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第3話
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旦那さまになる新たな駐在さんは、名前を「ディルーク」と言うらしい。
ロマンスグレーな駐在さんに窘められつつ、それでも興奮したまま、私の家へ挨拶に行った。
両親は、新たな駐在さんの爬虫類顔を見てギョッとしつつも、私の結婚が決まったことを大いに喜んでくれ、出掛ける準備を整えてくれた。
結婚が決まると、花嫁は一度竜人の住処へと行く。そこで竜人に報告と挨拶、ついで竜人の婚儀を済ませ、その後、町へと移住するのが通例だった。
しかし、怒涛の展開ってこういう事を言うのだろうか?お付き合いの期間を置かなくていいと言ってしまった手前、行きたくないとは言えないのだけど、もう少し落ち着いてからとか……
「さぁ、付いたぞ、我が妻シーラ!」
私は既に、竜人の里の入り口に居た。
「お?ディルークが帰って来たぞ!」
「早過ぎる!」
「アッハッハ!やはり嫁は望めなかったか!」
竜人は大きい。背がひょろりと高い。そのせいで後ろに居た私が見えていないらしい。私も女性にしては背の高いほうだったのだけれど、竜人さんとは比べ物にならない。
しかし、この言われようは……
ディルークさんは竜人の里でもモテない人だったっぽい?
「何を言うか!我は嫁を貰い受けたぞ!」
「なんだと!?お前が!?」
ぞろぞろと、竜人が私たちの傍に集まり、ジロジロと見られる。私は、フードを目深に被るように言われていたので、こっそりと仰ぎ見たのだけど、爬虫類の群れだー!
いや、爬虫類っぽい顔の人の群れ、だった。
変身していない竜人を見るのは初めてだったけど、ほぼ人と変わらないらしい。
顔は爬虫類じみているけど、肌が鱗に覆われているわけでもないし、手足も普通。あ、爪が黒々として長い。あと、耳が無い。あ!尻尾がある!
「見せろ!お前なんぞの嫁になるなんて、どんな娘だ!?」
「ならぬ!お前等なぞに見せたら大変なことになる!」
な、何が起こるって言うの!?
私の不安をよそに、ディルークが私の手を引いて、里の奥まった家へと入る。もちろんその後ろに興味深げな竜人さんの群れが出来ていた。
「父よ!我は妻を得た!婚儀を頼む!」
「ぶぅっ!!」
のんびりお茶をしていたらしい。
「な、なんだと!?」
厳つい爬虫類顔の竜人さんが、思わずお茶を噴出し、椅子から勢いよく立ち上がった。
「まさか、お前が!?」
なんだか、物凄く不安になる。そんなに欠陥の多い人なんだろうか、私の夫になる人は……
「顔を…顔をよく見せてみよ……」
フラフラと近づいてきたディルークのお父さんが、そっと私のフードを降ろし、愕然とした顔になった。
「う……」
また「う」?そりゃ、自分がブスだってことはわかってるけど……
「お前、本当にこの娘が…お前の妻になると!?」
私の顔と、ディルークの顔を交互に見比べる。
「そうだ!信じられぬだろう!?我も、信じられぬ思いだった!」
本当に信じて貰えてなかった。町と竜人の住処までは、徒歩で二時間ほど掛かる。その間ずっと「我でいいのか?」と言われ続けていたから。
「こんな……こんなにも美しい娘、竜人の里にもおらぬぞ!!」
その言葉に、今度は私が驚く番だった。
「ともかく、早く婚礼の儀を済ませたい。先に、シーラを見せてしまっては、どうなることか」
ディルークと、お父さんで族長さんだと言う、ラディシャさんが顔を突き合わせて話をしている。
「うむ、お前に代わり駐在をと言うものが多く現れそうだ。確実に決闘になる」
思わず、心の中で「おいおい」と思ってしまう。
私は、あの後出てきた、ディルークの母親アーシャさんに、髪を結われていた。
「本当に、人間の中にこんなにも美しい子がいるなんてねぇ」
