた。
最初に作った水の魔石に、もう一度付与してみる。
するすると魔力は石に吸い込まれていき、魔石は更に色を濃くする。アクアマリンみたいだった水色が、今はターコイズっぽい濃い浅黄色になっている。
これ、いわゆる充電池として使えそうじゃないかなあ。そういった需要で既に市場に出ているかもしれないから、確認してみよう。
ただ、付与魔法が使えないと意味がないので、もしかしたら埋もれている分野なのかもしれない。
さて、同じ属性であれば、魔力の重ね掛けは問題ないらしい。
じゃあ、逆に別の属性とは競合できるのだろうか?
深く考えずに、私は先ほど新たに作成した火の魔石に対して、水属性を付与してみたところ。
「うわっ!?」
――ぱんっ、と魔石が派手に割れた。
ひえぇ……粉々に飛び散って恐かった。
小さい魔石でよかった。破片が大きかったら、怪我をしていただろう。取り扱いに注意しなければ。
「うーん、水と火は属性として反発するから悪かったのかな?」
また爆発したらやだなあ……とか思いつつも、好奇心には勝てず、相性がよさそうな土の魔石に水属性を付与したところ、やっぱりパーンと盛大に弾けた。
色々組み合わせてみたものの、全部粉々になった。
あまりにも見事に粉砕されるので、最後には段々楽しくなってきた。変にテンション上がっているな。
うん。属性一緒くたに混ぜたらダメ、絶対。
そういう意味だと、何にでも染まれる無属性は万能だ。
あと、魔力を注ぎすぎても破裂したので、何事もほどほどが大事ということだろう。
ほうきと塵取りを片手に、私は机やら床やら、あちこちに飛び散った細かい欠片を集めてせっせと掃除した。
結構な数の魔石をパーンさせてしまったが、実験の成果が出て私はワクワクしていた。失敗は成功の母。たーのしー!
魔力もかなり使った気がするのだけど、減ったなーという実感も疲れもそこまでない。
この辺、鑑定で出てくるステータスには現れない部分だからわかりづらいが、もしかして魔力量とかも異世界転移特典的なチートだったりするのかもしれない。
いや、本当、闇の女神様の加護が地味に手厚くて、何なんだろうね?
そんな風に片づけをしながら考えを巡らせていたところ、大変珍しいことにからんとドアベルが鳴った。
あ。そういえば、昨日までリオナさんが作成していた大量のポーション類を、受け取りにくる人がいるんだった。実験に夢中で、うっかりしていた。
顔を上げると、全く知らない男の人が目を瞬かせて私を見ていた。
おお、私が店番に立ち始めて数日、ようやくヒースさん以外のお客様が見えたぞ!?
「おやおや~? 可愛い娘さんがいる。初めて見る顔だね。こんにちは」
「いらっしゃいませ」
外見は釣り目細目の長身痩躯、抜身の刃っぽいシャープなイメージがあるのに、言葉の軽薄さと笑顔に愛嬌がある青年だ。
こんなに第一印象がちぐはぐな人も、そうそうお目にかかれないのでは。
モテそうな人だなーと瞬時に思った、火遊び的な意味で。
琥珀色の瞳に、茶褐色の長い髪を後ろで縛ってまとめている彼は、冒険者という感じはしない。
私の知る冒険者はヒースさんだけだけど、そういえば立ち居振る舞いが洗練されているからか、あんまり粗野な印象はないんだよね。
帯剣し、かっちりとしたブルーグレーの軍服みたいな衣装を着用した身綺麗な彼は、どちらかといえば騎士のような雰囲気を醸し出している。
「魔女サンはまだ作業中? 急ぎの仕事をお願いした者なんだけど、来るのが少し早かったかな」
「お引き取りの方ですよね。リオナさんからお伺いしていますよ。商品も全部できています」
「ああ、それは助かった。急な話で悪かったが、間に合ってよかったよ。ところで、キミは店員サンかな? この閑古鳥が常に鳴いている魔女サンの薬屋の」
「えーと、ど、同居人ってところですかね?」
「へぇ……魔女サンの同居人。僕がしばらく来ないうちに、いつの間に」
馬鹿正直に最近異世界からやってきました、拾われましたなんて言えるわけもないが、そんなに私の存在って気にされるところだろうか。
いやでも、こんな辺境の地で薬屋を営む魔女の同居人が降って湧いたら、普通に怪しさ満載かもしれない。
押しかけ弟子とかにしたほうが、ましだっただろうか。
まだ異世界の常識が身についていないから、どう答えるのが正解なのかがわからない。
それにしてもこの青年、すっごくにこやかだし言葉も柔らかいのに、肌が妙にぞわぞわ粟立つ感覚がある。
それが何なのか、上手く掴めないのがもどかしい。
柔らかな視線に、その実隙がないからだろうか。じろじろ品定めされるような不躾さを全く感じさせないところが、非常に恐い。
人当たりの良さに騙されそうになるけれど、油断なく観察されているのは気のせいじゃないはずだ。胡散臭いことこの上ない。
騎士っぽいから、職業柄と言われてしまえばそれまでなんだが。
私も過去色々あったから、それなりに人の視線には少々敏感だ。やだなぁ、頬が引きつってしまいそう。
唸れ、大学の時の接客バイトの数々と頭で念じながら、私は妙なプレッシャーに負けじと笑顔を作った。
こういうときは、とにかくとっとと用事を終わらせてしまうに限る。
「ええと、ご注文は、体力外傷回復薬300本と魔力回復薬150本、解毒薬30本でしたよね。こちらにご用意してありますので、ご確認ください」
「ありがとう。確かに。やっぱり魔女サンの作る薬が、一番効くからね~」
水色をしたお薬は、昔ゲームのコラボか何かでコンビニで売られていたポーションそのまんまの感じだった。
マナ・ポーションは薄紫色、解毒薬は黄金色をしている。
リオナさん特製のそれらは、味ものど越しもかなり改良を加えてあり、評判がいいらしい。
その熱量を、どうして自分の食事に活かせないのか。
瓶詰めして封をしてある水薬は、20本ごとに木箱に詰められている。実に480本ともなると、そうそうたる量だ。
近々、演習だの討伐だのでもあるのだろうか。
青年が持参した収納鞄に、店の片隅に堆く積まれている箱を収めていく。
私も及ばずながら手伝った。本当にするっと、小さな鞄に吸収されていくからちょっとビビる。ここで物理法則を言いだすのは、やっぱり野暮なんだろう。
そんなキョドっている姿を、彼に面白そうに眺められた。いたたまれない。
「お代は、いつも通りギルドの口座に振り込んでおくと、伝えてくれるかな?」
「かしこまりました。では、サインをお願いします。こちらが引き渡しの控えになります」
「ありがとう」
さらさらと所定の箇所にサインをいただく。青年の綺麗な字が、紙の上を踊った。
リオナさんが用意してくれていた納品書を渡し、何事もなく納品を終えられてほっと胸を撫で下ろす。
さあ、とっとと帰ってください、と祈ってみたものの。
ペンを置いた途端、流れるような仕草で青年に手を取られ、ちゅと甲に唇を落とされる。
あまりの早業に、私は目を瞬かせた。いや、不意打ち!
「改めて、僕はディランダル・オルクス。ディランと呼んでくれるかな? これから長い付き合いになりそうだし、どうぞよしなに。可愛い同居人のお嬢サン、キミの名前を伺っても?」
にっと細められた瞳の奥には、どこか揶揄の色が見えた。
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