アーシャさんが思いっきり私の髪をひっつめる。
「顔ばかりじゃないわ…この浮き出た背骨と頚椎の美しいこと……」
正直、竜人の感性が理解出来ない。私がブスな所以である、瞳を、鼻を、唇に、尖った顎を一頻り褒めると、今度は浮き出た鎖骨の形がいいとか、大きなししおきが魅惑的だとか……
「この背骨を見た男どもの涎を垂らして呆ける顔が浮かぶわ」
おかしそうに笑って、髪を高くに括られた。
「母よ!そんなにシーラの魅力を高めてくれるな!」
ディルークが慌ててアーシャさんの元に詰め寄り、私を見て「うっ」と呻った。
また「う」だ。
「美しい……」
なんだか、背中がぞわりとする。家族ぐるみで謀られているのか?と疑いたくなるほど、美しいという言葉を連発されて、慣れていないからか、体が拒否反応を示している。
「なにを言うのです。これほどまでに美しい子が私の娘になるのですよ?見せびらかしたくなると言うもの。さぁ、髪はこれでいいわ。シーラ、これに着替えてきて頂戴」
渡された服は、竜人の花嫁衣裳。事態についていけなくて、為すがまま、されるがまま、私は着替えを済ませた。
『…………』
出てきた私を、三人が呆けた顔で見つめる。
花嫁衣裳は、真っ白な薄い、体のラインをこれでもかと言わんばかりに強調したドレス。そのせいでコンプレックスの大きなお尻は目立つし、スリットがかなり大胆に入っているため、ぶっとい太股も露になっている。背中はぱっくりと空いて、鶏がらのように骨が浮き出でいるのもまるわかり。髪は上に結わえさせられているから隠しようも無い。ジャラジャラと胸元、腰、腕を飾る装飾品が驚くほどに重い。
そんな私を見て、固まったままの三人。
「いいい、急ぎ婚礼を挙げてしまおう」
「それがいいわねぇ。若い子たちに見つかったら、血を見ることになりそうだわ」
「うつっ…うつくっ……うつっ……」
やっと喋ったかと思えば、焦るラディシャ、おっとりと怖ろしいことを言うアーシャ、壊れた蓄音機のように「うつうつ」を繰り返す夫になる人ディルーク。
本当に、私騙されているんじゃないわよね?
ロマンスグレーな駐在さんに窘められつつ、それでも興奮したまま、私の家へ挨拶に行った。
両親は、新たな駐在さんの爬虫類顔を見てギョッとしつつも、私の結婚が決まったことを大いに喜んでくれ、出掛ける準備を整えてくれた。
結婚が決まると、花嫁は一度竜人の住処へと行く。そこで竜人に報告と挨拶、ついで竜人の婚儀を済ませ、その後、町へと移住するのが通例だった。
しかし、怒涛の展開ってこういう事を言うのだろうか?お付き合いの期間を置かなくていいと言ってしまった手前、行きたくないとは言えないのだけど、もう少し落ち着いてからとか……
「さぁ、付いたぞ、我が妻シーラ!」
私は既に、竜人の里の入り口に居た。
「お?ディルークが帰って来たぞ!」
「早過ぎる!」
「アッハッハ!やはり嫁は望めなかったか!」
竜人は大きい。背がひょろりと高い。そのせいで後ろに居た私が見えていないらしい。私も女性にしては背の高いほうだったのだけれど、竜人さんとは比べ物にならない。
しかし、この言われようは……
ディルークさんは竜人の里でもモテない人だったっぽい?
「何を言うか!我は嫁を貰い受けたぞ!」
「なんだと!?お前が!?」
ぞろぞろと、竜人が私たちの傍に集まり、ジロジロと見られる。私は、フードを目深に被るように言われていたので、こっそりと仰ぎ見たのだけど、爬虫類の群れだー!
いや、爬虫類っぽい顔の人の群れ、だった。
変身していない竜人を見るのは初めてだったけど、ほぼ人と変わらないらしい。
顔は爬虫類じみているけど、肌が鱗に覆われているわけでもないし、手足も普通。あ、爪が黒々として長い。あと、耳が無い。あ!尻尾がある!
「見せろ!お前なんぞの嫁になるなんて、どんな娘だ!?」
「ならぬ!お前等なぞに見せたら大変なことになる!」
な、何が起こるって言うの!?
私の不安をよそに、ディルークが私の手を引いて、里の奥まった家へと入る。もちろんその後ろに興味深げな竜人さんの群れが出来ていた。
「父よ!我は妻を得た!婚儀を頼む!」
「ぶぅっ!!」
のんびりお茶をしていたらしい。
「な、なんだと!?」
厳つい爬虫類顔の竜人さんが、思わずお茶を噴出し、椅子から勢いよく立ち上がった。
「まさか、お前が!?」
なんだか、物凄く不安になる。そんなに欠陥の多い人なんだろうか、私の夫になる人は……
「顔を…顔をよく見せてみよ……」
フラフラと近づいてきたディルークのお父さんが、そっと私のフードを降ろし、愕然とした顔になった。
「う……」
また「う」?そりゃ、自分がブスだってことはわかってるけど……
「お前、本当にこの娘が…お前の妻になると!?」
私の顔と、ディルークの顔を交互に見比べる。
「そうだ!信じられぬだろう!?我も、信じられぬ思いだった!」
本当に信じて貰えてなかった。町と竜人の住処までは、徒歩で二時間ほど掛かる。その間ずっと「我でいいのか?」と言われ続けていたから。
「こんな……こんなにも美しい娘、竜人の里にもおらぬぞ!!」
その言葉に、今度は私が驚く番だった。
「ともかく、早く婚礼の儀を済ませたい。先に、シーラを見せてしまっては、どうなることか」
ディルークと、お父さんで族長さんだと言う、ラディシャさんが顔を突き合わせて話をしている。
「うむ、お前に代わり駐在をと言うものが多く現れそうだ。確実に決闘になる」
思わず、心の中で「おいおい」と思ってしまう。
私は、あの後出てきた、ディルークの母親アーシャさんに、髪を結われていた。
「本当に、人間の中にこんなにも美しい子がいるなんてねぇ」
アーシャさんが思いっきり私の髪をひっつめる。
「顔ばかりじゃないわ…この浮き出た背骨と頚椎の美しいこと……」
正直、竜人の感性が理解出来ない。私がブスな所以である、瞳を、鼻を、唇に、尖った顎を一頻り褒めると、今度は浮き出た鎖骨の形がいいとか、大きなししおきが魅惑的だとか……
「この背骨を見た男どもの涎を垂らして呆ける顔が浮かぶわ」
おかしそうに笑って、髪を高くに括られた。
「母よ!そんなにシーラの魅力を高めてくれるな!」
ディルークが慌ててアーシャさんの元に詰め寄り、私を見て「うっ」と呻った。
また「う」だ。
「美しい……」
なんだか、背中がぞわりとする。家族ぐるみで謀られているのか?と疑いたくなるほど、美しいという言葉を連発されて、慣れていないからか、体が拒否反応を示している。
「なにを言うのです。これほどまでに美しい子が私の娘になるのですよ?見せびらかしたくなると言うもの。さぁ、髪はこれでいいわ。シーラ、これに着替えてきて頂戴」
渡された服は、竜人の花嫁衣裳。事態についていけなくて、為すがまま、されるがまま、私は着替えを済ませた。
『…………』
出てきた私を、三人が呆けた顔で見つめる。
花嫁衣裳は、真っ白な薄い、体のラインをこれでもかと言わんばかりに強調したドレス。そのせいでコンプレックスの大きなお尻は目立つし、スリットがかなり大胆に入っているため、ぶっとい太股も露になっている。背中はぱっくりと空いて、鶏がらのように骨が浮き出でいるのもまるわかり。髪は上に結わえさせられているから隠しようも無い。ジャラジャラと胸元、腰、腕を飾る装飾品が驚くほどに重い。
そんな私を見て、固まったままの三人。
「いいい、急ぎ婚礼を挙げてしまおう」
「それがいいわねぇ。若い子たちに見つかったら、血を見ることになりそうだわ」
「うつっ…うつくっ……うつっ……」
やっと喋ったかと思えば、焦るラディシャ、おっとりと怖ろしいことを言うアーシャ、壊れた蓄音機のように「うつうつ」を繰り返す夫になる人ディルーク。
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